死んだ魚が流れてくる
みんな入れ替わっている。別人になっている。擬態している。雷に打たれている。身代わりになっている。影武者になっている。替え玉になっている。おれの知らない人間になっている。
知らない人間しかいない町はおれを知らないでいる。おれが覚えていることを忘れている。気づいていることを知られたら町に消される。みんなに消される。知らない人に消される。おれも何かに替えられる。
この町には大きな川が流れている。川べりに人が集まっている。おれは土手からその様子を眺めている。夜にはニュースになっている。
死んだ魚が流れてくる。
この町には予兆だけがある。何かが起こりそうな予感だけがある。とてつもない事件の予告だけがある。
日付はいつの間にか翌日になっている。おれはいつの間にか高校二年生になっている。季節はいつの間にか夏になろうとしている。前髪はいつの間にか眉を超えようとしている。足はいつの間にか学校へ向かおうとしている。誰かがそう仕向けている。そうさせている。そう仕組んでいる。おれの制服のシャツのボタンを留めた真犯人がどこかにいる。
学校に着くと教室に知っている顔をした知らないやつらがいる。六島菜子がおれの机に腰をかけている。なじみのない彼女もかつては幼なじみである。今ではナマコである。
「けんろろ。てめえが暗いせいで清浄なる大川に死んだ魚が流れてきているらしいな」
ナマコはかつての幼なじみと同じように魚住賢朗の賢朗部分を甘い発音で呼んでいる。しかし賢くて朗らかな賢朗は堅牢である。おれは絶対に騙されないでいる。
「おれが明るかろうが世界は変わらんね。大海にうんちをしても水平線は青っぽいように」
「もう海水浴には行けねえぜ」
菜子はともかくナマコは敵である。菜子と同じ顔をして同じ声をして同じ話をしたってナマコはナマコである。おれの味方だった本物の菜子はどこかに消えてしまっている。隠されている。覆われている。見えなくなっている。
「てめえの前髪の長さと世界の明るさは連動してンだ。あたしに任せろ。根絶やしにしてやる」
鞄を盾にナマコを追い払って着席する。ナマコはおれの前頭部を叩いて自席に戻る。
「けんろろはけんもほろろだな」
痛みは衝撃が過ぎ去ったあともじわじわと続いている。
家に帰る途中で河川敷に寄る。大きな川である。石を投げても向こう岸まで届きやしない幅である。火事を見物するときに火の粉が降りかからない距離でもある。
風が吹いてくる。おれは腰を下ろして川の流れを見る。水は上から下に流れてくる。勾配の気配も感じられない穏やかな場所である。風は頬に当たれば吹く方向が分かる。川も手を浸せば流れる方向が分かるはずだが両腕はおれの膝を抱えている。それでも川がどこから流れるかを知っている。
なぜなら目に見える。
死んだ魚が流れてくる。どんぶらこどんぶらこと川上から川下へ流れてくる。おれの足元にも一匹の魚が浮いている。ぷかぷかと浮いている。青白い顔で浮いている。泳ぐ力を失って物のように浮いている。物言わずにいる。おれも物言わずにここにいる。
ときどき本当にいるのか分からなくなることがある。風や川の流れを知るのに凧や魚を必要とするようにおれをじっと見ている誰かがいないとおれはそこにいない気がする。
背後で草を踏む音がする。振り向くと他校の制服を着た男が立っている。目が合ってお互いに小さく会釈をする。彼はおれのとなりに座る。
「陰謀だよ」
死んだ魚が流れてくると生きた陰謀が流れてくる。彼はさらに続ける。
「この魚はフェイクさ。大量の死を突きつけて無辜の民を驚愕させている裏でおそろしい計画が進められている」
おれは一部だけ同意する。確かに何かが起きている。しかしそれが裏なのか表なのかは判断しかねると説明する。嘲笑される。
