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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四十六話 持ち掛ける友人


 朱音宅へと彰人が招待され、それが無事に終わった後にも色々と一悶着はあったが……その後はいつもと変わらぬ日常が続いていた。

 余談だが、この前鳴海から唐突に送り付けられてきた朱音の子供時代の写真に関しては既に本人に報告と謝罪済みである。


 向こうから勝手にやってきたこととはいえ、彰人も無断で見てしまったことに変わりはないのでその辺りの線引きはきっちりとしておくのが筋だろうという判断の下でもあったが、幸いなことに何とか許しはもらえたので安心した。

 電話越しであったため、本心かどうかは定かではないが……『お母さんが勝手にやったことだから、彰人君は悪くないよ。それより……む、昔の私を見てどう思ったかな?』とのことだ。


 …許しを貰えたことは良かったが、まさか朱音から感想を求められるとは思っていなかった。

 だがこれも彼女の写真を見てしまった自分の責任だろうと思い、素直に『可愛かった』ということを口にすれば……何故か通話の向こう側で少しの間黙られてしまったが、そこはまぁいいだろう。


 少なくとも、悪い印象を与えたわけではないと思いたい。


 そんなことよりも、今は過去ではなく未来を考えて行動するべきである。

 過ぎ去った時ばかりを振り返ったところで何かを得られると決まっているわけではないのだから、今目の前にあるものに着目していった方が余程建設的だろう。


 …そう考えているのは、現状に対する一種の防衛本能に近かったのかもしれない。

 何故ならば、現在の彰人の目の前には………直視すれば面倒ごとを確実に引き起こす二人組がいるからだ。


「ふっふっふ…! 彰人、今度私達と一緒に遊びに行こう!」

「そうだぞ! お前ってやつは気を抜いたらすぐに別の予定で埋めてるからな……今日という今日は逃がさん!」


「…色々と言いたいことはあるんだが、何しに来てんだよ。お前らは」


 ここは彰人のバイト先でもある佳奈が経営している喫茶店。

 夏休みの最中という事もあってそれなりに来店客の姿も見えている中にあるが、忙しさで手が回らないという程ではない。


 ランチタイムを過ぎてからは一時の休息とでも言うように人通りも少なくなってきたため、軽く掃除をしながら時間を潰していたのだが……そんな折にやってきたのがこの騒がしさの塊である男女の二人組。

 …一体どこから情報を嗅ぎつけてきたのかは知らんが、航生と優奈という彰人が考え得る限り最も騒々しいカップルがペアでやってきてしまったのだ。


 予告もなく現れては場を掻き乱していくのは学校であろうと夏休みであろうと関係なく相変わらずといった感じだが……それでもこの突発さだけはどうにかならないものか。


「何しに来たのかって? そんなの決まってんだろ…彰人を遊びに誘いに来たんだよ!」

「それは聞いてたら分かるんだよ。…それより、何で俺がここにいる時間を把握してんだ。バイトの時間なんて教えてないだろうが」


 そんなことを脳内で反芻しながら会話に耳を傾けていったが、まず気になる点としては彼らがここに来た時間帯だ。

 さりげなくやってきたために失念しかけてしまうが、そもそも二人には彰人がバイトに入る日程など一切伝えていない。

 一応連絡手段はあるゆえに、それを通じて教えたことがあるというのならまだ分かるものの、それだってせいぜいが航生に一部の空いている日にちを連絡したくらいのものだ。


 だからこそ、航生たちがこうして彰人のいる時間をぴたりと当てて訪れたことには疑念を抱いていたのだが……そこには予想外の人物が関わっていたようだった。


「あぁそれ? それなら佳奈さんに聞いたら普通に教えてくれたよ?」

「…ちょっと佳奈さん? 人の個人情報漏洩しないで貰えますか!?」

「えー? 別にそのくらいなら教えたって構わないでしょー?」


 …三人が話し合っていたテーブル席の傍ら。

 店の壁に沿って設置されているカウンターにて、食器の手入れを行っていた佳奈がまさかの情報源だったという真実に思わず彰人もツッコミを入れてしまう。


 というより、こちらの知らぬ間に何をしでかしてくれているというのか。

 確かにそこまで重要度が高い情報というわけではないのでそこまで必死に隠すものではないことはそうなのだが、そうは言っても無断で自分のスケジュールの一部が横流しされていたと知れば詰め寄りたくなるというものだ。


