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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第五十八話 惜しむ別れ


 …その後、朱音が仮眠を取ってから目を覚ました後にも様々なことがあった。

 時間がそれなりに経っていたのでウォータースライダーに行きたいとせがんだ優奈が航生を引き連れて再びプールへと戻って行ったり、彰人は彰人で朱音と他愛もない話をしながら各々の時間を過ごしていった。


 …優奈たちが戻ってきた際に何やら疲れ切ったような顔を航生が浮かべていたことに関しては、特に触れずにおいてやったが一体何があったというのか。

 とりあえずろくでもない事態が勃発していたのだろうということだけは察したが、深入りしたところで良いことも無いためスルー一択である。


 それよりも彰人が気になったのは……やはり、朱音と過ごしていた際に感じた視線の多さだった。


 四人でいた時には航生という防波堤がいたためにそこまで気にも留めていなかった視線の数々だったが、それも彰人と二人で過ごしていれば心なしか送られる目線の数も増していたように思う。

 そしてその視線の多くには……『何故あいつみたいな地味なやつと、あれだけの美少女が一緒にいるのか』といった類の感情も込められているものも少なくはあるが確かにあった。


 もちろん、そんなことを気にしていたらキリがない。

 彰人と朱音の容姿で釣りあっていないことなど百も承知だし、それは何よりも自分自身で理解していることなのだから。


 …ただ、それを心のどこかで割り切れていないのは……彰人が未熟だからなのだろうか。




    ◆




「いやー、遊んだ遊んだ! すっかり時間が経っちゃったね!」

「もうこんな時間か……時間を忘れてたにしても、流石に夢中になりすぎたな」


 気が付けば時間も夕暮れ時になり、それまで遊び倒していたレジャー施設を後にして入り口付近に移動した彰人達一行。

 気持ちのいい疲れを発散するように伸びをしている優奈も言っていたが、すっかり時間が遅くなってしまったのは少し誤算だった。


 …予定では四時か五時辺りになったら帰宅しようかと話し合いで決めていたというのに、既に時刻は六時を回ってしまっている。

 遊ぶことに夢中になりすぎたあまり、帰宅時間の方が遅くなってしまったのは……少々反省しなければ。


「彰人! これからどーするよ? 俺としちゃどこかに寄ってっても良いが……流石に時間も時間だし、一旦解散にするか?」

「寄り道は……いや、やめとこう。女子二人もいるんだし、あんまり帰るのが遅くなってもあれだからな。このまま解散で良いと思うぞ」

「了解だ! …んじゃ、このまま別れってことで!」


 しかしその思考を一度打ち切った彰人は、航生の問いかけを受けてこのまま解散するか、あるいはどこかに寄ってから帰宅するかの二択を考えるが……それはあまりしない方がいいだろうと判断する。