「きみは松枝派か」
「松枝とはなんだ」
「ふざけた男さ。彼は松枝具樹。大きな庭のある一軒家で二匹の犬を飼っている。魚より鳥派だ。そして水質汚染を疑っている」
目の前の男は自信ありげに先輩風を吹かせる。彼の名を尋ねると「ぼくの側につけば石井派になる。なぜならぼくの名は石井ナギオだからだ。けっして白樺派にはならない」と答える。
「白樺とはなんだ」
彼は困った顔をする。そっぽを向いて「明後日」とあさっての方へ話を変えてくる。
「この河川敷で集会が開かれる。親と警察と近隣住民には内緒だ」
石井の背を見送る。おれはふたたび川を見やる。
死んだ魚が流れてくる。どうでもよい情報だけが増える。依然として真相は謎である。
次の日もつつがなく授業が終わる。教室からニセモノたちが弾け出る。その流れに乗って帰ろうとするが斜め前から呼び止められる。
知っている顔をした知らない先輩が廊下の壁に寄りかかっている。彼は腕を組んでおれを睨むように見下ろしている。
「誰もが混乱している。何かが起きている現実が動揺を呼んで起きていない別の何かが起きているように想像する……」
「おれには関係ないっすよ」
亀田先輩のニセモノは目を見開いて眉を上げる。
「全員に関係がある。表に出すか出さないかの違いなだけで」
ニセモノが言うこともまた偽である。本当は傷ついているが表情や態度で示さないだけと言えば相手を騙せると思っている。心が見えないことを悪用している。
敵は立ち去るおれの背中に声をかける。
「また話そう。僕たちは仲間だ……」
返事はひとりごとになる。
「おれは表に出していますけどね」
河川敷に寄って川べりに座る。目の前に死んだ魚が漂っている。あるいは草に引っかかっている。岩に引っかかっている。暗礁に乗り上げている。
座礁している。
死んで流されたから座礁している。あるいは流されて死んだから座礁している。もしくは流されて座礁したから死んでいる。
見ただけでは何も確定できないから苦しんでいる。たとえ残酷な答えしか残されていなくても優しい別解が百あるよりかは救われる気がする。想像する。
早く答えを見つけたいと魚が流された結果がこの残酷な座礁だったらどうする。
「明後日と伝えたはずだぞ」
いきなりやってきた石井はつっけんどんな物言いをしつつもためらっている。もしかしたら明日と誤って伝えていたかもしれないと焦り始めている。おれが「通学路なんだ」と答えると彼の緊張が解ける。
「ふたりも揃うのはまずい。何らかの集会が行われていると本物の集会が行われる前に悟られてしまう」
「おまえが帰れば」
彼はおれのとなりに座る。死んだ魚を指さして気味悪がっている。おれは無視する。
「ぼくの側についてほしいのでね。派閥は大きいほうが融通が利く」
「どんな特典があるんだ」
「集会の参加をかわりばんこにできる。もし派閥に自分ひとりしかいなかったら風邪を引いた瞬間に負けになる」
融通の例を彼は滔々と並べ始める。話がどこで終わるのか不安になる。助けを求めるように助けにならない川を見る。
川は平たく向こう岸まで広がっているように見える。しかし瀬の横に淵がある。深浅がなければ誰も溺れなかったが現実では死んだ魚が流れてくる。
日付はいつの間にか翌日になっている。授業が終わるまで噛み殺していたあくびが生き返る。ナマコはおれと向き合うように前の席を借りている。
「聞いたか。魚の死因を真剣に考えている阿呆がいるそうだ」
おれはナマコのまなこをじっと見つめる。ナマコもこちらをじっと見つめている。
「誰に聞くのやら」
「あたしは風から聞いた」
「風は生きているか」
ナマコは小首を傾げる。細い首の後ろで束ねられた髪が揺れる。
