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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第一章

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第二十八話 試験を終えて


 四人で勉強会を実践してからの日々はあっという間と言って差し支えないものだった。

 あれからも各々の勉強に集中していく時間が多かったからか、何か一つのことに意識を向けて取り組む時間というものはこちらが認識しているよりも遥かに早く時が過ぎ去っていく。


 気が付いた時にはテスト本番の日程にまで差し掛かっており、彰人も若干緊張しつつではあったが無事に全ての試験を終えていった。

 …今回のテストは高校一年の夏休み前における学力を確認するという意味合いが強かったので、難易度としてはそれほど難しいというものでもなかったと彰人の感覚としては感じた。


 手応えとしてもあの勉強会の際に航生に教えていたことが功を奏したからか、自分でもそれなりに解答出来ていたと実感したので結果的に良かったと言えるだろう。

 そして今、彼が何をしているかというと………


「…いよっしゃぁぁっ!! 全教科赤点回避してやったぞ!」

「うるせえ! 少しは声のボリュームを落とせ!」


 …目の前ではしゃぐように大音量で歓喜の声を上げる航生と互いの成績を教え合っている最中だった。

 航生が言っていることからも分かる通り、どうやら彼も無事に目標としていた赤点を回避することには成功したらしい。


 それ自体は素直に喜べることだと彰人も一瞬思ってしまったが……しかし、よくよく考えてみればあれだけ懇切丁寧に試験範囲の勉強を教えてやったというのに出した結果が赤点を何とか抑えられただけというのは如何なものなのだろうか。

 …机の上に並べられた航生のテストの点数をザっと眺めてみれば、大体平均して各教科四十点辺りの得点が見て取れるが欲を言うのならばもう少し上の成績を収めてほしかったところだ。


「しっかしこれで……ようやく何の懸念もなく夏休みを迎えられるな!」

「…はぁ。まぁお前も今回はしっかり努力してたから何も言わんが…あまり俺に頼られすぎても困るからな?」

「こういうのは彰人に頼れば大体何とかなるって相場が決まってるからな。…それにお前だって、すかした顔してるくせにしっかり高得点取ってんじゃねぇか! この優等生が!」


 しかし、そのことを指摘すれば何故か航生は逆切れするかのようなリアクションを見せてくる。

 向こうから言及されたのは航生と同じように広げていた彰人の点数に関わることだったが……正直そんなことを言われても彰人としては何のことやらといった感じである。


「いや、お前のボーダーが低いから高く見えてるだけで俺は普通くらいだからな? そんな言われるほどではないだろ」

「どう見ても高得点だろうが、くそっ! そうやって頭がいいやつは無意識に勉強が出来ない俺たちの心を抉ってくるんだよ…!」

「何を言ってんだよ…」


 悔し気にその顔を歪め、どうしてか彰人が悪いように責め立てられてしまったが確かに航生が言うことも間違いではない。

 彰人自身に自覚がないため、彼は首を傾げていたがそんな反応に対して広げられているテストは何よりも如実に真実を物語っている。


 先ほどは航生の得点の平均が四十点台と述べたが……それと比較して彰人の成績はどの教科も七十点は超えており、科目によっては八十点に届いているものも珍しくない。

 彰人本人はこれくらいならば取れて当然などと考えているため、航生の反応に不可思議なリアクションを返すのみだったが彼の得点は十分に凄いと言える域に手を掛けている。


 …近くにそれ以上の高得点を叩き出した者がいたため、それを実感しづらいという事情も少なからず影響はしているのだろうが。

 なんにせよ、そんな茶番とも言える雑談を繰り広げながら盛り上がっていると見えなくもない点数の公表会。


 どちらかと言えば盛り上がっているのは一方の人物だけなのだが……そのハイテンションな空気を嗅ぎつけられたのか、近寄ってくる人物の姿が一つあった。


「…よいしょー! 航生たちもテストお疲れ! 結果はどうだった?」

「うおっと!? …なんだ優奈か。俺の方はばっちりだったぜ!」

「おぉ! それじゃあ勉強会の効果出たんだねー! 良かった良かった!」


 航生の背後から飛びつくようにして現れたのは、いつにも増して気分を良くしている優奈。

 どういうわけか楽し気なオーラを全開にしている彼女は言動もそれに合わせて強化されているようで、いちいち発せられる声色も一段階高まっている気がする。


「彰人の点数はー……って聞くまでもないか。どうせ彰人のことだしサラッと高得点を取ってるんでしょ」

「どうせってなんだ。どうせって」

「だって彰人って朱音ちゃんと同じで何気ない顔して勉強できそうだし……それで? 実際のところはどうなのよ?」

「優奈……彰人のやつ、こんだけの点を取ってて大したことないとか言ってんだぜ? もう腹立ってくるよな」

「どれどれ…? …うわぁ、これは完全にギルティだね。許してはおけないよ」

「何でだよ!?」


 彰人にとっては当たり前のもの。取れて当たり前の点数だったが、他者にとっては評価はその限りではない。

 現に彼のテスト用紙を一通り眺めた優奈なんかは大きく顔を歪めながらおかしなことを言ってくる始末だし、航生もそれに乗じてやけに大げさな身振り手振りを添えてやれやれという空気を醸し出している。


