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物怪師  作者: 松風絢音
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ニチジョウノオワリ

世界が紅い、、、

私には、家族がいない。

名前も、顔も、記憶もない。

思い出そうとすると頭に霧がかかる。

何故だろうか?

どうしても思い出せない。

羽沢奈帆、それが私の名前。

高い位置に黒で毛先が青く長い髪を括り、赤いリボンで留める。

吊り目の青い瞳には視力が悪いからコンタクトを入れてる。それが私の見た目。


私の毎日は至って普通である。

飽き飽きしてしまうほどに。

今日も竹刀袋を担いで高校から家まで歩いていく。

17にもなれば片道に40分掛かる道のりも慣れるものである。

見慣れた町並み、交差点、錆びた街灯、同じ制服。

はっきり言えば、退屈なのだ。

もっとこう、私の心を満たすスリルが欲しい。

ホラー映画とか、スプラッタ映画とか、そんなんじゃ物足りない。

もっと実際に人が泣き叫ぶ様なものが良い。

今日は雨だ。

雨は好きだった。

いつもとは違う物を見ることができるから。

今日はどんなものが見れるのかな?

ちょっとしたスリルが欲しい所である。

例えば視界が悪い中、前を見ると、


目の前で人が喰われているとか、、、


「え、、、?」

摩訶不思議。

人が喰われる漫画とかアニメはたくさん見てきた。

寧ろ一番よく見たジャンルである。

少年が鬼を倒す物語とか、巨人が侵攻してくる物語、、、。

どちらも大好きな漫画だ。

でも、それが令和の世、日本で、それも目の前で起きている。

思わず傘を落としてしまった。

制服の色が一瞬で濃くなる。

幸い化け物はこちらに気づいていない。

こう言う場合、どこに相談すればいいのだろうか?

警察?病院?それとも特殊機関?

そうこうして迷っているうちに化け物がこちらに気づいた。

どうやら食い終わって新たに餌を探しているらしい。

血色の双眼が私を捉えた。

嗚呼、私、喰われるんだ。

さっきの人みたいに頭からバリバリとそのまま。

化け物が血で真っ赤に染まった口を開いた。

つまらないB級スプラッタ映画よりもグロい口の中。

誰かの髪の毛が舌や歯の至る所に絡みついている。

「うぇ、キッショ」

思わず口からそう零れた。

他人が死ぬのを見るのはさほど怖くは無いが、いざ自分が死ぬとなると矢張り恐怖が出てくる。

どうせなら一瞬で殺して欲しいな。

その鋭い牙で首を砕いてくれれば、、、。

化け物の手が私に伸びてくる。

あ、今日漫画の新刊出るじゃん。

読みたかったな、、、。

竹刀に手を伸ばす気概もなく、ただ自らの死を待った。

頬に何か飛沫が付いた。

私の血かな?

今付着してるのは動脈血?静脈血?

でも、それにしちゃ痛みがない。

あれ?

私もう死んでる?

思わず目を開いた。

次に視界に飛び込んできたのは、肉の切断面。

骨と筋肉がガッツリ見えた。

へぇ、人間の身体ってこんな構造してるんだ。

いや、違う。

人間じゃない。

この黒い腕と異様なほど尖った爪の形は、、、

さっきの化け物の手だ。

目の前に人が立っている。

その人は陰陽師が着る様な服を身に付けていた。

黒い袴に黒い狩衣?の様なもの。

彼は薙刀を構えていた。

どうやらソレで化け物の腕を切り落としたらしい。

「うわ、銃刀法違反。」

警察呼ばないと。

「五月蝿いなぁ!」

彼が振り返る。

切れ目で大きな赤い瞳に銀縁の眼鏡を掛けている。重めの黒い前髪、後ろの少しだけ長い髪が跳ねている。毛先は鮮やかな赤色。

整った顔立ちをしている少年だ。

年は、私と同じくらいか?

彼は口を開く。

「政府公認だから別にいいんだよ!」

わお!見かけによらず口調の強いこと。

まぁ、人は見かけによらぬものって言うし。

「こいつを今から祓う。」

「結構気持ち悪いからそうゆうのが嫌なら目を瞑るか後ろを向いてろ。」

その答えは勿論。

「直視させて頂きまぁす!」

せっかく非日常のシーンが見れるんだ。

そんな機会を逃すわけなかろう。

「そ、そうか、、、」

あれ、なんか引かれた?

グォォォォォッ!

化け物が咆哮を上げる。

その瞬間、彼は跳んだ。

爆ぜる様に速く、そして舞っているように美しく。

まるで炎を見ている様だった。

炎は見た目だけなら豪快に見えるかもしれない。

しかし、実際は静かに燃え進んで確実に獲物を蝕む。

赤い派手な光を放ちながら。

その矛盾がまさに彼の様に見えた。

次の瞬間、化け物の首に赤い閃光が走った。

一瞬、世界が止まった。

呼吸も、心臓も、血の流れも、時の流れをも

全てを置き去りにした。

人間の五倍は有ろう頸が、ずるんと落ちた。

すかさず彼は札を投げた。

その札が頸と離れた胴に張り付く。

「壊!」

そう唱えた瞬間、化け物の身体は砂へと変わった。


全てが終わると、彼は手を合わせた。

亡くなった方への供養だろうか?

そして、こちらは向き直る。

「お前、見ただろ?」

確かに見た。

この目で。

永遠とも思えるほど幻想的な時間を確かに過ごした。

「はい」

迷わず答える。

「俺ら物怪師は政府公認とは言え、秘密裏だ。」

「物ノ怪の存在も俺らの存在も関係ない奴に知られちゃいけねぇんだよ。」 

物ノ怪。

さっきの化け物の事か。

なるほど。

つまり直訳してしまえば

「私に付いてこいと言うわけですね?」

「そうだ。」

良いじゃないか。

あの化け物の真相を知りたい。

非日常を味わいたい。

どうせ家族はみんな居ないんだ。

誰も引き止めやしない。

良いだろう。

私の人生。

「全てお前たちに捧げてやる。」

私は思わず、獲物を見つけた獣のような目で言ってしまった。

多分、私は不気味に笑っている。

それを見た彼は、一瞬ゾクッとした様な笑みを浮かべた。

まるで悦んでいるような、うっとりとした笑みだった。

「へぇ、お前面白いな。」

「そりゃどうも。」

彼は笑って続ける。

「気に入った。お前、名はなんと言う?」

私は迷わずに云ってやった。

「奈帆。」

「なほ?」

私の名前は、、、

「羽沢奈帆。17歳だ。」

人生で初めてだ。

こんなに自信を持って自分の事を言ったのは。

「奈帆か。」

「俺の名前は、秋瀬健斗。歳は17だ。」

歳は矢張り同じだ。

「それでは、付いてきてもらうぞ。」

「はいはい」

私の日常は突如として終わりを迎えた。


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