どうして魚は死んでいる。どうして風は生きている。動いていないから死んでいる。動いているから生きている。流されているから死んでいる。流されていないから生きている。流れていないから死んでいる。流れているから生きている。
目の前にナマコがいる。ナマコが動いている。息をしている。瞬いている。だから生きている。ナマコが生きている。
菜子は死んでいる。
「どうして死んだか。それは問題じゃない。どうして死んだか。それが問題だ」
「てめえは言葉遊びで問題を作り出しているだけだ」
おれはナマコに睨まれている。
ニセ亀田先輩にも睨まれている。彼は下級生の視線を物ともせず廊下の壁に寄りかかっている。呼び止められる前に自首する。
「いくら話しかけたところで話すだけで終わりですよ」
「僕は君を心配している」
立派な面立ちである。立派な志である。立派な心である。しかしニセモノの立派さは反転して強烈な悪意となる。
眉をひそめてみる。ニ先輩の眉根も寄せられる。
「心配の種は心配している側にあります。あんたは心配しているかもしれません。でも本当は誰のことも心配していないんすよ」
不安になったから不安を解消しようと動いている。でも本当はもっと抽象的なことで不安になっている。自分では解決できない問題で不安になっている。その種を自力で解決できそうな具体的な心配に移し替えて育てて刈り取ろうとしている。
「そうやって素直に厚意を受け取らないのはひとりで苦しんでいるからじゃないか」
「ニセモノの善意は苦しいです」
おれはニ先輩に背を向ける。
堤防から川を見下ろしているうちに怪しい集団を見つける。階段状の護岸に男女が距離を置いて座っている。一見は無関係を装っている。だが同じ段に座っている。
彼らに近づいてみる。川に向かって右端に位置する石井がおれに気づいて手招きする。
「この会のルールは等間隔に座ることだけだ」
言われたとおりにする。石井に「もうちょっと離れて」と小声で注意されて位置をずらしながら少しだけ傷ついている自分がいる。
「始めようか」
遠くから低い声が聞こえてくる。おそらく左端に座っていた女である。彼女は続ける。
「本日はお集まりいただきありがとう。私は松枝具樹だ」
女子の制服を着ていた気がする。
「今回はこの川に死んだ魚が流れてくる件について意見を交換しようじゃないか」
松枝の流暢な説明に石井は「けっ」と発声する。松枝がそれに気づいて「陰謀論者の石井くん。もう少し協調性を持って大きな敵に立ち向かうための仲間作りをしたほうがよいのでは」と窘める。
「仲間ならここにいる」
彼の右肘におれの左側面をつつかれる。松枝と石井はあいだにいる誰かを無視して互いに身を乗り出してにらみ合っている。その争いの中間にいる誰かが「まあまあ」と仲立ちを始める。
「意見を交換しているうちに仲間になるし仲間も仲違いするさ。一番よくないのは何も話さずに終わること」
「白樺はいいことを言うね」
おれはぼんやりしている。この集会には松枝派の松枝と白樺派の白樺と石井派の石井と無派閥のおれがいる。まるで場違いな気がする。
気づいたら話が佳境に入っている。先ほどまでは優男風だった白樺の印象が一転する。「水質汚染が原因ならば俺たちはとっくに病気になっているさ。それとも貴様はすでに病気なのかね。水質汚染のせいで!」松枝が応酬する。「宇宙人が魚経由で寄生虫を送りこんでヒトの意識を支配しようとたくらんでいるんだっけ。キミが興奮しているのもあやつられているせいなのかな。宇宙人のせいで!」石井は川を眺めている。おれの視線に気づいて肩をぶつけてくる。
「水質汚染説には汚染物質が必要で宇宙人説には宇宙人と寄生虫が必要だ。ここにあるのは川。そして死んだ魚。それを観測するぼくたち。新しいものをつくりださなくたって役者は揃っているんだ。上流から死んだ魚を川に流している悪がいる。ぼくたちを話題性で惹きつけて本質を見失わせる気だ」
