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第三話 友人との語らい


 朱音との奇妙な出会いを経てから一日が経過し、彰人はわずかに眠気の残った身体を無理やり動かしながら学校へと登校していた。

 …もうじき夏がやってくるということもあって日に日に増していく熱気にもうんざりとしてくるが、まぁそこはもうどうしようもないことだ。


 天候に文句を言ったところで涼しくできるくらいならとうの昔からやっているし、そこに労力を割くくらいなら現状自分の手で出来る範囲のことで少しでも快適に過ごせるようにした方が遥かに効率的。

 なので今の彰人もそれを実践すべく、滴ってくる汗を手で拭いながら風が来るようにもう片方の手で自らを仰いでいるが……別にそこはどうでもいいか。


 それよりも今はこの目の前に居座っている友人への対応が最優先と言うべきだろう。


「なーなー! 何か面白い話無いのかよ、彰人! 退屈すぎて俺は干からびそうだぞ…」

「…面白い話とかいう抽象的な話題を期待されてもネタなんてないぞ。要求するならもう少し具体的に言ってくれ」

「面白い話と言ったらそりゃ面白さに満ちた話題しかないだろ! …マジで何か話すことないのか?」

「だから無いって言ってんだろ」


 彰人の目の前の席に座りながら後ろを振り向いて騒がしく声を張り上げているこの男は彰人の友人の一人でもある青羽(あおば)航生(こうせい)

 わずかに茶髪が混じった髪を揺らしながら口々に暇だと言ってくる彼は高校に入ってから出来た友人であり、そこまでパッとしない印象を受ける彰人とはまた異なり航生はかなり目立つ容姿をしている。


 はっきりとした目鼻に対してしつこさを感じさせないスポーツマン系の爽やかな雰囲気が感じられる航生は、十人に聞いたら十人がイケメンだと回答するくらいには抜群の風貌をしている。

 …正直、何故彰人とこうして絡んでいるのかも分からないくらいのものだが当人曰く「彰人と話してると退屈しないからな!」らしい。意味が分からない。


 まぁそこは置いておくにしても、彰人としても航生と話している間は向こうのテンションに引っ張られて時間を持て余すことはないのでその点に関してはありがたく思っている。

 …それでも時折持ち前のノリと勢いだけで行動するようなあっけらかんとした性格のせいで発生するトラブルに巻き込まれるのだけは勘弁してほしいところだが。


「だけどよぉ……せっかくの夏休み前なんだから彰人も彼女の一人くらい作ったらどうだよ。そんで優奈(ゆうな)と一緒にデートでもしようぜ!」

「またその話かよ……それに関しては前にもしないって言ったよな?」

「俺はまだ諦めてないからな! …いつか親友にも春が来ることを祈ってやってるのさ」

「嘘つけ。単にお前が楽しみたいだけだろうが」

「………そんなことないぞ?」

「そう言うなら俺の目を見て断言してみろ、おいこら」


 そんな他愛もなくくだらない談笑をしている彼らだったが、ふとした拍子に航生から語られたのは前々から意味もなくつつかれていることだった。

 …航生は何故かは知らないが、事あるごとにこうして彰人に向けて誰かと付き合わないのかと問いただしてきたり気になるやつがいないかと聞いてくるのだ。


 しかし彰人としてはそこまで自分の恋愛沙汰にも興味は沸かないし、何よりもそういう相手は無理をして作るものではないとも思っている。

 自分が心から好きだと思えるような相手が現れたならともかくとして、そうでもないなら半端な気持ちで交際を申し出るというのは相手にとっても失礼に当たることだ。


 そう思っているからこそ毎回のように繰り返されているこの会話でも同じことを説明してやっているのだが……如何せん相手があの航生なので大して効果はない。

 それどころか否定すればするほど、逆境になるほど燃え上がるという何とも面倒な性格をしているために強く意見を口にすればそれだけこちらが照れ隠しでもしているという解釈がされてしまうだけなのだ。


