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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第一章

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第二十二話 勉強と休息時間


 彰人自身も意図していなかった褒め言葉の暴力によって朱音を羞恥に追いやってしまうというトラブルが発生してしまったが、その後は何とか落ち着きを取り戻した彼女にも家に上がってもらいようやく勉強会も始められる状態となった。

 ここに至るまでに多くのことがありすぎたので、何だか精神的な疲労感が蓄積してきたような気もするが……そこに関しては無視だ。気にしたところで意味はない。


「よっしゃ! それじゃあガンガンやっていくぞ!」

「元はと言えばお前が発端だからな。…ちなみに言っとくが、分からないところは教えてやるけどあくまで俺がするのはサポートだからな。その辺りは念頭に置いておけよ」

「上げて落とさないでもらえる!?」


 これから始まる勉強時間に集中力を高めようとしたのか、声を張り上げて開始の宣言をしていた航生だったがその直後に放たれた彰人の一言によってショックを受けたような反応をしていた。

 …しかし、この対応は当然のものである。


 そもそもこの勉強会の目的は航生のピンチと言っていた学力を向上させるためのものだったのだから、そこで彰人が過程から答えに至るまでの全てを教えてしまえば肝心の理解力には繋がらない。

 目前のテスト対策として試験範囲をカバーするということだけを重視するのであればそれだけでも十分かもしれないが、今後のこと……それこそ夏休み明けに待ち構えている他の定期テストの事なんかを想定すれば今ここで土台となる知識は盤石なものとしておいた方が良い。


 そう判断したからこその提案……もとい宣告だったのだが、張本人が懐疑の声を上げてきたので無駄になるかもしれない。


「航生も頑張りなよー。私たちはこっちで朱音ちゃんと一緒に勉強してるからー」

「お前の方は……そっちはそっちで朱音の負担が凄まじいことになりそうだな。朱音、何かあったらこっちを呼んでくれていいぞ」

「いざって時はそうさせてもらおうかな。じゃあ優奈、私たちも勉強始めようか」

「はーい……ってちょい待ち。彰人、今サラッと私のこと貶さなかった?」

「気のせいだろ。そんなことより時間が無駄になるから勉強するぞ」


 朱音と共に勉強する気満々の優奈ではあったが、彼女の場合も予想は出来たかもしれないが……その言動や見た目通りに優奈も勉強の成績はイマイチといったところだ。

 流石に航生ほど悪いとまでは言わないが、それでも対策の勉強を必死にやるべきだと言えるくらいには微妙なところだろう。


 それもあって、彼女の指導役に朱音がついてくれたのは僥倖でもあった。

 以前に聞いた通りであれば朱音は普段の授業こそ寝てばかりなものの、成績自体は非常に優秀なようだし優奈を任せるのであればこれ以上ない人選と言えるだろう。


 …ただ一つ警戒するべき点としては優奈が朱音を構うことに集中しだした時、それを止める人間がいなくなってしまうというところだが……もしそうなった時には彰人が手を貸してやればいい。

 この集まりの意味を理解しなくなった愚か者に下す鉄槌は用意してあるのだ。

 仮にそのようなことがあった際には容赦なく叩きつけてやるとしよう。




「…なぁ彰人。ここはどうやりゃいいんだ?」

「そこは……あぁ、これって公式に当てはめるだけじゃ解けないんだよ。別の解法を使えばいいから…こんな感じだな」

「おっ、なるほどな。さんきゅ!」


 四人が勉強を開始してから二時間ほどが経過し、場の雰囲気としてもそれなりに集中する空気が高まってきていた。

 今の光景にしても航生が質問をしてきたところで彰人が補助に入っている場面を見てみれば、それは一目瞭然だろう。


「朱音ちゃん。これってこの答え方じゃ駄目なのかな?」

「んー? …あっ、これはその説明の仕方じゃ少しずれちゃうんだよね。だからこの問題だと……こっちの方が良いかな」

「おーなるほど! さっすが朱音ちゃん! 私の可愛い親友だよ!」


 そしてそれはもう一方の二人組でも同様。

 朱音と優奈の方も、そちらはそちらで優秀な家庭教師がついていることもあって比較的順調に勉強は進められているようで、先ほどから片方が飛ばした問いにもう片方が助言をするという良いループが組みあがっている。


