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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第二章

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第三十六話 早すぎた再会


 まさかの出掛け先にてよりにもよって朱音と遭遇するという、己の巡り合わせが良いのか悪いのかも分からない事態に鉢合わせた彰人。

 唐突過ぎる展開に脳が状況の理解に追いつかず、半ば混乱しかけていたが……それと同時に納得もした。


 何故ここまで人だかりが形成されていたのか。先ほどまでは不明瞭でしかなかったその原因だったが、何てことはない。

 ここにいる理由こそ彰人には皆目見当もつかないものの、どうやらこのショッピングモールを訪れていたらしい朱音が佇んでいたからこそこれだけの人々の注目を集めていたのだ。


 …今更言うまでもないことだが、朱音はとてつもない魅力を秘めた容姿を持った少女だ。

 それこそ今周囲を見渡してみても、彼女に匹敵するような美貌を持った人物などそう容易くは見つけられないと断言できるレベルだ。


 そんな朱音が人の多い中に居ればどうなるのか……その結果が()()である。


 どうあっても注目を集めてしまうほどに整った顔立ちをしている彼女はそこにいるだけで人の視線を独占してしまい、結果として現状のような朱音を中心とした人の輪を作り上げてしまったのだろう。

 …当の本人はそんなことなど微塵も気にせずに眠そうな状態をキープし続けているが、まぁその辺りはもはや必然の流れだったと言って差し支えないだろう。


 しかし…こうも巡り合ってしまった以上、どうしたものかと彰人も悩むこととなってしまった。


(まさか朱音がいるとはな…いや、場所を考えれば来てること自体は何も不思議ではないけど鉢合わせるとは思っても無かった。…どうする、話しかけるべきか?)


 偶然とはいえ朱音の存在を認識してしまった以上、何も言わずに立ち去るというのも後味が悪い。

 友人ならば一言は掛けていくのが筋というものだろうし、それくらいならば別に気にすることも無く彰人もこなしていくだけなのだが……あいにく、今に限っては状況が普通とは言い難いものであることもあって躊躇してしまう。


 おそらく向こうから反応が一切見られないので朱音は気が付いていないのだろうが、現在のここ周辺は表立ってリアクションこそ見せていないだけで大半の者が彼女に視線を向けている。

 幸いなことに朱音に厄介な絡み方をするような者の姿は見られないのでそういった意味では安心だが、こちらから話しかけに行くとなれば話は変わってくる。


 …別にやましいことがあるわけでも無いし、朱音との間柄も考えればおかしなことでも何でもないのだから素直に声を掛ければいいだけなのだが……あの輪の中に突撃していけば、ほぼ確実に莫大な注目を集めてしまうことは間違いないだろう。

 それを思えば出せるはずの勇気も萎れていくのを否応にも感じてしまう。


(…けどな。朱音がここに居座ってたらいつか知らないやつに声を掛けられるかもしれないし、それは流石に怖い)


 心配しすぎかもしれないが、この注目度の中にあっては彰人が不安に思うようなことが起こっても不思議ではない。

 現に今も尚朱音を見る目線は増えているように思えるし、それに伴ってナンパ目的で彼女に接触していく者がいないとも言い切れない。


 むしろこれだけの注目を既に集めてしまっているのだから、その可能性は高いとすら言えるだろう。

 もし仮にそんなことになったりすれば……やはり、拭いきれない不安感が募っていくことは確かだった。


(朱音も若干天然なところがあるからな……いくら何でも知らない相手にほいほいついていくことは無いだろうが、やっぱり一言だけ話しかけておくか)


 朱音も同い年なのだからその程度の危機感は持ち合わせているだろうが、こればかりは彰人自身の精神安定のためでもある。

 特に必要もないことだろうし、きっと徒労に終わるどころか朱音からは何を言ってくるのかと返されるのがオチだろう。


 …それでも構わない。声を掛けなかったことで朱音がいらぬトラブルに巻き込まれるくらいならば、多少の恥を代償としてもこちらの心の平静を確保するように動いた方が何倍も良い。

 そう決意すると彰人は、覚悟を決めるように軽く呼吸を整えて混みあったこの場から一歩を踏み出していく。


 それに伴って周りの視線の一部が、気のせいか彰人に対して向けられたような気がするが……そんなものに意識をやったところで意味はない。

 どうせここにいる者の大半は自分にとって見知らぬ赤の他人であり、そのような相手のことをいちいち注視なんてしていればいくら強靭な精神力があったところで足りるわけもないのだから。


