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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第七十話 カップルの策略


 やたら胡散臭い口調を隠そうともせずに現れた浴衣姿の優奈と、それに伴って姿を見せた朱音の二人組。

 その光景を見ただけでも何が起こったのか、概要を把握することは出来てしまったが…それと同時に、呆れの感情も強く出てきてしまった。


「な、何でここにって言われても……私は優奈に誘われてお祭りに来たんだよ。そしたら優奈があっちに行ってみようって言うから、来てみたら…」

「……俺たちがいた、と。優奈……お前、狙ってやったな?」

「バレちゃったー? んふふ~……その通り! 元々朱音ちゃんと一緒にお祭りに行こうって計画はしてたんだけどね。せっかくなら彰人たちも呼んで楽しもうかと思ったんだよ!」

「だったら前もってそっちのことも連絡してくれ…何で黙って現れるんだよ」


 話を聞いてみて何となく理解は出来てきたが、おそらく朱音はここに彰人たちが訪れていることは知らされていなかったのだろう。

 今も心から驚いたように目を丸くしている姿を見ればそれは一目瞭然だし、彼女がこの再会の仕方に一枚嚙んでいたというわけではない。


 全ての元凶はどちらかと言えば、もう一方……現在進行形でしたり顔を浮かべている優奈の方なのだから。

 …事前に連絡をしてくれればこんな困惑を味わうことも無かったというのに、何でそのようなことをしでかしてくれたのやら。


 そんな理由を問えば…向こうからはとてもキョトンとしたような表情を浮かべられて言葉を返される。


「え? だってそんなことしたら…つまらないじゃん! お祭りなんだからサプライズ要素があった方が面白いでしょ?」

「……面白くないっての。あと仮にサプライズだったんだとしても、困惑と戸惑いの方がでかいからそれどころじゃなくなってるんだが?」

「嘘!? …まぁ、彰人の驚く顔が見られたから収穫はあったね! 問題無し!」

「おいこら。勝手に話を終わらせようとすんな」


 …このシチュエーションと雰囲気の中であっても平常運転を維持出来ている優奈はある意味尊敬も出来るが、だからと言って曖昧に済ませてやるかと聞かれればそれはまた別の話だ。

 経験上、こういった時にはしっかりと言い聞かせておかなければ再び同じ手口でこちらの意表を突こうとしてくるので、この場での説教は欠かせない。


 ……言い聞かせたからと言って優奈の悪戯心を完全に抑え込めるわけではないのだが、そうだとしてもなあなあで放っておくわけにもいかないのだ。


「え、えっと……つまりどういうことなのかな? 結局何で私は彰人君と会うことに…」

「あ、そうそう! 朱音ちゃんもごめんねー? 実は今日、二人だけで遊ぶっていうのは嘘で…本当は航生達とも合流する手筈だったの!」

「そ、そうだったの…!?」

「うん! 騙しちゃったみたいになったのは申し訳なかったけど…こうでもしないと、朱音ちゃんって彰人に嘘つけなさそうだからね。まぁ朱音ちゃんにとってもサプライズだったってことで!」

「………う、うーん……そういうことなら、まぁ…」


 しかしそんな説教をする前に困惑の声を上げたのは、彰人と同じく困惑真っただ中に置かれていた朱音だ。

 彼女は彼女で、唐突過ぎる展開の数々に脳の処理が追い付いていなかったようで…どうして自分がこんな状況に陥っているのか未だに理解出来ないといった様子が見える。


 そんな朱音に対して、優奈がそちらの言い分で丸め込むようにして大まかな流れを解説し、彼女から納得を勝ち取ろうとしていたが…元はと言えば、大元の元凶が優奈なのだから納得したところで意味など無い。


「……朱音、騙されない方がいいぞ。どうせ優奈のことだし、朱音に何となく驚いてほしかったから、なんて理由でこんなことをしてきた可能性もあるからな」

「ちょっとちょっと!? それは流石に風評被害ってやつじゃないかな!?」

「じゃあ逆に聞くが……お前は本当に、そんな考えは無かったんだな?」

「…………うん、まぁ…その辺りは黙秘ってやつだよ」


 …やはり、少し深掘りをして優奈に追及を繰り返していけば即座にボロが出てきた。

 黙秘なんて偉そうなことを口走っているが、どうせその内心では彰人が述べたこととほぼ同じようなことを企んでいただけだろうし、気まずそうな表情は何よりも雄弁に本音を物語っている。