小声で反論してみる。「その説には死んだ魚を川に流している悪が必要だな」石井の目から光が消える。
「失敬。ここにあるのは川。そして死んだ魚と生きている人間だ。死んだ魚を川に流している者は人間だから材料はすでに揃っている」
「死んだ人間だっているさ」
おれは顔を膝にうずめる。
今後も不定期に集会を開催する。そう聞いたのに河川敷に通っても石井が佇んでいるだけである。集会のなごりである間隔を守ってふたりぼっちになる。
「仲間はずれにされた」
「ぼくの意見の正しさに恥ずかしくなったんだ。それに彼らはいがみ合っていた」
「ふたりは手を組めるだろうよ。宇宙人が汚染物質を垂れ流して人間に悪影響を及ぼしていると考えれば」
石井は愕然とした顔をする。
「ケンカップルか……」
「とんだ飛躍だ」
べつの目的を持った宇宙人が陽動のために汚染物質で死なせた魚を川に流している説をとれば彼らの仲間に入れてもらえることを石井に伝えられないでいる。
「まだ二対二だ。ぼくにはきみがいるからな。形勢はかならず逆転するぞ」
だって仲間はずれがおれだけになったら困る。
こうしている間にも死んだ魚が流れてくる。最初は騒がしかった人びとも違うことで騒がしくなる。季節が移り変わるように話題が移り変わってくる。異常が通常になって日常になる。
日付はいつの間にか変わっている。おれは校門の陰から飛び出してきた何かに下校を邪魔される。
「まっすぐ家に帰ったらどうだ。てめえの母っちも心配しているぞ」
ニセモノのナマコである。心配しているらしいおれの母もニセモノである。きっと心配も嘘である。
つまりすべてが嘘である。
おれは無言でその場を去る。ナマコの大きな声が聞こえてくる。
「亀っちも心配していたからなァ」
ニセモノがニセモノと偽のメッセージを交わして水面下でつながっている。
その水面上では死んだ魚が流れてくる。
やはり石井が河川敷にいる。彼は草がふさふさしている川べりで正座をして腕組みをしている。唸る先を見ると黒い長靴が置いてある。
「ぶかぶかだった。まさか長靴にも試着が必要だったとは」
さまざまな疑問をこめて目で訴える。石井はうなずいて「今から陰謀に立ち向かう」と親指を立てたこぶしを見せる。
「陰謀を企てたやつらにメッセージを送るんだ。川のなかで握りこぶしを突き上げて。ぼくたちはここにいる。おまえたちの企みはすべてわかっているって」
わざわざ川に入る必要があるのかと聞けば「地面の上でやると決意表明に見える」と返ってくる。おれは石井から長靴を奪って履いてみる。
「おれにはぴったりだ」
「足が太いんだな!」
石井に見送られながら川に足を踏み入れる。浮遊感でふわっとする。そのまま進んでみる。滑りそうになる。石井が「じゅうぶんだ」と声をかけてくる。おれは迷わずに突き進んでいる。川の水が長靴の開口部から流入しかけている。
川に入るのに長靴は危険である。
入ってきた少量の水で長靴が重くなる。足と長靴が密着したように感じられる一方で脱げそうになる。「けんろろ!」立ち止まる。
「早くこっちに戻ってこい。他校のいじめっ子はこっちでボコっておくから」
おそらく石井がナマコから暴力を受けている。そんな悲鳴が後ろのほうから聞こえる。気にせずに前進する。「賢朗くん!」足を止めるのもやっとである。
「お姉さんのあとを追うつもりか」
ニセ亀田先輩の声におれは川面を見ながら答える。
「先輩には関係ないじゃないですか」
「君は僕の大切な後輩で……」
「姉さんは死んだ。そして姉さんを好きだった亀田先輩も死んだ」
沈黙が流れる。姉さんが流れていった川の水面に言葉をぶつける。
