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第一話「進化・闘争・進化」




「ふぁー……。ここどこやねん」



 意識を取り戻した生命体――ワームは瞼を開けた時視界が真っ暗なことに疑問を感じた。落ち着いた後、意識を失う前に何かを食べ体全身が痛みに襲われたことを思い出し体を確認する。



「え……ッ!」



 腕を動かそうとしたが、腕が無いことに気付くワーム。そしていつの間にか足すらも無くなり体全体が長い円柱になっていることに気付く。



「もしかしてミミズ……。いやワームに進化したのかな? ……なんで?」



 自分が進化したことを理解したが、何故ワームに進化したのか疑問が残る。それと同時にここが地面の中であることが分かった。植物の時を思い出し、日光浴をしたいと思い地面を抉る――食いながら地上へと向かう。

 ワームが土を食いすすめる度に、上からじわじわと泥の泥水が浸入してくる。ねっとりとした水がワームの体に纏わりつき、全身を下へと押し流そうとするように流れるが、ワームは負けじと上へ進み続けた。


 体全体を使い泥をかき分けるようにして少しずつ確実に前へと進み続ける。呑み込んでいく土自体はワームの特性からか苦に感じることは無い、逆に美味しく感じる程だ。土を食べるたびに体を大きくそして強くさせていく。


 懸命に進むこと数時間後、ワームの顔に冷たい空気が触れる。湿った土を残った力で押しのけ、体を地上へと現した。薄暗い空の下、粘液で輝く体を大きく動かしながら身体全体で呼吸をする。久方ぶりの地上に感動――することなく、ひたすらに疲れを癒すだけであった。



「はぁ。とりあえず沼地から脱出したいなぁ……」



 地上に出ることはできたが、ここは沼地であるため十分に太陽の日差しを浴びることができない。ワームは、生まれた場所である巨大なモンスターが居た森にまで戻りたいと思った。

 

 土を食い進めることで1メートルほどまでに伸びた体を駆使して蛇のように沼地を移動する。植物の時とは違う体であったがまるで元々この姿で生まれたように自由自在に体を動かすことができる。


 お腹が空いたら泥に埋まった土を食べながらのんびりと沼地の外を目指すこと数時間、それは突然起きた。


 前世の歌を口ずさみながら寂しさを紛らわしていた時、突如として低い唸り声が聞こえると同時に空気が重く圧迫されるような気配を感じた。何か居ると警戒していた次の瞬間、前方数メートル先の水面から巨大な黒い生物が大きな水しぶきを上げながら姿を現した。長い尾、トゲトゲした鱗、鋭い牙を持つモンスターであった。

 それを見たワームは前世で言うところのワニに近いと姿をしていると思い絶望する。到底勝つことなどできないからだ。ワニは泥で汚れた目で周囲をじろりと見まわし、鋭い息を吐く。


 ワームはワニに見つからないように息を潜める――が唸り声を上げ全速力でこちらに向かってきた。

 ガバッと裂けた口を大きく開け鋭い牙をこれでもかと見せつけてくる。ここまでかと思ったワームであったが、ワニはワームを捕食することなく後ろにあった木へ向かって勢いよく噛みついた。


 絶叫と共にワームの後ろにあった木が動きだす。どうやらこの木はモンスターのようだ。

 木のモンスターもただではやられないらしく、蔓を鞭のように扱い空気を切り裂く音を鳴らしながらワニへ攻撃する。攻撃に怯んだワニを瞬きの速さで複数の蔓を用いて蜘蛛のように縛っていく。最初は抵抗していたワニであったが、時間が経つにつれ段々と力が抜けていき最終的にピクリとも動かなくなった。

 木のモンスターはワニを幹まで近づけると、幹を中心から裂けさせ奥に闇が広がっている口を開く。蔓を解きワニを口へ落下させ捕食――することはできなかった。


 蔓が解けると先程まで銅像のように動かなかったワニが最後の力を振り絞り鋭い牙で木のモンスターの口を噛み砕く。木のモンスターは金属音のような声を上げながら絶命した。力尽きたのかワニも後を追うように全く動かなくなった。


 ワームは自分が蚊帳の外であることを痛感した。ワームは2体のモンスターの争いに微塵も影響せず、モンスターたちの意識にすら入っていない。自分はこんなにもびくびくと嵐が止むのを待っていたというのに。


 争いが終わったことを察したワームは恐る恐る泥から外を窺う。周辺には動かなくなった肉塊と切り株があるだけだった。この壮絶な死闘から無傷で逃れられたことに心の底から安堵した。


 ワームは眼前に広がる巨大な肉塊を見つめた。倒れ込んだワニと木の魔物の体は互いに食い込んだまま凍り付くように動かない。その時、突如風が吹きワニが流した血の匂いが散布された空気がワームの下へと辿り着く。それを嗅いだワームはその美味しそうな匂いに食欲を刺激された。



「……お、美味しそう」



 ワームの小さな口から涎を垂らしながら呟く。蛇のように移動しながら肉塊ににじり寄った。巨体に残る蔓に痛めつけられた傷、そして血の染み込んだ泥水。

全てがワームの本能に訴えかける。



「ぼ、僕に迷惑かけたんだ。食われても文句ないよね?」



 ワームは、自分を正当化するように言うと一口大にほどけた肉の端をそっと口に含みゆっくりと咀嚼する。くちゃくちゃと噛むたびに濃厚な旨味が体中に広がった。その感触がますます食欲を掻き立てワームは次々と肉を口へ運んだ。鋭い小さな歯で咀嚼し飲み込んでは体が満たされていくのを感じる。


 その後もワームは黙々と肉塊を食べ続けワニの”因子”を体内に取り込んでいたその時、とあることが再び起きた。突如ワームは体の内側から無理やり引き裂くような不穏な輝きが発生した。ワームの体は少しずつ光に飲まれ形を作り替えようと震え始める。



「ぐ……ッ、ま、また……!」



 激痛が体全体に走る。以前起きた時の痛みの数十倍の強さでワームの意識を奪おうとするが、負けるものかと体を木のモンスターの残骸に叩きつけながら意識を保たせた。

 体表が分厚く硬い鱗へと変わり、しなやかな体が次第にずっしりとした重量感に満ちた四肢を生み出していく。体が作り変わる度に骨と筋肉が改造されていった。口元も大きく変化していく。顎が伸び、無数の鋭い牙が並んでいくその感覚に、痛みは頂点に達した。鋭く形成されていく牙が口内を突き破り、全身に稲妻のような痛みが走る。

 光が徐々に弱まるとワームは新たな姿を世界に現す。



「食べた物に進化するんだ……」



 ワームだったモノは新しい体を眺める。ワームの時には無かった四肢で地面を踏みしめ、巨大な顎を持つ――ワニへと進化した。

 力強く頑丈な顎の感触がかつてのワームだった自分とは別次元の存在へと昇華したことを示していた。



 

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