 その悪戯にかける情熱を、また別の方向に向けてやればいいものを……言ったところで無駄か。


「で、でもねでもね!? 私は別に朱音ちゃんを驚かせたかったわけじゃないんだよ!」

「……そうなの?」

「そ、そう! そりゃあ、そういう気持ちがちょっとでも無かったって言えば嘘になっちゃうけど…朱音ちゃんも彰人と偶然会えたら嬉しかったりするでしょ!? その喜びを感じてほしかったんだよ!」

「…確かに、彰人君と会えたら嬉しいとは思うし…それなら優奈のやったことも…悪くはない、のかな?」

「っ! 流石朱音ちゃん! 私の天使!」

「………優奈、お前ってやつは……調子が良すぎるだろ…」


 全力で身振りまでも加えた優奈の弁明が朱音の心に響いてしまったのか、最終的には彼女はこの件を許すという方向で決着を着けたらしい。

 その判断も、彰人からしてみれば甘すぎると思わなくもないが……それもまた朱音の良さであるため、否定はしない。


 どんな結果であろうと、朱音がそう決めたのであればこちらがどう思おうとも口出しする権利など無いのだから、そうなったのならば少し諦め気味にはなったものの再度調子に乗り始めた優奈の姿を呆れつつ眺めることにした。

 …そして彰人の関心は、今まで静観を貫いていたもう一人の容疑者へと移っていく。


「……おい、元凶の二人目。何か弁明があれば聞くぞ」

「呼び方酷くね!? …別に、今回は俺主導ってわけでもないぞ? 優奈から少し頼み込まれてな……ほら、可愛い彼女からお願いでもされたら彼氏としては断るわけにもいかないだろ?」

「そのせいで友人が被害に遭ってるんだが……そこんところについては?」

「彰人一人が被害受けるなら別に問題ないな!」

「言い切るな、そんなこと! はぁ……結局お前らカップルの策略じゃねぇか…」


 彰人がジト目を向けながら問いただすのは、今回の騒動の片棒を担いだ(と思われる)航生である。

 優奈がこれだけ派手な動きをしでかしてくれたのだから、こいつも無関係であるわけがない。


 そう確信を抱きながら声色を低め、問いを投げかけてみれば……予想的中。

 まるで反省の色が見られない航生の態度に叱りをしつつも、またもや自分が航生と優奈の策に嵌められたことに対して、自分自身に呆れてしまいそうだった。


「まーまー、彰人もそう深刻に考えてたって良いことないよ。こうなっちゃったんだから、とりあえず今日は楽しもうよ!」

「……主にお前らのせいなんだがな、こうなってるのは」

「あーあー! …何も聞こえないね」

「こいつ……!」


 しかしその直後、慰めるかのような口調で肩をポンと叩いてきた優奈の言動には思わず腹が立ってしまった。

 この事態を引き起こした張本人だというのに、まだこんな態度を貫けるメンタルには感服する……いや、別にすることもないか。


 これは優奈のメンタルというより、単に彼女が図々しいだけだ。

 今も尚、まるで自分は何も悪いことをしていないとでも言わんばかりに堂々としている佇まいは気負っている雰囲気など微塵も感じさせないし、普段と何一つとして変わらない。


 こういった厚かまし……ごほん、細かいことを気にしない振る舞いも優奈の魅力の一つとでも思っておいた方がいいだろう。

 …でなければ、彼女から与えられるストレスでいつか胃に穴でも空けられてしまいそうだった。


「それじゃ、早速出発だね! 早く会場行こうよ!」

「……分かったよ。けど、説教は後でしっかりとさせてもらうからな」

「………え、嘘でしょ?」


 ならば今くらいは、彼女の行動にも目を瞑っておいた方がこちらにとっても身のためになる。

 もちろん、後で優奈に連絡や伝達の重要性を言い聞かせるという未来は変わらないが…それに関しては後回しでも構わないだろう。




 …自らが説教を受けるという将来が確定したことに一瞬優奈がショックを受けたようにしていたが、それもスルーである。

 全ては彼女自身が蒔いた種なのだから、責任は負ってもらわねばならないというものだ。


この後、航生には制裁がしっかり下され優奈はきっちりと叱られることになりましたとさ。

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