 …本当に、一回くらい殴ってでも正気にさせてやった方が良いのかもしれない。


「そうだな……それならクラスの中で少しでも気になる相手とかいないのか? 思わず意識がそっちに向けられそうなやつとかさ!」

「だから無いって言ってんだろ……あと暑苦しいからあんま近寄るな」

「ひどい!?」


 彰人の一言にまるで傷ついたかのようにオーバーリアクションを取ってくる航生だったが、騙されてはいけない。

 こいつがこのような反応を見せる時には大抵の場合、ほとんど傷ついてもいないのにふざけているだけなので真に受ければ損をするのはこちらだけなのである。


 それなりに付き合いを重ねてきたからこそ分かることだが、今回のこれも間違いなくその類の挙動だ。

 そうやって何でもかんでも高いテンションを維持できるのは尊敬できるところでもあるのだが……今のような言動をされれば無性に腹が立ってくるのも仕方ないと言えよう。


「もうこうなったら最終手段を取るしかないか…! いっそのこと俺の方で彰人と性格の合いそうな女子を見極めて引き合わせるしか……」

「それを本人の目の前で言ったら意味ないし……もしやってきたら友人としての縁切るからな? 間違っても画策したりするなよ」

「ちくしょおっ! 俺は一体どうしたら……!」

「…余計なことを考えようとしなければいいと思うぞ」


 そして今度は大人しく彰人も傍観に徹してみれば、何やら怪しげなことを企む友の言葉が聞こえてきた。

 どうしてそこまで彰人の恋愛事情に首を突っ込みたがるのかは不明なところだが、仮に今口にしていたことを実際に行ってきたらその時は全力で関係を断ってやろうということだけは心に誓った。


 そう言うと悔し気に歯を噛み締めながら追い込まれた人間のような発言をする航生だったが、そもそも彰人の内情に口を挟もうとしたりしなければ全ては丸く収まる。

 たったそれだけのことだというのに、その一点が守れていないからややこしくも面倒なことに発展しかけているのだ。


「はぁ…まぁ冗談はここまでにしておくにしても、彼女は良いもんだぞ? いてくれるだけで気分も絶好調になっていくし、何よりも可愛い! 最高だ!」

「その辺りは……お前と優奈を見てれば何となく伝わってくるところはあるけどな。というかお前らの仲が良すぎてそっちは参考にならないんだよ」


 ちょくちょく先ほどから会話の中でも登場している優奈という人物。

 これは他でもない航生の彼女でもあり、数少ない彰人の友人でもある少女の事だった。


 優奈という少女について一言で表すとすれば明るい人物であり、その性格も付き合っている航生に引っ張られでもしたのではないかと言いたくなるくらいに二人は似通った思考をしている。

 …そんなだからこそ波長も合って交際という結果にまで至ったのかもしれないが、やはり何においてもまず目につくのは彼らのあまりの仲の良さは隅に置いておくことが出来ないだろう。


 所かまわずという言葉が比喩でも何でもなく、文字通りの意味だと言えるくらいに二人が揃っている時には周囲にすら構うことなくとにかくいちゃつき始めるのだ。

 恋人同士の仲が良いこと自体は喜ばしいことでもあるので、別に文句を言うつもりもないのだが……それにしてももう少し場所と時間を考えろと言いたくなる。


 航生と絡むことが多い彰人は既に何度目撃したか分からないレベルで彼らのやり取りを見てきているので流石に感覚も麻痺してきたのか慣れてしまったが、それでも未だに航生と優奈が揃った現場では彼ら以外の男子から嫉妬の目を一身に浴びせられている風景などもはや日常茶飯事である。

 そんな友人たちの姿を見ていれば、彼女がいる生活というのも楽しいものなんだろうなとは思えるが……自分がそうなりたいかと聞かれれば答えはまた微妙なところだ。


「お前らを見てるとこっちの方が恥ずかしくなってくるくらいだし、流石にああまでなることはないだろうよ」

「いーや! そう言うやつほど付き合いだしたら相手を溺愛するって相場は決まってんだ! 俺の勘じゃ間違いなく彰人もそのタイプだね!」

「何の根拠があるってんだよ……」


 ビシッと指をさされながら何か見当はずれなことを指摘されたものだが、どう言われようと彰人は自分が誰かのことを本気で好きになる姿など想像することも出来なかった。

 そんな何の変哲もない、されどどこか心地よくもあるくだらない時間はあっという間に過ぎ去っていくのだった。



航生も彰人のことを思って言っていることは確か。


それは確かだが…助言するべき方向性を思いっきり間違っているのでああいうことになる。


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