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「……ヴェルゼリア、お前は何を考えている?」


 オレは慎重に問いかけた。


 目の前に立つ魔王ヴェルゼリア――人類の敵としてもっとも恐れられた存在。

 歴代最強の魔王と謳われる彼女は、圧倒的な魔力を放ちながらも、どこか穏やかで、優雅な佇まいを崩さない。

 

 その姿はとても悪とは結びつかない。

 まるで……清廉な淑女を相手にしているような感じすらある。


 だが、決して油断はできない。

 魔王に今のところ敵意は無い。

 オレたちに和平と協力を求めてきているくらいだ。

 

 とはいえ、オレの知らない情報を持っているのは確かだ……。


 彼女の真意を探るべく、オレはじっとその黄金の瞳を見据えた。


 ヴェルゼリアはゆっくりと微笑む。


「さきほどゼルヴァから聞いたと思いますが……私が求めているのは皆さんとの『共存』です」


 彼女の言葉が響いた瞬間、静寂が広場を支配した。


 誰もが息を呑み、ただ魔王ヴェルゼリアを見つめる。


 てっきり、ゼルヴァ個人の意見かと思ったが、本当に魔王の意思だったとは。


 魔族が人間と共存を望んでいる。

 これをそのまま信じて良いのだろうか。

 

 だが、本当ならば未来は確実に変わる。


 村人たちの間に広がるざわめきが、冷たい風に乗って耳を打つ。

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 恐怖、疑念、そしてわずかな希望が入り混じった声が、低く響いていた。


「……どういうことだ?」


 オレが問い返すと、ヴェルゼリアはゆっくりとした動作で口元に指を添え、微笑んだ。


「私は以前、魔族と人間の争いを止めようとしました。しかし——この世界の"神"がそれを許さなかったのです」


 夜のひんやりとした空気が頬を撫でる。


「……神が?」


 オレの問いに、ヴェルゼリアは静かに頷く。


「この世界は"プログラム"によって管理されています。そして、そのプログラムは、勇者が勝ち、魔王が滅びるという不変のシナリオを定めているのです」


 その言葉に、オレは息を呑んだ。


 ——ヴェルゼリアも、この世界の仕組みを知っている。


 それが意味するのは、この"運命"に抗おうとしているのがオレだけではない、ということ。


「……つまり、()()()()神に逆らうつもりなのね?」


 ノワールは豊かな胸の前で腕を組み、紅い瞳でヴェルゼリアを睨む。その眼光はいつになく鋭い。


「ええ。そのおかげで……私は最近まで封印されていたわけですが」


 ヴェルゼリアは涼しげに答えた。


「……封印?」


 オレは眉をひそめる。


「この世界の理を乱す者は、排除される運命にあるのです。……確か、同じ目に遭った方がいると記憶していますけれど?」


 ヴェルゼリアの視線がノワールに向けられる。


「あら……どこかで聞いたような話ね」


 ノワールは鼻で笑いながらも、警戒の色を隠さなかった。


 ——ヴェルゼリアが神に封印されていただって?

 ならノワールも……神に封印されていたってことか?


 まるでこの世界の"シナリオ"にとって、彼女たちは異物だったとでも言うような話だ。


「でも、和平交渉ならこの国の王とするべきじゃないのか?」


 オレが疑問をぶつけると、ヴェルゼリアは「ふふ」と小さく笑った。


「王……ですか」


「当然だろ? この国の代表はオレじゃない。王なんだ。話をつけるなら、まずは——」


「その王が、神の傀儡だとしたら……どうです?」


 ヴェルゼリアの声が静かに響いた。


「……何?」


「私は、かつてこの国の王と和平を結ぼうとしました。しかし、彼は私を裏切ったのです。そして私は封印されたのです……神の意志によって」


 彼女の黄金の瞳が、淡く冷たい光を宿す。


「途中まで協力的だった王が、なぜ裏切ったのか。当時の私にはわかりませんでした。……私は封印されている間に理由を考えていました」


「……」


「神がシナリオを守るために、この世界の運命を操るのなら——王もまた、神の操り人形である可能性があるのです」


 風が、微かに冷たくなった気がした。


「ですから、王は信用できません。私はあなたに頼ることにしたのです。レオン様」


 ヴェルゼリアは一歩、オレに近づく。


「あなたは、この世界の運命を変える力を持っています……そこの彼女と同じか、あるいはそれ以上に」


 ヴェルゼリアはちらりとノワールを見た後で、オレに向き直った。

 

「……さっきも言っていたが、どういう意味なんだ?」


「あなたの周りの“決められた結末”は崩れかけています。それは、レオン様の働きかけによるものですよね?」


 ヴェルゼリアの視線は、優しいものだったが力強さを感じさせる。


「私は『運命』という鎖に、黙って縛られるつもりはありません。それにはレオン様の力が必要なのです。それに……」


 ヴェルゼリアは言葉を切り、オレをじっと見つめる。


 黄金の瞳が静かに揺れる。


 ――なんだ?


「私は、レオン様に心を奪われてしまいした」


 ――!?


 広場にいた全員が、まるで時間が止まったかのように凍りついた。


「……は?」


 オレは思わず聞き返す。


 ヴェルゼリアの真剣な眼差しに、一瞬思考が追いつかなくなる。


「ちょっと!? それって、どういう意味!?」


 ノワールが最大限の警戒を取る。


 心を奪われた、だって?