 …多分、流れとしては『佳奈さん! 彰人のバイトのシフト教えてもらっても良いですか!』なんて聞きに行った優奈に対して佳奈が快諾したのだろう。

 他の者ならばともかくとして、美少女かもしくは美人を前にすれば途端に対応が甘くなる彼女のことだ。


 直接その場にいなかったとしてもその情景は手に取るように分かるため、おそらくはこんな展開が彰人のあずかり知らぬ場で繰り広げられていたのだろう。


「まあまあ。そんな怒ってばっかだとすぐに体力がなくなっちまうぜ?」

「誰のせいだ、誰の! …はぁ、ともかく用件を早いところ話してくれ。一応こっちも仕事中なんだ」

「やっと話を聞く態勢に入ったな。…じゃあ早速本題に入るが、今度屋内プールに行かないかって誘いたかったんだよ」

「……屋内プール?」


 まるで自分の方に非が一切ないとでも言っているような航生の言動にはそこはかとなくむかつくものを感じたが、そこを言及していては一生話が進まないだろと直感したためひとまずスルーしておくことにした。

 …内心でこぼれそうになる溜め息を必死に抑えながらの返答にはなったが、それを悟らせないようにと意識を集中させていればその次に航生から持ち掛けられたのは何とプールへの誘いだった。


 プール。人によっては夏の定番とも言えるだろうし、風物詩の一つとして括られることもあるもの。

 彰人は高校に入る前、中学時代だと学校の授業以外で触れる機会がほとんどなかったためにそう誘いを持ち掛けられて聞き返してしまうが考えてみればベタな遊び場でもある。


「ほれ、この前電車で少し行った場所にでかめのレジャー施設が出来ただろ? そこの一つに屋内プールが盛り込まれてるらしくてさ」

「で、そこに私たちも行ってみようって話になったんだけど……二人だけだとなんかちょっと寂しいし、彰人も誘いに来たってわけ!」

「…なるほどな。言われてみればあの辺りで工事とかやってた気がするよ」


 航生たちに教えられてから記憶を洗い出してみたが、確かに風の噂で近くに大き目のレジャー施設が完成したという話を小耳にはさんでいたような気もする。

 大して興味も無かったので詳しいことは何も知らなかったが、今考えてみればそこのプールとやらの話だったのだろう。


 …こうなると分かっていたらもう少し詳しく調べておけば良かったと若干後悔も湧き上がってくるが、そう思ったところで後の祭りだ。

 元々航生たちに誘いを持ち掛けられるなんてこと自体を想定していなかったのだから、その辺りは仕方がないと割り切っておこう。


「まぁそのくらいならいいけどさ。何日に行く予定なんだよ」

「日にちとしては…そうだな。みんなの日程が空いてる頃が良いから五日辺りとかはどうだ?」

「五日か……多分そこなら問題ない。俺も特に用事は入って無かったはずだ」

「っしゃ! そんじゃ行くことは決まりだな!」


 ひとまず遊びに行くのだとしても具体的な日程が分からなければ話を進めようもないため、どのタイミングで訪れる予定なのかと尋ねてみれば特に問題もない日だったのでそのまま了承した。

 とんとん拍子で向こうのペースに飲まれている気がすることは否めないが、こうなったら止めようもないことは彰人も長い付き合いでよく分かっている。


 何より……彰人自身、この二人と絡む際の空気感を不快だとは思っていないことも事実である。

 騒々しさの中に鬱陶しさを感じることも時々あるが、それもまた航生と優奈の良さであるためそこを否定することはそうそうない。


 怒涛の流れで組み上げられていくスケジュールではあったものの、たまにはこういったことも悪くないだろうと思いながら彰人は眼前の二人との会話を続けていくのだった。




「あっ、そうだそうだ。プールに行くときは朱音ちゃんも誘ってあるから、彰人もそのつもりでねー!」

「………おい、そういうことは先に言え!」


 …そして大まかな行程が決め終わった後、ふと何かを思い出したかのような仕草を見せた優奈から何の気なしに朱音が来ることを告げられたが、流石にそこには口を挟んでおいた。

 そういう重要なことは先に言っておけと普段から伝えているというのに……いい加減学んでほしいものだと内心で愚痴をこぼさずにはいられなかった。


彰人のプライバシーは漏洩しがちだったりする。


主な原因は佳奈さんですけどね。

まぁ、そこは二人の信頼関係あってのものってことです。

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