プロローグ
どうもフリーです。
初投稿です。
ほどよく樹木が生い茂る場所。その場所に名前は無く、ただ森として生態系の一部に組み込まれている。そんな森のとある地面で1つの生命体が誕生した。それに意識が宿るとその生命体はゆっくりと体を動かそうとする。しかし、初めての体だからだろうか上手く動くことができずその場から移動できない。
その生命体は赤子のようにゆっくりと目を開く。黒一色だった世界が色鮮やかに染まっていく。感動的な場面であるが、その生命体は「ここは……?」という言葉と共に体を見て酷く狼狽する。
それの体は腕のように広がっている葉、地面に埋まっていると思われる根、そして自分の顔を葉で触ってみるとハエトリグサのようにギザギザとなっている口でできていた。目は口の左右に付いている。何とも奇妙な生き物――ショクブツである。
「まさか……僕、植物に?」
驚きに満ちたまま、意識を集中させて「動かす」ことを試みると根が土の中で動き、幹のような体がゆっくりと曲がり始めた。どうやら自由に動くことはできるらしい。それはまるで、植物と動物の中間のような存在だった。腕である葉を揺らすとさわさわと擦れる音が響き自分が自然の一部になったような感覚に襲われる。
「ミドリムシになりたいって思ってたけど、それは冗談で……。って、名前を思い出せない」
ショクブツにはどうやら名前が有ったらしく、思い出そうとするがそこだけぽっかりと穴が開いたように思い出すことができない。ショクブツの意識が以前住んでいた場所を思い出すことはできるが。
「ま、いっか! この世界を楽しもう!」と何故自分がこのような状態にあるのか無視してこの森を探検しようとする。どうやらショクブツは楽観的な性格のようだ。
ショクブツは戸惑いつつも新たな姿に徐々に慣れ、周囲のショクブツや生物たちの気配までがゆっくりと感じ取れるようになった。
やがて大きな岩のような場所に辿り着くとそこに身を寄せショクブツらしく光合成を行う。「ふやぁ~」と何とも気が抜けるような声を出すショクブツ。どうやらショクブツにとって光合成は快楽的な要素が含まれるらしい。
大きな岩に身を寄せていたショクブツは岩を登ると奇妙な光景に出くわした。地面の下に大地が広がっているのである。どうやらここは周りより一段高い場所に存在するようだ。
岩の頂上から眺める景色は壮大だ。どこまでも続く青空。そして雲の影から出てくる複数の見るからにヤバい化物。
「ってドラゴン!?」
『――――ッ!!!』
突如推定ドラゴンの群れは叫び声を上げたが、その声が大きすぎてショクブツの聴覚では聞き取ることができない。まともに叫び声を浴びてしまったため全身が麻痺して逃げたくとも逃げることができない。
突然の出来事にどうすれば良いのかわからないショクブツであったが、追い打ちを掛けるように突如ゴゴゴッという音と共に地面が動き始めると同時に森に潜んでいた鳥たちが危険を察知したように一斉に飛び立つ。揺れが始まった後、上に打ち付けられるかのような衝撃に襲われた。岩の付近で待機していたショクブツの視界は一気に数十メートルも広がる。そして下の大地を鳴らすようにゆっくりと地面が動き始める。
「えぇ……君もモンスターだったの……」
ショクブツは森だと思っていた場所が巨大なモンスターの背中であることに気付く。巨大なモンスターは飛来するモンスターたちを見つめると銃口を向けるように口を大きく開けると地面が一瞬、脈打つように震えた。巨大な体の中心から恐ろしいほどの力が徐々に溢れ出し、熱を帯びたエネルギーが渦巻き始める。まるで地面そのものが呼吸をしているかのように、地面がドクンドクンとと鼓動し、下の大地さえ微かに揺らした。
地面から何かが込み上げてくる気配を感じたはショクブツは、岩から離れ口から離れるべく後ろへ全速力で駆け抜けていく―――ことはできず地面のモンスターが攻撃するところをただ眺めることしかできなかった。
『――――――ッ!!』
「―――うぁああ!!」
一瞬の静寂の後モンスターは咆哮と共にエネルギー砲を解き放つ。光と熱が爆発的に広まりまるで地平線を焼き尽くすかのような破壊の螺旋が前方へと一直線に放たれ上空を飛翔していたモンスターたちの体を溶かしたり焼いたりして殲滅した。
ショクブツは巨大なモンスターのエネルギー砲の衝撃に耐えることができず叫び声を上げた後気絶しながら、巨大なモンスターの背から弾き飛ばされ後ろへ後ろへと飛ばされていった。
★★★
意識が闇の中からゆっくりと浮上してきた。身体全体に痛みが走った後、完全に意識が覚醒する。先程の巨大なモンスターの背中とは異なり冷たいどんよりとした感覚に襲われる。ぼんやりと見えてきた視界を動かし場所を把握する。
「……ここは……?」
周りを見渡すと一切太陽の光が差し込まず、周囲を覆う木々の枝葉が空を完全に遮っていた沼地であった。湿った空気は重く、苔と腐葉土の匂いが漂う。そして低く立ち込める霧が視界を曇らせ、陰気な闇の中に存在感を増していた。かろうじて見える地面は黒ずんだ水で覆われ、わずかな動きでも静かに波紋を広げていく。
夜のような暗さに閉ざされた沼地には、昼と夜の区別さえもないようだった。闇に静寂の中で、水底に潜む見えないものが息づいているように思い、ショクブツは体を震わせる。その不気味な空気は、迷い込んだ者の心をじんわりと蝕んでいくかのようだった。
「お腹すいた……」
先程の大怪獣バトルを間近で体験したことにより、精神的に大きく疲労したこともあるが、何より光合成が完了していなかったことが災いし、現在空腹な状態である。
空腹により体が思うように動かすことができないが、太陽が遮られるこの場所にいても光合成を行うことはできないと考え、無理して移動する。
数時間、あるいは数日ほど移動したのであろうか。ショクブツは空腹が限界すぎて目を開けることもできない。未だ太陽が差し込む場所へ辿り着く気配すら無い。植物に転生してこれからだと思ったショクブツであったが、生を諦めていたその時、前方から地面の上を滑るように移動している音に気が付いた。
疲労により目を開けることができないショクブツはそれが何なのか分からなかったが、空腹のあまりそれをハエトリグサのような口に放り込んだ。前世の頃であればありえない行動であるが、植物に転生したからなのか、はたまた極限状態だからなのか一切抵抗することなく咀嚼した。
「五臓六腑に染み渡る……」
勿論ショクブツには臓器など無いが長時間もの間、光合成を行うことができなかったためどんな物であろうとご馳走に成りえた。それほどまでに極限状態だったのである。
「うっ……」
獲物を堪能していたショクブツであったが、突如全身が激しい痛みに襲われバシャンッという音を立てながら沼地に体を倒し気絶する。
★★★
気絶していたショクブツの体が小刻みに震え始めた。腕である葉や体を形成している茎がかすかに光を帯びまるで内部から何かが生まれようとしているかのように鼓動する。身体全体が痙攣し、淡い光がその全身を包み始める。光は徐々に強さを増し、ショクブツの形がぼんやりと変わり始める。
光が収まるとそこには植物の姿とは異なる新たな存在が居た。長い体、体表にある細かい棘、鋭く尖った口先―――ワームへと進化した。
短い間であったがショクブツとして生きていた過去を忘れ、生まれ変わった生命体はワームの本能に従い大地を押し分けて潜っていった。