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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第三十七話 彼女の背負い方


 朱音から彼女の家まで自分を送ってほしいという旨の申し出をされてから数秒。

 彰人はその突発すぎる内容に思考がショートでもしてしまったのか、頭が理解を拒んだように動きを停止してしまったが……その様子を見て己の発言が聞き取れていなかったとでも思われてしまったのだろう。


 不思議そうにあれっ? とでも言うような表情を浮かべていた朱音だったが、それもすぐに気を取り直すと再度彰人の方に言葉を投げかけてくる。


「…聞こえてなかったかな? 彰人君には私を家までおぶっていってほしいんだけど……」

「……待て待て、まずそこに関しては聞こえてたから問題ない」

「あっ、そうだったんだね。なら良かった」

「良くも無いんだけどな……どういう思考を経たらそうなるんだよ」

「そうなるって…何が?」


 …両者の間にある認識にも齟齬が存在しているように感じられるが、こればかりは彰人も自分の反応の方が正しいと信じている。

 何せ朱音から伝えられた要求は、彼女を家まで送っていくというだけに留まることがなくさらにその先……朱音をおぶっていくというミッションまで課されてしまっている。


 これで動揺するなという方が難しい話だ。


「あのなぁ……俺が朱音をおぶるってなったら、お前もこの人混みの中で俺に背負われてるところを見られることになるんだぞ。それでもいいのか?」

「何だ、そんなことか…別に大丈夫だよ。私はそのくらいなら気にしないからさ」

「俺が気にしてほしいんだよ……」


 だが、そう簡単に安請け合いをするわけにもいかない。

 現在進行形で周囲からの目線を集め続けてしまっているこの状況で、何も考えずにそのような要望を受けてしまえばどうなるのか……それは言うまでもあるまい。


 色々と否定したい理由もある上、何よりも彰人の羞恥心が刺激されすぎて理性が死にそうになるので勘弁してほしいところだったのだが……そう本人に進言したところでのらりくらりと躱されてしまうだけだった。


「それに自分で歩けたりはしないのか? ほら、背負うとかじゃなくて軽く肩を貸すとかでもいいだろ」

「無理ー……眠すぎて自分じゃ一歩も動けないんだよ……」

「……マジか」


 最後の抵抗として思いつく限りの代替案を口にしてみるが、それも全く意味を成さない

 項垂れるようにして自らの膝に顔をうずめる朱音の様子からして、普段よりも強力な眠気が彼女を襲っていることは何となく分かるものの…まさかただの一歩として動けないとまでは思っていなかった。


 …こうなってしまったら本格的に手詰まりである。

 他に打つ手も無いものかと限界まで思考を巡らせて考えてはみるものの、現状で出せる策などそう都合よく見つけられるわけもなく……結局、最終的にはこの結論に至るのだった。


「はぁ……なら仕方ない。じゃあ朱音の家までは俺が背負って行ってやるから、場所だけは教えてくれ」

「おぉ…! ありがとうね、助かるよ」

「もうこうなったらほとんどやけくそだけどな……あぁそれと、もし身体を触られるのが嫌とかだったら素直に言ってくれ。そん時は…出来るだけ触らないように努力するから」

「そんなこと言わないから安心してくれていいよ。…それじゃあ早速だけど、背中を向けてもらっても良いかな?」

「はいよ…」


 時には諦めるという選択肢を取ることも必要なことがあるのだ。

 頭をがりがりと掻きながら葛藤の末に下した決断であったが、朱音をここに置いていくことが出来ず彼女が一人で動けないというシチュエーションに出くわしてしまった時点でこうする以外に解答などあるわけも無かったのだろう。


 …表には出さない内心では果たしてこれで正しかったのだろうかという思いも消えずに燻ったままだが、受け入れてしまったからには割り切るしかない。

 そう考えて彰人は朱音が乗りやすいようにと背中を向けながら少し屈み、向こうがのそのそと乗り上げてくるのを待つ姿勢に入った。


 …そして、彰人が朱音をおぶる体勢に入ると同時に周りがまた一段と騒がしくなってきたような気がするが、今の彰人に出来ることはあの人の大群に紛れて顔見知りがいないことを願うばかりである。