 それに帰るのが遅くなってしまえば彼女たちの親も心配するだろうし、彰人と航生だけならばまだしも男女の帰宅が遅れるというのは外聞も良くない。


 他にも挙げられる理由は様々にあるが、諸々を考慮すればここで解散という流れが最善になるだろう。


「えー……もう解散しちゃうの? …せっかく朱音ちゃんと一日中遊べたのに、ここでお別れなんて寂しすぎる!」

「ゆ、優奈……また遊ぼうと思えば遊べるから、その時はまた誘ってよ」

「朱音ちゃん…! うん! 絶対誘うから、その時は遊ぼうね!」

「うん。だから今だけは我慢してね」


 だが、その決定に異議を唱えてくるのは優奈である。

 ほとんど想定できたような展開ではあったが、このタイミングで朱音と離れることになるというのに彼女が何も言わずに去るわけも無かった。



 ごねるようにして朱音と別れたくないと口にしていた優奈だったが……それも朱音の機転によって解決した。

 彼女とまた遊ぶための口実を得た優奈はそれだけで一気に気分を持ち直し、現金なものだが笑みを浮かべて朱音に引っ付いている。


「優奈、お前は航生とも帰る方向が一緒なんだからしっかり送ってもらえよ」

「それくらいは分かってますー! …彰人こそ、私と航生は方向違って送ってあげられないだから…朱音ちゃんのこと、ちゃんと家まで送ってあげてよ?」

「…分かってるよ。朱音、嫌かもしれないけど家まで送っていくよ。それでもいいか?」

「嫌なんてことは思ってないし、むしろこっちの方から頼みたいくらいだよ。迷惑かけちゃうかもしれないけど……お願いしても良いかな?」

「もちろんだ。朱音を一人にする方がこっちとしても怖いしな」


 優奈から真剣な面持ちで頼まれてしまったが、彰人とて朱音を一人きりで帰らせるつもりなんてない。

 これでも以前に訪問したことで彼女の自宅の所在地は把握出来ているし、彰人の自宅からも劇的に距離があるわけでも無いので送ることも大した負担にはならない。


 もしそれが出来ない要因があるとすれば、朱音から帰宅を同伴することを拒否されるくらいのことだったが……そこも本人から許可が得られたため問題無し。

 わずかに微笑みを携えながら受け入れる朱音の様子からは、むしろ彰人と共に帰れることを嬉しく思うような雰囲気すら感じられた。


「よしっ! だったらこれで全員の意見も一致したな! …それじゃあ彰人、今日は楽しかったぜ。来てくれてサンキューな!」

「あいよ。…出来れば、次からは誘うならもう少し余裕を持って誘ってくれ」

「考えておくわ! じゃあ優奈、俺たちは行こうぜ」

「はーい! …朱音ちゃん、帰る時にも気を付けてね。眠くなったら彰人の背中でも借りたらいいから我慢したら駄目だよ? むしろ彰人を馬車馬のごとく働かせた方がいいよ!」


 しかしそれも時間が経てばいつしか落ち着いてくる。

 全員の意見が合致したことで場の空気も自然とここで解散するものとなっていき、優奈も呼びかけをしてきた航生の元に駆け寄っていた。

 …その途中で何やら彰人への酷い扱いが提示されたような気がするが、そこに関しては聞かない振りをしておいた。


「そ、そんなことしないよ…? …とにかく、優奈も帰り道には気を付けてね」

「……マズいね、彰人にこんな可愛い子を任せるのが心配になってきたよ。もうこうなったら私の方で朱音ちゃんをお持ち帰りした方がいいんじゃ…!」

「……おい、いつまで喋ってんだ。航生、もう優奈に付き合ってたらいくら時間があっても足りないし、そのまま連れて行ってくれ」

「…一応これでも俺の彼女なんだけどな。ほら優奈、今は帰るぞー。俺と一緒にお家に戻ろうなー」

「ああ!? も、もう少しだけ時間を──っ!?」


 口ではもう帰るなんて言っておきながらいつまで経っても朱音から離れるような気配を見せない優奈に延々と付き合うわけにもいかないので、ここは彼氏でもある航生に引きずってでも連れて行ってもらうこととした。

 少し強引な手法だったことは否めないが、こうでもしなければずるずると時間が過ぎてしまうだけなのでとっとと面倒ごとは済ませておくに限る。


「……大丈夫かな、優奈。凄い抵抗してたけど…」

「航生に任せておけば問題もないだろ。…ああやって朱音に固執はしてたけど、時間が経ったら二人でいちゃついてるだろうし自然と忘れてるさ」

「…なら、問題もなさそうだね」


 引きずられていった優奈の姿を見て心配するかのような反応を見せる朱音だったが、そんな彼女の優しさを伴った心配は無用である。

 あれだけのインパクトを残していったからこそ失念しがちでもあるが、優奈と航生は彼らの学校でも噂が広がるほどに有名なバカップルであり、仲の良さも特筆して知られている。


 そんな二人が彼らだけで帰宅するのだから、心配せずとも少しすれば人目すら憚ることなくいちゃつきだすに違いない。

 …恋人同士のそういったワンシーンを見せつけられたくないからこそ早く帰らせたという理由もなくはないのだが、そこは黙っておくとしよう。


「それよりも、俺たちも帰るか。鳴海さんも遅くなると心配するだろうしな」

「…そうだね。そうしよっか」


 目の前の話題から意識を逸らすためという意味合いも兼ねて帰宅を促せば、朱音もそれに同意してくれたため足を進めることとする。

 なるべく朱音の歩幅に合わせることを意識しながらそれまで自分たちが滞在していた施設を後にした二人は、他愛もない会話を重ねながら歩いていくのだった。


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