「姉さんと仲がいい菜子も死んだ。姉さんの父さんも母さんも死んだ。姉さんの友だちも死んだ。全員が死んだ。もうこの町に生きているやつなんていない」
「アアン。どう見ても生きてるだろうが。死んだってのはてめえの姉ちゃんのことを言うんだよ」
「僕たちだって悲しんでいるよ。でも悲しみを乗り越えて……」
いつの間にか叫んでいる。向こう岸に叫んでいる。おれは絶叫している。
「みんな入れ替わっている。別人になっている。擬態している。雷に打たれている。身代わりになっている。影武者になっている。替え玉になっている」
声が掠れる。
「でなきゃ何もなかったかのように日常が流れてゆくわけない」
辺りは静かになる。ニセ亀田先輩の「失い続けることはできないよ」がぽつんと聞こえてくる。ナマコの「なんで急に麺を追加したんだ」のぼやきが聞こえてくる。そしてぱしゃぱしゃと跳ねる水の音とともに後ろから腕をつかまれる。
振り向くと石井がいる。彼はふたりのほうを向いている。
「不安なんだ」
声も手も震えている。
「あると思っていた未来が急になくなる。そして過去もだんだんと不確かになってゆく。統計が嘘に見える。確率がごまかしに思える。なぜなら現実は統計も確率も無視するから。だから不安でとにかく不安で不安で不安で……前触れがないかと探してしまう。無計画の事故に奪われるかもしれない現在に耐えられないから」
こちらを向いた彼の目はうるんでいる。
「だれも信じられないかい。だけどぼくはだれもがニセモノになったあとに出会ったんだ! 本物のぼくの言葉は本当だ。信じてくれ。この世には陰謀がある。でなければ大切なひとが死ぬはずがない。きみの不安は正しい。ぼくも不安だ」
石井が手を引っぱる。彼と同じ方向を見るとナマコとニセ亀田先輩が浅瀬で突っ立っている。なぜか松枝と白樺もその横に立っている。おれたちを見る顔はとても怪訝そうで――。
「みんな不安なんだ」
不安そうである。
おれは川のなかで崩れ落ちそうになる。だが石井がなんとかおれを抱える。
「もうだれも失いたくなかったんだよな。あの子もあのひとのことも。だから失っても問題ないものだと思いこもうとした。でもきみの不安が本物なようにみんなだってニセモノじゃない」
石井に促されておれは顔を上げる。目を大きく開いて見る。菜子がいる。亀田先輩がいる。なぜか松枝と白樺もその横にいる。目の前に広がるものこそが現実だと認める。
姉さんがいなくてこれからもっといなくなる世界を本物だと受け入れる。
濡れたズボンと靴下を脱いで護岸階段の段々をなぞるように干し終わる。菜子と松枝はスカートを穿いていたので濡れずに済んだと胸を張っている。
風が吹いている。下がスースーする。石井は裸足を川に浸けて階段にばらばらに腰をかけているおれたちを見上げる。
「仲間が増えたな!」
「何の仲間だ」と亀田先輩が尋ねると「亀っちは無粋だなァ。仲間は仲間だろ」と菜子に呆れられて「確かに」とたやすく騙される。
「ぼくたちは仲間だ。仲間がいればどんな不条理にだって立ち向かうことができる。さあ始めよう。ぼくたちが気づいていることを気づかせるために」
先んじた石井を見習って「恥ずかしいやつだぜ」「本当にただの仲間なんだよな」「今回は空気を読んであげようじゃないか」「宇宙から見えるだろうか」と彼らはこぶしを突き上げる。
向かう先は雲ひとつない青空である。しかし見えない暗雲が立ちこめている。いつも予兆だけがある。陰謀だけがある。不安だけがある。その予兆も陰謀も不安も本物である。
石井に目で促される。おれは義務から逃れるように川を見る。
死んだ魚が……。
死んだ魚が流れている。
天に向かって腕をめいっぱい伸ばして伝える。おれは流されている。流れている。でも流されないでもいる。おれは今ここにいる。いずれ流される。もうすぐ流される。流されながら生きる。