表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/172

第八十四話 二人で分け合って


 思わず感動させられるような夕食はあっという間に時間が過ぎていき、気が付けば彰人も朱音も互いの皿は空となっていた。

 食べ残したものなどあるはずもなく、綺麗さっぱり全てを完食した二人。


 特に彰人の方はいつも以上に食器の上から食材の痕跡が掻き消されており……余程無駄に残したくないという思いが強かったようだ。

 それが朱音の手料理だったからか、もしくは料理が最高の美味だったからか……まぁ、その両方だろう。


 どちらにせよ、食事を終えたらやることは一つ。

 使い終わった食器を放置していれば付着した汚れがそちらに定着してしまうので、その前に洗っておかなければならない。


 なので一通りキッチンに併設されている流しへと運び終え、これくらいならば彰人でも問題なくこなせるため片付けも兼ねた洗い物を先に済ませてしまう。

 ……そう、思っていたのだが。


「……ちょっと待ってくれ、朱音。どうしてそこに立ってるんだ?」

「え? だって、ご飯が終わったから洗い物をしなくちゃと思って……」


 …当たり前のように彰人の後に続いてキッチンに赴いてきた朱音の行動には、流石の彼であっても疑問を投げかけざるを得ない。

 食事が終わってからは残っている作業が彰人一人でも出来るものばかりなので、夕飯づくりにて活躍してくれた彼女にはゆっくり休んでもらおうと思い黙ってこちらまでやってきたというのに…まさかの向こう側からその目論見を破壊していくスタイルである。


 どうやら朱音の考えとしては彼女自ら皿洗いを片付けようとしてくれたようだが、そこまで手間をかけるようなことはさせないつもりなのだ。

 まず前提からしてみても、彼女は今日黒峰家へと招かれた客人という立場なのだからそのようなことをする必要なんてありはしない。


 …彼女に料理を作ってもらった立場から言えたことではないかもしれないが…その恩義が()()()()()()、これ以上の負担を強いる必要は全くないと彰人は考えている。

 それこそ…出来ることなら自然体でくつろぐくらいのことはしてほしいとすら思っているくらいなのだから。


「…別に朱音がそこまでする必要は無いって。そこのソファででも休んでてくれたらいいさ。皿洗いは俺の方でやっておくから」

「でも…私が使わせてもらったものもあるんだから、やっぱりこっちでも手伝うよ。お皿洗うのって結構大変だもん」

「そう言われてもな……朱音にはもう重労働をこなしてもらった後だし、そこまでしてもらうと俺が申し訳なくなってくるんだよ…」


 いつもなら彼女の方から身を引いてくれる案件だったかもしれないが、今日は彰人の家に泊まりこみという特殊なシチュエーションだったゆえに朱音も頑固になっているのだろう。

 いくら彰人が何もしなくとも構わないと口にしていたのだとしても…こういうのは理屈だけで納得できる類のものでもないからだ。


 元々の家の住人が働いているというのに、それを横目にしてくつろぐことが難しいと思ってしまう朱音の心情もよく理解は出来る。

 …今回ばかりはその気持ちを引っ込めておいてほしかったところだったので、共感してしまうのもどうかとは思うが。


「…だけど、彰人君にだけやらせるっていうのは私も心苦しいよ。そこは彰人君だって分かるでしょ?」

「……そこを引き合いに出されると、こっちも弱くなるんだが」

「だって事実だもん。けど、そうだねぇ……あっ、なら二人でやるっていうのはどう?」

「二人で?」


 中々に落としどころを見つけられないままに時間だけが淡々と過ぎ去っていき、このままでは無意味に消費してしまうだけかとも思われたが…そこで助け舟を出してくれたのは朱音である。

