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 エリシアとオレは、2人と合流した。

 先ほどまでのやり取りが嘘のように、今は真剣な作戦会議の空気が流れている。


「まずは、神の存在を探る必要があるな」


 オレがそう切り出すと、ノワールが退屈そうに唇を歪めた。


「あら、神様を探すなんて、まるで狂信者みたいじゃない?」


 くすりと艶やかに笑いながら、彼女は長い黒髪を指先で弄ぶ。その仕草には余裕すら漂っていた。


「そもそも、見たこともない神様を……どうやって探すつもりなのかしら?」


「そ、それは……!」


 エリシアが口ごもる。だがすぐに気を取り直し、強い口調で言った。


「でも、神の影響は確実にあるんだからっ! 勇者のこととか、運命の力とか……!」


「だけど、探すとなるとな……」


 オレがため息をつくと、ヴェルゼリアは静かに微笑んだ。


「心配には及びません。神の影響はすでに顕著に表れ始めています」


「えっ?」


 エリシアが驚いたように目を瞬かせる。


「どういうことだ?」


 オレが問い返すと、ヴェルゼリアは優雅に瞳を細め、穏やかな声で言う。


「定められた運命が狂い始めた以上、神は次の一手を打つはずです」


 その言葉に、ノワールがふふっと唇を吊り上げた。


「ふぅん……つまり、私たちはじっと待っていればいい、ってこと?」


 ヴェルゼリアは静かに頷く。


「えぇ……まさに——」


 その瞬間——。


 空が裂けた。


 轟音とともに眩い光が天から降り注ぐ。

 それは柱のように膨れ上がり、やがてオレたちの目の前に形を成した。


「誰か……いる!?」


 エリシアが目を見開く。


 そこに、『それ』が立っていた。


 白銀の鎧をまとい、顔を仮面で覆った白翼の存在。

 まるで機械のように整然とした動作で、オレたちを見下ろしている。


「来ましたね……裁定者(アービター)


 ヴェルゼリアが冷静な口調で呟いた。


裁定者アービター?」


 オレが眉をひそめた瞬間、その存在は静かに口を開いた。


「レオン・シュヴァルツ、ノワール・ルーンハイト、エリシア・ルミエール、魔王ヴェルゼリア——」


 名前を呼ばれた瞬間、背筋に氷の刃を突きつけられたような感覚が走る。


「!!!」


「汝らは『定められた運命』に背いた。よって、神の名のもとに裁きを下す」


 ノワールは妖艶な笑みを浮かべながら、オレに小声で囁いた。


「……ねぇ、レオン。私たち、とっても悪いことしちゃったみたいよ?」


「オレには、あいつのほうが悪役みたいに見えるけどな」


「やっぱりあんた……おもしろい」


 彼女はクスクスと楽しそうに笑うが、その爪にはすでに闇の魔力が宿っている。


 オレはヴェルゼリアからプレゼントされた剣を握りしめ、彼女に確認する。


「こいつがオレたちの敵……神なのか!?」


 ヴェルゼリアの黄金の瞳が静かに細められる。


「いいえ……裁定者は神そのものではありません」


「じゃあ、こいつは一体何なのよ!?」


 エリシアが眉を吊り上げ、警戒を露わにする。


「裁定者は『世界の異変』を修正するための存在。いわば、『神の代行者』……『シナリオの監視者』です」


 オレは息を呑んだ。


「……つまり、オレたちは『世界の異常』として認識されたってことか!!」


 裁定者の仮面の奥から、冷徹な声が響く。


「誤りは修正される。運命は……神の意志のままに」


 裁定者は剣を抜き、静かに構える。


「運命に逆らう者に――死を」


 次の瞬間、裁定者の剣が閃いた。


「っ……!」


 オレは反射的に跳び退く。だが、その軌道は空間そのものを歪めるように広がり、背後の大地を大きく裂いた。


「な、何だこの攻撃……!?」


 珍しくノワールが迎撃体勢をとり、艶やかに微笑みながら低く呟いた。


「……これは、単なる物理攻撃じゃないわね。攻撃そのものを『システム』に干渉させているみたいね」


「どういうことだ?」


「この世界のルールそのものを変えるような力……まるで“管理者権限”のような感じかしら」


「そんなのズルじゃない!?」


 不満げなエリシアに、ヴェルゼリアが静かに説明する。


「裁定者は“世界のバグ”を修正する存在。私たちは神の目から見れば“異常”……ですから、強制的に削除しようとしているのです」


 その言葉の通り、裁定者は機械的に言葉を紡いだ。


「汝らの存在は、定められた“運命”に不要。世界のバランスを守るため——抹消する」


 次の瞬間、裁定者の剣が光を帯びた。


「来るぞっ……!」


破滅の閃光(ルイン・フラッシュ)


 剣から放たれた光が直線状に走る。


 オレは剣を構え、ギリギリのところでその一撃を受け流した。しかし、その攻撃は尋常じゃない重さを持っている。


「ぐっ……!」


 全身に巨大な岩を叩きつけられたような衝撃が走り、腕がしびれる。


 ――こいつ……攻撃の威力が異常だ……!