 今までの会話から察するに、彼女は賢い人物だ。

 おそらく、言葉通りの意味じゃない。


 つまり、オレの何かが、魔族の王であるヴェルゼリアの気を引いたということ。

 オレが神に目をつけられているという暗示か……それとも――。

 まさか、オレを神への生贄として差し出そうとでも言うのか?


 ゲームにおける魔族の狡猾さを思い出して、身構える。

 ヴェルゼリアの清楚な雰囲気で忘れかけていたが、相手は魔族。

 しかも最強最悪の魔王だ。

 

 彼女……本当は何を欲しているんだ。


「レオン……」


 勇者の隣にいたエリシアも、息を呑んでオレを見つめていた。


 ヴェルゼリアは、あくまで冷静なまま、しなやかに微笑む。


「安心してください。言葉通りの意味ですよ」


 オレをじっと見つめる黄金の瞳は、どこか愉しげで、それでいて真剣だった。


「レオン様はこの世界の常識にとらわれず、真実を見抜こうとする。そして、どんな相手にも手を差し伸べる優しさもある……そんな姿に、私は心を動かされました」


 ——マジで??


 それって、普通に惚れたっていう話になるのか?

 冗談みたいな話だが、ヴェルゼリアの目は本気だ。


 オレが何も言えずにいると、彼女は静かに一歩踏み出した。

 黄金の瞳でオレをまっすぐに見つめながら言う。


「レオン様、どうか私と共に『神』に抗ってください」


 彼女の声は静かで、だが確かにこの場の空気を支配していた。


「……」


 オレはしばし黙考する。


 ヴェルゼリアは確かに危険な存在だ。

 けれど、彼女の言うことには理がある——何より、敵に回すほうが遥かに危険だ。


 そして、オレ自身も『運命』とやらに従うつもりはない。


「……わかった」


 そう言った瞬間、ヴェルゼリアの表情がふわりと緩んだ。


「ふふ……嬉しいです」


 彼女はすっと距離を詰め、オレの手を取る。


 その仕草は優雅で、そしてどこか……甘美だった。


 「ちょ、ちょっと!?」


 エリシアが慌てて間に入ってくる。


 ……?


 違和感があった。


 エリシアは運命によって洗脳にも近い操作を受けていたはずだ。

 それに、勇者ユリウスがすぐそばにいるのに……まるで昔に戻ったような振る舞いをしている。


「レオンは……私のっ!!」


 エリシアの叫びに、ヴェルゼリアはくすりと微笑む。


「あなたも彼に惹かれているのですね?」


「べ、別に……!」


 エリシアは顔を赤くしてうつむく。


「……彼女、運命の影響が薄れてきているわね」


 ノワールがそっと耳打ちしてくる。


 ――なるほど……そういうことか。


 オレたちがシナリオをぶっ壊したせいで、運命の力が弱まってきているのだ。

 エリシアの……自分の意志が戻りつつある!

 

 それは、『彼女を運命から開放する』という、オレの目標を達成したようなものだ。

 素直に嬉しかった。


 だが——。


「もしかして、そこのあなたも彼に惹かれているのですか?」


 ヴェルゼリアがノワールへと視線を向けた。


 すると、ノワールは挑発的な笑みを浮かべる。


「そうだと言ったら……どうするつもりかしら?」


「ちょっと! ノワールさんまでっ!?」


 エリシアが慌てるが、ノワールは楽しげに肩をすくめる。


「ふふ……これは、なかなか面白いですわね」


 ヴェルゼリアはくすくすと笑いながら、ノワールとエリシアを見比べた。


 気がつけば、オレを置いて女3人の戦いが始まっていた。


 ――どうしてこうなった。


 オレは苦笑しながら、ふとノワールに目をやる。


 彼女はどこか楽しげに腕を組み、しなやかな仕草でオレの方を振り返った。


 そして、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、軽くオレの肩を叩く。


「まったく……あんた、どんだけ女にモテるのよ」


「いや、お前は……ふざけてるだけだろ?」


「そうでもない……と言ったら?」


 ノワールの言葉に、思わず息を呑んだ。


 まさか……いつもの冗談だろ?

 そう思いたいのに、彼女の微笑みには妙な色気と説得力があった。

 

 ノワールとは、さんざんやり取りしてきた軽口のはずなのに……。

 なぜか心臓が妙なリズムを刻みだす。


「……実は、本気だったりして」


 いつもの妖艶さを抑えた、さらりとした声なのに。

 やけに心に引っかかる。


「だから、からかうなって……」


 ……落ち着け。

 これはノワールが見せる、いつもの気まぐれだ。

 

 普段なら軽く流せるはずなのに、なぜか今回はうまく誤魔化せない。

 なんだ、この変な感じは――。


 ——こうして、オレたちは魔族と和平を結び『神』に抗うための同盟を結んだ。


 だが、最後にノワールが見せたあの悪戯っぽい表情が……やけに脳裏に焼きついて離れなかった。


 新たな戦いが始まるというのに、しっかりしろ……オレ。

ハーレムルート突入!


ちょっと面白いかも?

続きを見てもいいかな?

と、思ったらポチッとして頂けると嬉しいです

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