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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十三話 見慣れぬ不機嫌


「おっ! こりゃまた可愛らしい嬢ちゃん達だね! 隣に居るのは彼氏さんかい?」

「えー? 可愛いなんて嬉しいこと言ってくれますねー! …そうです! この最高に格好いいのが私の恋人です!」

「はっはっは! そうかいそうかい! 仲が良いのは良いことだ!」


(テンション高いな…この人。悪い人ではなさそうだけどさ)


 彰人達が屋台へとやってきた途端。

 その店の奥から店主だと思われる男から活気のある声で話しかけられたが……何とも豪快な雰囲気を感じさせてくる。


 話している内容は決して不快なものでもないし、単なる世間話として振ってくれたことも分かるので別に何かを思うことも無いが。

 しかし…自分の店に優奈と朱音という、圧倒的な美少女が揃って現れたことが上機嫌になっている一因に違いない。


「そっちのお嬢ちゃんも随分と可愛らしいな! …君がこの子の彼氏君かい?」

「…か、彼氏……っ!?」

「…あぁいや、俺たちは付き合ってるとかそういうのじゃなくて、普通の友人ですよ」

「おお、そうなのか? こりゃすまんね! 勘違いしちまったよ!」

「いえ、別に気にしてないので……えっ、あ、朱音? 何でそんな不満気な顔してるんだ…?」

「………別に」


 すると今度は話題が朱音の方に振られてきてしまったが、こちらは別に付き合ってるだとかそういうわけではないのでしっかり否定しておいた。

 朱音も勘違いをされたままでは居心地も悪いだろうし、その辺りの認識ははっきりと正しておいた方がいいだろうと思っての判断だったのだが…何故かそう告げた後の朱音が浮かべた感情はひどく不満気なものである。


 表情はそこまで変化していないというのに、ぶすっとしたような顔からは明らかな不満が募っている情緒がありありと感じ取れるが、その原因は全くの不明だ。


「……彰人。流石に今のは俺でも無いと思うぞ?」

「ここまで酷かったとは……今度、彰人の意識を無理やりにでも矯正した方がいいかもしれない…」

「いや、何でお前らまでそんなこと言ってくるんだよ…別に変なことは言ってないだろ」

「うわぁ……鈍感もここまでくると罪だね。朱音ちゃん、本当に同情するよ…」


 それまで彰人の横に立ちながら、一連のやり取りを眺めていた二人……航生と優奈から心底呆れたように謎の追撃を受けた彰人だったが、そんなことを言われたって分からないものが分かるようにはならない。