「よいしょ…っと。…今更だけど、重かったりしないかな? そこまで負担になるような身体ではないと思ってるけど……」

「むしろ軽すぎて驚いたくらいだから安心しろ。…本当にちゃんと飯食べてるのか?」

「これでも食べてるつもりなんだけどねぇ……何故か体重には向かわないんだよ。嬉しいことでもあるんだけどね」


 背中に乗り上げてきた朱音になるべく負担にならないようにと揺らさないことを念頭に置きながら彰人は試しに立ち上がってみる。

 …が、その瞬間にあまりの手ごたえの無さに彰人は素で驚かされることとなってしまった。


 普通なら人一人をおぶるともなれば、わずかなりにも重量が背負う側への負荷となって圧し掛かってくるものだろう。

 だというのに……今朱音を背負いながら立ち上がった彰人にはそれらの負担など全く感じられず、それどころか想定以上の身軽さに普段からしっかり食事を取っているのかという心配まで湧き上がってきてしまう始末だった。


「はあぁ……彰人君の背中ってやっぱり大きいね。男の子って感じがするし…思わず寄りかかりたくなっちゃうよ」

「っ! …あー、そりゃ良かったと言いたいところなんだが、ちょいともたれかかりすぎるのは勘弁してくれ。その…色々と問題があるから」

「え? 何か不都合でもあった?」


 しかし朱音の方はというと、そのようなことは意にも介さずに変わらぬ空気で彰人の背中へと自身の体重を預けてきていた。

 きっとそれは彰人に対する彼女なりの信頼感の表れでもあったのだろうが……彼女が寄りかかってきた途端に感じ取ってしまったとある感触によって、彰人は内心で冷や汗をかくこととなる。


 …普段の言動があれなだけに忘れられがちだが、朱音は少し小柄な身長とは裏腹にその体型は完璧と言って差し支えないものを持っている。

 出るところは出ていながら、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいるというまさに男子高校生にとっての理想そのものとすら表現できる朱音の容姿。


 いつもは彰人もその部分よりも、彼女の言動に目がいきがちなので特段意識することも無いのだが……今回ばかりはそうもいかない。

 何しろ現在の二人は体勢的に朱音が彰人に身体をほとんど押し付けるようにして背負われている状態であり、そんなことになれば……まぁ、そういうことである。


 あまり大きい声で言うことでもないのは百も承知であるが、端的に言ってしまえば彼女の身体と共に胸も押し付けられてしまっているのだ。

 …本人がまるで気にする様子も気が付く気配も見せないので大きなリアクションを取れないのが辛い。

 表では冷静に対応できているように取り繕っているが、その実朱音の無防備さに自分の理性がゴリゴリと削られていくのを彰人は痛感していた。


「不都合というか……あー、とにかく! 早く帰るからしっかり掴まっておけよ!」

「…? う、うん……変な彰人君だね」


 無自覚というのがこれほどまでに困らせられるものだとは思っていなかった。

 もちろん指摘したいところも山々なのだが……もしこれを口にした場合、朱音に恥をかかせてしまうのではないかという懸念と胸が当たっているという言葉を彼女に伝える際に湧きあがる羞恥が彰人から度胸を奪い取っていく。


 その結果、最終的には彰人が可能な範囲内で特定の感触を意識しないように努めながら帰路に着くという事で落ち着いたが…込み上げてくる気まずさだけはいつまで経っても消えそうにない。

 悪いことなどしていないはずなのに、どうしても感じてしまう罪悪感をひしひしと感じながらも……彰人は何とか朱音の荷物も手に取り、共に広場を離れていくのだった。


朱音側が身体を押し付けていることを気にしていないので無闇に指摘が出来ないのと、周りからの視線の圧力という二重苦。


これに耐えてる彰人のメンタルは相当なものだと思います。

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