 …優奈が加わったことで一層騒がしさを増してしまった会話だったが、このまま続けていたところで彰人が段々と不利になっていくことは明白だ。

 なのでこちらから無理やりにでも話題を切り替えようとしたのだが……それよりも早く向こうの方から話を転換されることとなる。


「はぁ……まぁ彰人のこれに関しては後で色々と言わせてもらうとするから、今は放っておこうか」

「後から何か言われることは確定してるのかよ……」


 溜め息をつきながら後々に物申されることが確かなこととして宣言されてしまったが、そこを突いていればいつまで経っても話が終わりが見えないので置いておくこととする。

 こればかりは時間が過ぎるのと同時に優奈が追及に関する件について忘れてくれることを期待するしかあるまい。


「それはそうとさ、彰人に伝えておかないといけないことがあるんだよね。私がここに来たのもそのためだし」

「ん? 俺に伝えたいことって……まさか面倒ごとじゃないだろうな? それだったら全力で拒否するぞ」

「何でそういうことになるのよー! 今回はそういう事じゃないから!」

「なら良いけど…それで? 肝心の内容は何なんだ」


 だが、大人しく優奈が言うことを聞いていれば彼女の目的は意味もなく彰人たちに絡みに来ることではなくこちらに伝えることがあったかららしい。

 てっきりただただこちら側の声に釣られて雑談に交じってきたものだとばかり思っていたので、そこは少し意外でもあったが……そういうことであればもっと早く言ってほしかった。


 そうしてくれればいらぬ言葉の暴力など受ける必要など無かったというのに……いや、それは今更か。


「そうそう。用件なんだけどね……朱音ちゃんから彰人に伝言を頼まれてたんだよ」

「朱音から? …また、珍しいこともあったもんだな」

「私も聞いた時には驚いたけどねー。で、内容が『二階の空き教室に来て欲しい』だってさ。何か心当たりとかある?」

「空き教室……特にはないな。けどあいつから呼び出しってんならちょっと行ってくるよ」


 しかしその内容というのがこれまた意外なものであり、優奈を介して用事を伝えようとしてきたのは朱音だということらしい。

 …普段は教室にて寝てばかりであり、他者とのコミュニケーションを取るのも一苦労する彼女からこのようなことをされるとは思ってもみなかったため少し面食らってしまったが、それならばそれで早いところ向かった方がいいだろう。


 伝言をしてきたということは朱音は既に告げられた教室にて待機しているということだろうし、彼女を待たせないためにもすぐに赴いた方が良さそうだ。


「…彰人、朱音ちゃんからは何も聞いてないから何を話すのかは知らないけど……くれぐれもあの子を悲しませるんじゃないよ?」

「……多分だけど、お前が想像してるようなことにはならないからな。期待するだけ無駄だぞ」

「照れなくても良いって! 二人の帰りを楽しみに待ってるからね!」

「人の話を聞け! 違うって言ってんだろ!」


 …が、向かおうとした直前に優奈から肩をポンと叩かれて見当違いなアドバイスを送られてしまった。

 十中八九彼女が考えているのは朱音から告白でもされるのだろう、とかその辺りのことだろうが……ほぼ確実にその予想は外れである。


 何だか最後の最後に閉まらない形になってしまったが…妙な方向に思考を突き抜けさせようとしている優奈にいつまでも付き合っていられない。

 溜め息をこぼしながら自分たちのいた教室を出ていき、足早に言われた教室へと進んでいく彰人の胸の内ではこの先に待ち構えている展開への思索が入り乱れているのだった。



なお、彰人が去った後に教室に残った二人の会話。


「ところでさ、航生の点数って具体的にどれくらいだったの?」

「お、優奈。そこに触れてくれるか? …見てくれ! この栄えある点数たちを!」

「……あー、うん。航生」

「ん、何だ?」

「今度からは私もきっちり監視するから、もう少し勉強しよっか?」

「…………えっ?」

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