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EPISODE13 〝残酷〟

*登場人物

水守千景・・・ 高校2年生 / 無能力者

神崎朔弥・・・ 24歳 / 封師殿・異邦尋問官 / 火能者


佐藤洸・・・ 異邦尋問官 / 責任者 / 全能者


水守真央・・・ 千景の母親 / 水能者

壁に埋め込まれた黒いモニターが

ゆっくりと明滅を始めた。

千景は息を呑み硬直したまま画面を見つめる。


最初は砂嵐のようなノイズ。

やがて色がにじむようにして映像が浮かび上がった。


──家だった。

見慣れた自分の部屋。


千景「……え……?」


古いカーテン

机の上の散らかった本

ベッドの端に置きっぱなしのカーディガン。

すべてが現実と変わらない。


そして映像の中の扉が開く。

母がゆっくりと入ってきた。


母「千景、ごはんよ」


呼ばれた声があまりにも自然で

思わず立ち上がりそうになる。


でも──


次の瞬間モニターの母の表情がゆっくりと崩れた。

まるで仮面が割れるように

笑顔がゆがみ瞳が真っ黒に染まっていく。


千景「……っ!」


〈落ち着いて、思い出せ〉


低い電子音の声が響く。


千景(……これは…………試験……??)


ノートの文字が頭に浮かぶ。


──信じるものを、忘れないで。


千景は両手を握りしめ

母の鼻歌を心の中で必死に繰り返した。

すると画面の中の“母”が

何かに弾かれたように後ずさる。

ノイズが走り映像が途切れる。


部屋に再び静寂が訪れた。


千景「……はぁっ……はぁ……」


膝が震える。ただの映像。

わかっていても

心臓はずっと早鐘を打ち続けていた。


そのとき壁のスピーカーから別の声がした。

無機質な電子音ではなく低く落ち着いた男の声。


「よく、耐えたな 」


神崎朔弥の声だった。


朔弥side


暗い観察室に座っていた。

薄暗い部屋には複数のモニターが並び

それぞれに被験者の部屋が映し出されている。

その中で自分の担当──

千景の部屋だけを凝視する。


画面の中で少女は膝を抱え

母の幻影に怯えながらも声を殺して耐えていた。


この部屋に入れられて48時間を超えた者は

ほとんどが精神を崩し声を上げてしまう。

それをした瞬間、別室送りが決定しその多くは

──戻ってこない。


だからこそ気づけば口に出して言っていた。


朔弥「よく、耐えたな 」


マイクを切った後

朔弥は椅子にもたれ長く息を吐く。


朔弥(……5日目か)


自分の仕事に誇りはある。

異邦者を管理し

更生させ人々に安心を与えるのが自分の役目だ。


けれど


朔弥(……こんなやり方でしか守れないのか?)


モニターに目を戻すと

千景がわずかに震える肩を抱え

それでも声を出さずに耐えている。


朔弥(……頼む、ここを乗り切れ)


心の中だけで祈るように、彼は手を握りしめた。


しばらくモニター越しに

彼女の様子を見守るが静かに息をするだけ。


「……やるな。」


低い声が背後からした。

振り向くと佐藤尋問官が観察室に立っていた。

年齢不詳の鋭い目がモニターを一瞥する。


佐藤「これで5日目か?」

朔弥「……はい。まだ持ちこたえています。」


朔弥は姿勢を正す。

佐藤は無表情のまま腕を組み

映像の少女をじっと見つめた。


佐藤「このままいけば更生プログラムに回せるな。

だが……なぁ??どう思う。」


唐突な問いに朔弥は息を呑んだ。

一瞬、言葉を選んでから口を開く。


朔弥「……正直に言えば、少し違和感があります。

……生きようとしている。

それにまだ彼女は16歳です。……本当に

これでいいんでしょうか。」


佐藤の鋭い視線が横から突き刺さる。

次の言葉が出なくなる。


佐藤「……お前は甘いな、神崎。」

朔弥「……っ……」


佐藤「生かすか、殺すかじゃない。

ここは生き残った者だけが出られる場所だ。

俺たちのやり方に迷いがあるうちは

いつかお前自身を潰すぞ。」


その言葉を残し佐藤は踵を返す。

重い扉が閉まり再び静寂が訪れた。


モニター越しの彼女はまだ小さく膝を抱えている。

朔弥は拳を握りしめ、心の奥に沈む問いを

言葉にできないまま飲み込んだ。

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