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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十六話 火花を散らせて


「……あ、終わっちゃったね…」

「結構やってた気もするけどな…夢中で見てたから、そのせいで早く感じたんだろうさ」

「…そうかもね。だけど…綺麗だったなぁ…」


 見惚れるほどに数多く打ち上げられていた花火の時間も、しばらくの時が経ってしまえば終わりを迎える。

 最後の花火が上がると会場に備え付けられていたスピーカーから花火が終了したことを告げるアナウンスが流れてきたので、今日のメインイベントが終了したことは確実だ。


 …これで終わりかと思うと少し寂しくもあるが、こういうのはそれまでの流れが楽しく思えた分だけ惜しく思うものなのだ。

 なので今も朱音が今日の祭りを惜しむように、そして今見たばかりの花火を思い返すようにして余韻に浸っているようだった。


「……朱音ちゃん! 花火見てた!? す…っごい綺麗だったよね!」

「優奈…うん。ちゃんと見てたよ。あんなに凄い花火は久しぶりに見たかもね」

「だよねだよね! …航生と見てて夢中になっちゃったけど、せっかくなんだから朱音ちゃんとも一緒に見てればよかったな……ちょっと反省」

「そう…? …確かに私も優奈と見れてたら楽しめてただろうけど……こういうのは恋人の青羽君と見てるのも楽しいと思うよ?」

「朱音ちゃん……そうだね! 航生とは一緒に見れたんだし、それを良い思い出にしておくよ!」


 するとそんな朱音に勢いよく飛びついてくる優奈の姿も確認できたが、彼女も彼女で今さっき飛び交っていた花火を眺めていたことによる興奮が冷めやらぬままらしかった。

 …浴衣を着たまま飛びつくというのもどうかとは一瞬思ったが、そこを指摘したところで意味はないのでここでは黙秘を貫いておく。


 どうやら優奈は花火が打ち上がった瞬間に朱音と少し距離を離してしまっていたことを気にしていたようだったが、それも朱音本人からのフォローによって持ち直したようだ。

 実際、彼女の方も遠目から見た限りでは航生と楽しそうに花火を満喫できていたようだったし、そこを一つの思い出としておけば良いという朱音の指摘も正しい。


 そんな助言を受けたことで優奈は一気に気分を回復させたようだが…何とも単純なものである。


「よっ、俺もここまでのものとは思ってなかったが…中々いいもんだったな! 彰人はどうだったよ?」

「予想以上だった…っていうのは正直な感想だな。今までは何となく気が向かなかったから来てなかったけど…少しもったいなかったかもしれない」

「そうか……お前がそう思ってくれたのなら、ここに連れてきた甲斐もあったか!」

「……まぁ、そこは感謝してるよ。おかげで良いものが見れたしな」


 そうこうしていると今度は彰人の側で航生が絡んできたが、こいつの言うことも今回ばかりは否定できないので素直に感想を述べておいた。

 これまでは訪れる機会すら自分で失わせていたこの祭りを初めて経験し、その良さに気が付くことが出来た。


 …何年も来るチャンスはあったはずだというのに、今更になってその魅力に気が付いたというのは何とも情けない限りだが……まぁ捉え方を変えれば、これからは楽しみに来ることが出来るということでもあるのだから良いだろう。

 それよりも今は、この高揚した気分から発されている余韻に身を任せておきたい気分でもある。


「そんなら何よりってもんだ。まっ、今日はこれで祭りは終わりなわけだけどな……けど俺の方はこれから優奈の家に寄って行く予定だし、むしろこれからが楽しみなくらいだ!」

「ん? お前…優奈の家に行くのか?」

「おうよ! つっても本当に少し寄るだけで、別に泊まったりはしないぞ? そこら辺は親からも許可は下りなかったんだよ……」

「……許可が下りたら、泊まるつもりだったのかよ」

「そりゃそうだろ! …夏休みの夜、そこで愛しい彼女と過ごす一夜……これほど最高の状況もそうは無いってもんだ…」

「………何となく、そっちの親御さんが許可を出さなかった理由が分かったような気がする」


 会話の中でさらりと流されてきた新事実だったが、何と航生はこの祭りが終わった後にも優奈と共に過ごす時間をしっかり確保しているらしい。

 別にそれは良い。何も問題もないからだ。


 これが普通の男女の友人ともなればまた話が変わって来ただろうが、二人は明確に恋人という関係性でありお互いの家に赴くくらいはあっても然るべきだろう。

 前に少し聞いた話では互いの家族とも関係は良好だとのことなので、その辺りの了承も得ているのなら外野が騒ぎ立てるのはお門違いだというものだ。


 ……当の本人たちは、ただ立ち寄るだけではなくあわよくば宿泊の計画までこぎつけようとしていたようだが…流石にそこまでは許可が出なかったらしい。

 それに関しては仕方ないだろう。


 いくら二人の仲が良好であり、互いの家族にも関係性が公認のものとされていたとしても…まだ高校生という身分でしかない自分たちが異性の家に泊まるというのは、色々と問題があるのだから。

