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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九十三話 注目の語らい


「はははっ! そんなことがあったのかよ! それは彰人の自業自得だわな」

「分かってるけどよ……だとしても、そこまで大したことは話してないだろ? 何であそこまで騒ぎになるんだか…」


 大笑いをする目の前の友人に対して、何故かくたびれ切ったような表情を浮かべる彰人の二人組。

 今彼の前にいるのは唯一の親友でもある航生であり、スポーツマン風の整った顔立ちを見るとどうして自分が友人をやれているのかと不思議な気分にもなってきそうだった。


 …まぁ、その見た目に反して生活態度があまりにもおざなりなのでそこももう気にしなくなってきたが、何にしてもこいつの容姿が抜群であるという事実は変わらない。

 恋人でもある優奈とも並べば美男美女のカップルとして絵面も相応に映えるので、その辺りは流石だとも思う。


 そんな二人だったが……今の彰人の様子というと明らかに疲弊しきった様子を見せており、休み明け初日の集会を終えただけでは説明しきれない疲労が溜まっているような状態だ。

 その原因は……言うまでも無き事かもしれないが、朝の一件に全ては起因している。


 特に意識せずに普段通りの距離感のままで朱音とのコミュニケーションを取ってしまい、教室全体を驚愕で包んでしまった後のこと。

 その場にいた男女問わず………いや、若干男子の割合の方が多かったかもしれないが、あの時の彰人にそこを気にかける余裕は無かった。


 いずれにしても、何だか既視感を覚えてしまうような人だかりに押し寄せられながらも質問の嵐にあった彰人は朱音との関係性を疑うクラスメイトに彼女と付き合っているような事実は無いと弁明を続け、未だに疑いの目は向けられではありつつもどうにか平穏を取り戻した。


 …なお、そんな混迷の中にあって近くにいた優奈はやたらとこちらを面白がるようにニヤニヤとしたような笑みを浮かべており、その表情が腹に立ったためその後できちんと追加の制裁は加えておいた。

 自分の行動が招いた結果の罰なのだ。慈悲はない。


 そうして、その後の遅刻ギリギリのタイミングで駆け込んできた航生から場の混沌具合について問い詰められ……大人しく事のあらましについて説明することとなり、今に至るというわけだ。


 …説明の過程で何が面白かったというのか、思い切り爆笑されたことについては不服であったが…そこを指摘する余力が残されていないほどに今の彰人は体力が尽きてしまっている。


「そりゃ大騒ぎにもなるだろ。こう言ったらあれだが、あの間宮さんが一見パッとしない彰人と急接近したともなれば…周りからすれば聞きたいことなんて山ほど出てくるっての」

「…そんな大層なことをした覚えも無いんだがな」

「お前からすれば大したことなくても、他からすればそうではないってことよ。…まぁあれを無自覚でやれるほど距離が近づいたともなれば、どっちにしろ周りから詰められるのは時間の問題だったとは思うが」


 確かに夏休みの間に経てきたイベントの数々によって、彰人と朱音の関係性は少し縮まった…言い換えれば親密なものへと変化していったと思う。

 それは言い淀んだところで誤魔化しようもない事実であるし、彰人自身も彼女とは出会った当初と比べても仲が深まっているとは考えている。


 …だとしても、あれだけの勢いで第三者から問い詰められるほどのことだったとは予想もしていなかったのだ。


 特に男子の多くからは『間宮さんと何があったんだ!』『抜け駆けは卑怯だぞ!?』なんかの意見が数多く飛ばされ、その勢いに圧倒される始末。

 …抜け駆けも何も、彰人としては普段通りに接していただけなので何が何やらといった感じだが、どうも彼らの琴線に触れるものがあったらしい。


 確かに、クラスでも人気の女子がいつの間にかぽっと出の男子と良い雰囲気になっていたら不安になる心理というのも理解は出来るが……それとこれとは話が別なのだ。

 それに女子の一部からも、どこからともなく彰人を見つめながら噂をされような雰囲気を感じ取れてしまったために余計な気を遣う羽目になり、休みが明けてまだ初日だというのにドッと疲れてしまった。


「…まっ、彰人が気にすることでもないさ。あいつらが騒いでるって言ってもそれは何も行動をしてなかった自分たちが悪いだけなんだし、そこに不満を持たれたってただの嫉妬でしかないんだからな」