 これが……システムに干渉させた力!?


 自分の剣を見ると、少し刃こぼれしている。

 ヴェルゼリアにもらった剣じゃなきゃ……今ので折れていたかもしれない。

 まともに受け続ければ、この剣もいずれ折られる。


 そんなオレの横を、ふわりと黒い影が通り過ぎた。


「随分と荒っぽいじゃない。こんなことされたら、私の美しい肌に傷がついちゃうわ」


 ノワールが艶然と微笑みながら前に出た。


「少しは優しくしてもらえるかしら?」


 彼女が手をかざすと、闇の中から無数の黒い蝶が舞い上がる。


闇蝶の舞(ナイト・バタフライ)


 蝶たちは魔力を帯び、裁定者の周囲を包み込んでいく。そのまま裁定者の身体に触れ……一気に爆ぜた。


 だが——。


「無意味」


 裁定者はまるで爆発すら存在しなかったかのように、剣を一閃する。

 蝶たちの巻き起こした煙は一瞬で霧散した。

 ノワールの攻撃は、奴にあっさりと無効化されたのだ。


「ちょっと……手強いわね」


 ノワールは笑みを浮かべたままひらりと後退する。


 ——その瞬間。


「隙あり!!」


 エリシアが一直線に駆け出した。


聖撃の槍(セイント・スピア)!!」


 空間に展開された魔法陣から眩い光の槍が放たれた。それは鋭く伸び、裁定者の胸を貫かんとする——が。


「無駄」


 裁定者はまったく動じることなく、剣をわずかに振っただけで光の槍を粉砕して見せた。


「なによ、あれっ……!?」


 エリシアの瞳が見開かれる。


「汝らの力は、運命の理には届かぬ」


 裁定者が剣を構え直し、エリシアへと刃を向ける。


「やばっ——」


 だが、そのとき。


魔王の盾(デモンズ・シールド)!!」


 赤黒い魔力が瞬時に展開し、裁定者の剣を阻んだ。


 ヴェルゼリアの魔法が、エリシアを守る。


「エリシア、無茶をしないでください」


「ありがとう……ヴェルゼリア」


 ヴェルゼリアは静かにエリシアの前に立つ。


「裁定者は、あらゆる干渉を拒絶する“神の代行者”。単純な攻撃では傷すらつかない……ですが——」


 彼女は黄金の瞳を細める。


「世界の“法則”に干渉するなら、同じ領域に手を伸ばせばいいのです」


 その言葉と同時に、ヴェルゼリアの周囲に黒い魔法陣が幾重にも展開された。


「……私が、何も対策を考えていなかったと思いますか?」


 ヴェルゼリアの魔力が――爆発的に膨れ上がっていく!!!


「へえ、ヴェルゼリア……やるわね」


 ノワールが感心したように息をのむ。


魔王の領域(デモンズ・ドメイン)!!」


 赤黒いの波動が大地を覆い、裁定者を飲み込んだ。


「……この力は……?」


 この戦闘で初めて、裁定者がわずかに動きを止めた。


「すごい……!!!」


 エリシアが驚きの声を上げる。


「ヴェルゼリア、何をしたんだ!?」


 オレが叫ぶと、ヴェルゼリアは静かに答えた。


「神が作り出した法則を、一時的に無効化しました」


「なんだって……?」


「この空間では、神の加護による無敵性は失われます。これで……届くはずです」


「……すげえ。これで、あいつを普通に斬れるってことか……!」


 期待に震える腕で剣を握り直すオレの前で、裁定者は静かに顔を上げる。


「ならば、神は……これを許さぬ」


 次の瞬間——。


 裁定者の体が揺らぎ、仮面が黄金に輝く。


 同時に、周囲の空気が歪んだ——。


運命の逆転(リバース・フェイト)……」


 裁定者の機械的な声が不気味に響いた。

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