 むしろ、夜遅くに寄ることを認めてもらっただけでも優奈と航生の親は寛容な判断をしたと言える。


「俺の親も、何であそこまで反対してきたのか……別に優奈と一泊くらいいいだろっての…」

「お前からしたら問題なくとも親からすれば心配なんだろうさ。客観的に見ればまだまだ子供でしかない立場だからな、俺たちは」

「……それは分かってるつもりだけどよ。……あー! だけどやっぱ中途半端な感じがするんだよ!」


 航生が言いたがっていることも分からないではないが、そこは親の意思に従うしかないのだ。

 無論、親の言いなりになれと言っているわけではなくとも…ある程度の折り合いというのはいくつになっても必要なものだし、こちらはまだ親に育ててもらっている立場なのだ。


 彰人も航生の両親とは何度か対面したことがあるが……少なくともその時に知ったあの人たちの人柄からすれば単なる意地悪で航生の要求を突っぱねたわけではないだろうし、多くのことを考慮した上での返答だったのだろうから。

 …それを理解していたとしても、納得しきれない部分が出てくるのが航生としてももどかしくはあるのだろうが。


「そこは親の気持ちも汲んでやることだな。…お前からしたら難しいかもしれんが」

「はぁ……まっ、心配されてるのは分かるからまだいいんだけどな……つーか彰人、お前の方は間宮さんの家に寄ったりしないのか?」

「するわけないだろ……とりあえず朱音を家まではしっかり送っていくけど、この時間から俺が立ち寄るのは向こうにとっても迷惑だっての」


 …すると航生の方から何気ない素振りで尋ねられてしまったが、彰人は特段朱音の家に訪問する予定など組んでいない。

 そもそも今日は朱音と共に祭りを巡ることからして予定外のことだったのだから、そんな予定を挟み込むことなど出来るわけもない。


 まぁ……たとえ最初から朱音と祭りに赴く手筈だったとしても、彰人はそんなことをするなど考えもしなかっただろうが。


「……それでも間宮さんをしっかり送ることは確定してる辺り、彰人らしいというか…そういうところは抜かりないよな、お前」

「当然だろ。ここら辺は治安も良い方だけど…だとしても朱音一人で帰らせるのは怖いし、そこを怠ったら何があるか分からないからな」

「過保護だねぇ……だからこそ、あの人に信頼されてるんだろうけどさ」


 呆れたような面持ちで朱音を送ることに対する意見をぶつけてくる航生だったが、こればかりは彰人も引くつもりは無い。

 祭りがあったことで周囲に人の数は多く見られるし、あまり心配せずとも問題はないかもしれないが……それはそれ、これはこれだ。


 彰人が送っていけば何か不穏な事故が起こる心配もなくなるだろうし、それによって朱音の身を少しでも守れるのであれば多少の手間は安いものである。

 …そう言えば何故か航生には苦笑されたが、特に気にしない。


「つーことは、こっからはお互いに別行動って感じだな。…もう少しで夏休みも終わりだってのに……また学校が始まるのか……」

「学校が始まるのは別に嫌ではないけどな。勉強するのも苦ではないし」

「それは彰人が優等生だからだろうが! …俺たちみたいな普通の学生にとっちゃ、夏休みの終わりは悲しみの幕開けなんだよ……」

「何言ってんだか……」


 次第に会話の中心点は祭りの話からもう少しで再開する学校の授業へと移っていくが、悲観したような表情の航生とさしてショックも受けていない彰人という、何とも対照的な感情を浮かべる両者がそこにはいたのだった。



 そんな何気ない会話を重ねていく内に夜は更けていき、思っていた何倍も満喫した祭りは終わっていく。

 この場所で得られた何かは……ここから先の彰人にとっても、大きなものになるだろうということを予感させながら。


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