 名案を思い付いたとでも言うように掌を叩き、瞳をわずかに大きく開きながら提案されたのはまさかの二人による共同作業というものだった。


「そうそう。私たち二人でやればそんなに時間もかからずに終わらせられるだろうし……それに、こうしたら彰人君も納得できるんじゃない?」

「……まぁ、朱音一人にさせるよりは遥かにマシだけど」

「でしょ? じゃあ決まりだね」


 何だか一部始終の流れを彼女に上手く誘導させられてしまったような気がするが、提示された案が最も丸く収められることも事実。

 彰人にしても朱音にしても、お互いに任せっきりにするくらいならば役割を分担した方が心持ちとしても楽になることは確かなのだから。


 …既に労力を割いてくれた朱音を再び働かせるような展開になってしまったことに納得しきれたかと聞かれればまた話が変わってくるが、その辺りは飲み込むしかないだろう。

 どちらにしても、ここぞといった場面で彼女が引くことなどないというのは分かり切っているのだ。


 ゆえに、彰人も軽くこぼれてしまう溜め息を自覚しながら満足げに洗い物作業へと参加してくる朱音を迎え入れる。

 …こうなっては諦めるほかない。

 せめて少しでも朱音が楽を出来るように、こちらで作業負担の重いものは引き受けていくとしよう。




「……よし、これでばっちり終わったね。思ってたよりもずっと早く終わったから何だか拍子抜けしちゃったけど…」

「二人でやってれば早くも終わるさ。とりあえず手伝ってくれてありがとうな。助かったよ」

「全然いいよ。むしろ私としては彰人君と作業が出来て嬉しかったくらいだもん。…ある意味、役得だったかな?」

「……いきなりそういうこと言うのは止めてくれ。心臓に悪いから」

「…うふふ。何が心臓に悪いの? 教えてもらってもいい?」

「分かって言ってるだろ……はぁ。とにかく気を付けろよ。そんなこと言ったら勘違いされてもおかしくないんだからな」


 本来は一人で片付けるはずだった作業を二人で分担してしまえば、片付けは思っていたよりも遥かに早く終えることが出来た。

 ここまで早く済ませられたのはひとえに、料理だけでなく皿洗いまで非常に手際よく進めてくれた朱音のおかげだったので素直に感謝を伝えておいた。


 …まぁ、その返事として返ってきた小悪魔的な魅力を秘めた一言には彰人も心臓を掻き乱されることになりかけたが、何とか冷静に対応できたので良しとしておく。


「……むぅ、まぁ今はそれでいっか。あとはお皿が乾くのを待つだけだね」

「そうだな……っと、タイミング良く風呂も沸いたみたいだ。朱音、風呂の準備は出来てるから入ってきてもいいぞ」

「え、私が先でいいの?」


 すると一瞬だけわずかに不満を滲ませたような表情を見せた朱音だったが、そんな折にちょうどよく風呂の湯が張られたことを知らせるアナウンスが聞こえてきたので入浴を勧めた。

 …が、そのように伝えれば彼女が浮かべるのは呆気にとられたような顔だ。


 まるでそんなことを言われるのが想定外だったかのような驚きに満ちた表情であり…彰人もその原因らしきものにはすぐに思い至る。


「あ、先に断っておくが覗きなんてことは死んでもしないから安心してくれ。口だけで言っても信用なんて出来ないかもしれないけど…場合によっては俺をリビングにでも括りつけてくれてもいいから」

「…そんなことしないよ? 別に、彰人君のことは信頼してるからそこは心配してないけど…私が先に入っちゃってもいいのかってこと。てっきり彰人君が先に入ると思ってたから…」

「あぁ…そっちのことだったか」


 憂いを含んだ感情を浮かべる朱音の顔を見て、彰人は彼女が入浴している間に覗きでもしでかすのではないかと懸念しているものだと予想したのだが…それは外れだ。

 朱音が懸念していたのはもう少し先にある点であり…自分が彰人を差し置いて風呂に入っていいものかと悩んでいたらしい。


「俺は気にしても無いし、先か後かってところにも拘りはないからな。朱音も慣れないこと続きで疲れてるだろうから先に風呂に入って休んだ方がいいよ」

「……そっか。それならじゃあ……お言葉に甘えさせてもらおうかな?」

「是非ともそうしてくれ。タオルなんかは置いてあるから、それ使ってくれたらいいからさ」

「うん。ならお先に失礼するね」


 しかし、朱音にも言ったように彰人は一番風呂というものに強い拘りを持っているわけでも無い。

 強いて言うのであれば、あまりにも衛生面で問題がありそうな湯に浸かることだけは抵抗を覚えるかもしれないが…そうでないのなら大して気にもしないのが彰人である。


 その辺りを軽く説明すればこれ以上ここで順番争いをしたところで時間を無駄にするだけだと悟ったのか、朱音も大人しく受け入れて入浴のための準備を整え始める。


 彼女が風呂に入っている間、彰人は…ひとまず、余計なことを考えないようにしておこうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