「……やけに辛辣だな。もうちょい柔らかく言うのかと思ってたけど」

「それはそうさ。向こうの心情も分からないってわけでも無いが…それだけを理由にして彰人を好き勝手に言うのは間違ってるに決まってる」


 …そして少々意外ではあったが、彰人が置かれたこの現状に航生も多少の憤りを感じていたらしい。

 友の言い分曰く、異性に対してわずかなりとも好意を抱いているのであればその時点で何かしらの動きをするべきだ、と。


 彰人が朱音と距離を近づけられたのは結果論ではなくそのための努力を重ねてきたからであり、そのための行動すらしてこなかったやつに二人を好き勝手言う権利などあるわけがない。

 だからこそ、そんな相手の言葉に耳を貸さなくてもいいと、そう言ってくれたのだ。


 …正直、航生がそこまで強く言ってくれるとは夢にも思っていなかったので少し呆気に取られてしまったが、そう言ってもらえて重かった気分も少し軽くなった気がする。


「つーわけで、お前が気にする必要はゼロだ! むしろ、これからは見せつけていった方がいいんじゃないか? お前らの入り込む余地なんて無いんだぞってな!」

「何を見せつけるってんだ…何を。けど、まぁ……ありがとな」

「いいってことよ! 俺も親友が悪く言われて気分がいいわけもないし、良い機会だったわ」


 日頃は考え無しにして能天気な言動が目に付く航生だが、こういう時には本当に頼りになる。

 自分の友人のためなら周りに気を遣いすぎることなく堂々と己の意見を口に出来る様というのは、彰人からしても頼りになる航生の良い面だしそういうところは見習いたいとも思う。


 自らにとって優先すべきものを見誤らず、本当に大切なものこそを選べる勇気は彰人も常日頃から持ちたいと思っているものなのだから。


「航生の言う通りだな。あんまあっちの言う事を気にしてても仕方がないし、ほどほどに聞き流しておく程度にして変わらずに過ごすさ」

「そうしておきな。関係ないやつの言う事をいちいち真に受けてたら身が持たないっての」


 最終的に行きついた結論としては、結局自分たちは自分たちのペースを崩さずに過ごすということだけだった。

 …周囲から注がれる視線に慣れるにはまだまだ時間もかかってしまうだろうが、そこに意識を割きすぎていては自分が一番見たいものを見落としてしまう。


 それは彼も望む展開ではないため、何事も程々のレベルに留めておけば良いのだ。


「とりあえず、当面はそんな感じで良さそうだな。しかし……航生って確か今日は部活も休みだったよな? せっかく帰りも早いしどっかに寄っていくか?」

「……悪い。今日は少しタイミングが悪くてな…寄り道が出来ないんだわ」

「ん、何か用事でもあったか。なら無理にとは言わないけど…何でそんな苦虫を嚙み潰したみたいな顔してるんだよ」


 納得できる結論も出せた以上、この話題を続ける意味もなくなった。

 なので場の雰囲気を切り替えるという意味を兼ねて、帰りにどこか寄って行こうかと提案してみたのだが……どうしてか気まずそうな表情を浮かべた航生にはそれとなく断られてしまった。


「…ふっ、実は夏休みの課題がまだ片付け終わって無くてな……担任から放課後に呼び出されてるんだ。全く参ったもんだよな」

「………お前、あれだけ休み中に計画的に取り組んでおけって言ったのに…課題やってなかったのかよ」

「仕方ないだろ!? …夏休みと言えば遊びまくるもんなんだから、課題をやってない俺に非はない!」

「非しかないだろうが! …はぁ、せっかく見直しかけたところでこれだもんな…ある意味流石だぞ、お前…」


 断りの理由に何か言いにくい用事でもあったのだろうかと思い、それとなく探りを入れてみたのだが……聞いてみれば何てことも無い。

 ただ単に、休み中に出されていた課題をやっておらず担任からのお叱りを受けるだけとのことだ。


 …先ほどまであれだけ頼りになると思えていた直後にこれだ。

 彰人の言う通り、見直しかけた途端に自分の評価を落としに行く航生の落差は…もはや天性のものとさえ言えるかもしれない。


 ……全く感心することも出来ない才能だが、これも航生のらしさと捉えておくべきだろう。

 真似をしたいとは一切思えないが。


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