 だからこそ、彰人はこの後に控えているであろう面倒ごとにもなるべく考えはしないようにして、衆目の下話しかけに行く。


「…あー、朱音。こんなところで何やってんだよ。そんな状態で寝ようとしてたら風邪引くだろ」

「んっ……え、彰人君? 何でここにいるの?」


 …彰人が出来る限り平静を装いながら朱音へと声を掛けた途端、考えすぎだとは思うが少し周囲からざわめきのようなものが聞こえた気がする。

 その原因が見た目麗しい美少女に気安く接触していく無礼者を見たからか、はたまた単なるナンパを目的として分布相応な相手を狙った不埒者だとでも思われたのかどうかは確かではないが。


 いずれにせよ、そんな周りの目は一旦無視である。

 今は周りに振り回されるばかりではなく、驚いたように閉じかけていた目を開いて彰人へと丸めていた身体を向き直してくる朱音への対応に集中するべき時だ。

 …断じて彰人達以外の第三者の反応を見るのが恐ろしかったわけではない。痛んでいるように思える胃のことも含めて、まとめてスルーしておけば良いのだ。


「俺はちょっと用事があって本屋に来てたんだよ。そしたら朱音がベンチで眠たそうに丸まってたから声を掛けに来たんだが……本当に何してるんだ」

「あーそうだったんだぁ……それはまたすごい偶然だね」


 まだ眠気が頭から取り払えていないからか、ぽやぽやとした雰囲気を纏って語尾もどこか間の延びた返事をしてくる朱音。

 …彼女がやるとそんなあざといと言われるような仕草さえ可愛く見えてくるのだから反則だとさえ思えてくるが、そんな感想を口にする時でもないのでこれは己の胸の内にグッと堪えて言葉を続けようとする。


「そこに関しては完全に同意だがな……で? そっちは何の用事で来てたんだ?」

「私はねぇ……お母さんからお使い頼まれたからここまで買い物に来てたんだよ……でも、買い終わって帰ろうとしたら急に眠くなってきちゃって…」

「……ここで休んでたと?」

「そういうことだね…」


 朱音の方もこの偶然の再会には一応驚いていたようで、事情を説明しながら眠そうにはしていたもののそれと並行して驚愕の感情が見え隠れしていた。

 気持ちは分かる。何せその驚きは彰人も同様に抱えているものだからだ。


 学校が夏休みに入ってから数日。彼女とはしばらく会うことも無くなるだろうなどと考えて微かな寂寥感を覚えつつもお互いの時間に入っていったというのに、わずか数日で再会を果たしてしまったのだ。

 …ここが人の多く集まる施設だからと言って流石に限度もあると声を大にしたくなるというものだろう。


「…相変わらず朱音の体質は難儀なものだな。というか家までの道のりくらいなら気合いで歩けたりは……しないか。絶対無理だろうな」

「よく分かってくれてるようで嬉しいよ……まぁ私もあと少し仮眠を取ったら動けるようにはなると思うから、ここは気にしないで彰人君は帰っちゃって大丈夫だよ」

「んなこと出来るわけないだろ……しょうがない。なら、何か俺に手伝えたりすることとかあるか?」


 彼女の方からも何故こんな場所に留まっているのかと詳しい経緯を聞いてみたが、どうやら向こうは向こうでしっかりと用事があってここを訪れていたらしい。

 しかし…問題が発生してしまったのはその後だったようだ。

 朱音らしいと言えばらしいのだが……買い物を終えた後で唐突な眠気に襲われてしまった彼女はその状態で歩き続けることは危険だと判断し、適当な場所にて睡魔が収まるまで休んでいた、とのことだ。


 それが先ほど彰人が目にした光景に至るまでの一部始終であり…あれだけの人を無意識に集めてしまった朱音にも悪気はなさそうだったので、特に言及もしないでおいた。

 それよりも話すべきはこれからのことについてだ。


 朱音の睡眠欲の強さをよく知っている身としてはこの状態になってしまった彼女が自力で帰っていくことなど出来ないことも理解しているし、無茶はさせたくないという思いもある。

 …だが、ここに弱っていると言っても過言ではない朱音を一人取り残すというのも心情的にありえないので、何か助力できることはないかと尋ねてみれば……彼女から思いもしていなかった要請を飛ばされてしまうこととなった。


「だったら……彰人君にお願いしたいんだけど、私を家までおぶっていってくれないかな?」

「……んん?」


 …もたらされた発言。その意味。

 内容を理解するために優に数秒は費やしてしまったが……あまりにも突飛な言葉に、彰人は申し出に対して疑問符で返すこととなってしまったのだった。


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