 楽しかったはずの空気から一転して、彰人一人が追い込まれるような状況へと変貌していったのは…ただの偶然ではなかったのかもしれない。




「…はぁ。とりあえず彰人の意識改善は一旦横に置いておくとして……朱音ちゃん、射的やってみたら? やりたかったんだよね?」

「…うん。じゃあ……」

「サラッと恐ろしいことを言ってきたな……まぁいいか。おじさん、二回分貰ってもいいか?」

「はいよ。二回なら六百円だな!」

「……あれ、彰人もやるの?」


 どうしてか彰人が責められる流れから何とか脱出し、本来の目的でもある射的へとこぎつけた彰人だったが……店主に指定された金額を支払うと、優奈から疑問が飛んできた。


「ああ。俺もいい機会だし、久しぶりにこういうのをやってみるのもいいかと思ってさ」

「ふーん…? でも、二回分もいる? やるとしても一回分でいいんじゃない?」

「ん…? あぁ、これは俺一人の分じゃ無いぞ? もう一つは朱音の分だよ」

「え?」


 子供の頃は多少遊んだ経験もある射的だ。

 久方ぶりにやればブランクもあるだろうから、全てを的中させることは流石に難しいと思いながら返答すれば…優奈の疑問はそこに尽きない。


 今度は彰人が何故二回分の料金を払ったのかと問われてしまったが、それは別に何てこともない。

 店主から十個のコルクを受け取りながら朱音の分も支払っただけだと伝えれば…本人から不意を突かれたことによる返事が聞こえてきた。


「ほら朱音、良かったらこれ使ってくれ。俺も隣でやるから」

「へ…? い、いいよ…! 自分の分はちゃんとお金払うから…!」


 渡された球を朱音の小さな掌に自然と乗せてやれば、状況を理解したらしい彼女は慌てたようにして首を横に振りながら渡されたものを返そうとしてくる。

 一応彰人も良かれと思って渡したものだったのだが…まさかここまで慌てた様子を見せることになるとは思っていなかった。


 …しかし、だからと言って易々と返されたものを受け取るかと言われればまた話は変わってくる。


「いやいや、俺も元々朱音の分として買ったものだし……もうお金は払っちゃったからな。せっかくだし使ってくれ」

「だ、だったら…彰人君にちゃんとお金は返すよ。私だけ貰いっぱなしなんて…」

「あー………そうなるのか」


 彰人としてはこの一回分は朱音に渡すために買ったものだったので、今更返されてもむしろ困ってしまうだけなのだ。

 朱音が一方的に恩義を受けることに対して心苦しく思うだろうことは何となく理解もしていたが……だとしても、既に支払った分はきちんと消費してもらいたい。


 どのように言えば朱音が納得してくれるのか。短い時間の中で彰人が考えた結果、出した言葉は…これだった。


「…別に気にしなくていいんだよ。これくらい大した出費でもないし…それに、朱音が楽しんでくれるのなら俺にとってもそれが一番嬉しいしな」

「……うぅ」

「だから素直に受け取ってくれ。…いいか?」

「………は、はいぃ…」


 結局、どれだけ言葉を飾ろうとも最後に思いを伝えられるのは本心から絞り出した意思なのだ。

 朱音が楽しんでくれるのならそれが一番、そんな嘘偽りない考えを真正面からぶつけられた彼女は……これ以上は抵抗しても無意味だと悟ってしまったのか、若干俯きながらではあったが了承の意思を見せてくれた。


 これで一安心だ。

 当初の目的からは少し外れ、朱音に少し気を遣わせる結果にはなってしまったが……何とか受け取らせることに成功した彰人は、小さく安堵の息を吐くのであった。




「おお、最初は彰人からいくのか? なんかお前ってこういうのとか得意そうだけど…腕の見せ所だな!」

「昔はたまにやってたりもしたから、人と比べれば得意だとは思うがな……まぁやってみるさ」


 場の雰囲気も次第に落ち着いたものへと戻ってきたため、彰人も気を取り直してコルク銃を目の前の景品に向ける。

 こういうのは手足が長ければ長いほど有利になったりするものでもあるが…あいにく彰人の手足は平均的な長さしかないため、そこは正攻法でいかせてもらうとしよう。


 まずは試しにと銃口を軽めの菓子類へと向け、一発目を放ってみれば意外にも弾が狙い通りの方向へと飛んでいき、角を掠めていく。


(結構直進して飛ぶ感じか……だったら下手に曲げない方がいいな)


 射的というのは店によっても銃の癖が少し変わってくることが多いのだが、この店ではそれほどおかしな挙動はしないようだ。

 今の試し打ちでそれを確認できたため、次からは軌道を修正して放っていった方が良いだろう。


 そう判断して二発目、三発目と放っていき……最終的な結果はまずまずのものとなる。


「…まあまあだな。久しぶりならこんなものだろ」

「おー…私からしたら結構取れてるように見えるけどね。満足はしてないんだ?」

「最後の一発で軌道をもう少し下に向けてたら、あと一個はプラスで取れてただろうからな…そこの分を差し引きすればってところだよ」


 彰人が獲得したのは、軽めの菓子類が二つと何となくで狙ってみた小さめの兎のぬいぐるみが一つ。

 五回のチャンスでこれだけのものが獲得できたのならば良い方だと覗き込んできた優奈からは言われてしまったが、こちらの視点だとあと一つは追加で取れても良かったので…大満足とは程遠い。


 まぁこういうのは外れた時の悔しさも混みで楽しいものなのだから、そういった意味では正しい遊び方とも捉えられる。


「ま、これだけ取れれば十分か。あんまり取っても持ち運びに困るしな」

「それもそだね。なら次は……朱音ちゃんの番だね! 頑張って!」

「んー……やれるだけはやってみるけど…初めてだし、上手くいくかなぁ…」


 そうして彰人が一通りやり終えた後。

 今度は隣にて控えていた朱音の番であり、少し緊張したような面持ちが垣間見えつつも彼女がたどたどしくコルク銃を向けるのであった。


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