 この分ならまだ時間的にも余裕が残っているテストでも高得点を取ることは夢ではない……そう思い彰人も自分の問題集に向き直そうとしたが、直後に隣から吐かれた息と同時にこぼされた声が耳に響いてきた。


「くあぁ……! はぁ…結構進んできたけどちょい集中力が途切れて来たな…」

「早くないか? まだ始めてから二時間くらいしか経ってないぞ」

「勉強慣れしてる優等生と一緒にするな! …俺からすれば二時間ぶっ通しでやったことはとんでもない快挙なんだよ!」


 両手を目いっぱい広げながら己の内側に蓄積した疲労感を解放するかのような素振りをしていた航生は、どうやらこのタイミングで張り続けていた集中の糸が切れてしまったらしい。

 …まぁ航生にしては持った方と言ってやるべきだろう。

 これでも普段は家でも自習なんてほとんどやってこなかったんだろうし、そこに加えて部活の練習時間も重なってくると考えれば尚更。


 彰人にしてもバイトの予定などがあるので全ての時間を勉強に当てられるというわけではないが、それでも確かに航生と比べてしまえば一日の勉強時間は圧倒的に勝っているという自負がある。


「頼むから少しだけ休まないか…? 流石にこれ以上連続でやるのは体力が持たないわ…」

「俺からすればもう少しやっておきたいところなんだけどな……朱音たちはどうする?」

「私も休むことにはさんせー! ちょっと休憩挟みたい気分だったし!」

「あともう少し頑張ろうと思えば出来なくも無いけど……そうだね。無理しすぎても良くないし、少し休もうかな」

「…だったら休憩時間にするか。適当に体力が戻ったらそれぞれ戻ればいいだろ」


 彰人がこの場の全員の意見を確認してみればほぼ全員の意思が休むを取るという方向で一致していた。

 そういうことであれば彰人も異論はない。

 これが航生一人の我儘であったならばともかくとして、優奈や朱音もそれを望んでいるのであれば無理やり継続してしまう方がやる気も下がって非効率になってしまうだろう。


 なのでしばらくして時間が経ったら勉強に戻ることとして、ひとまずは一旦の休息時間とすることにした。


「そんじゃ今のうちに休めるだけ休むとするか! …なぁ彰人、何でも良いからつまむものとか無いのか? 少し腹が減ってきたんだが…」

「つまむもの? …つっても今のうちだと菓子も何も無いからな……近くのコンビニで調達してこないと無いぞ」

「マジかー…」


 休憩にすると言った途端に床に倒れ込み、全力で脱力をし始めた航生だったがそんな折にこちらに向かって何か食べられるものはないかと尋ねてきた。

 確かに言われれば彰人も勉強をしていた間は気が付かなかったが、今冷静になってみれば少し空腹感が増してきたような気もする。


 目の前の物事に取り組んでいた間はまだ良かったが、こんなコンディションではこの後の勉強に身が入るかどうかは曖昧なところだ。

 それではせっかくの勉強をする機会が無駄になってしまうので、彰人も現在の自宅に軽く口に出来るようなものがあっただろうかと振り返ってみるが……しかしどれだけ思い出してみてもまともなものは置いていなかったように思う。


 残された手段としては近所に徒歩で五分ほど行った箇所にコンビニがあるので、そこで買ってくるくらいのものだが……仕方ないか。


「…しゃあない。じゃあ俺が今からコンビニ行ってくるから、何か欲しいもんあったら言ってくれれば…」

「彰人、ちょっと待ってくれ!」

「買ってくる……って、何だよいきなり」


 こうなったら自分が出かけて買ってくるしかない。

 そう言おうとした矢先だったのだが、何故か言い切る直前に口を挟んできた航生によって話を遮られてしまった。


「いや、そう大したことでも無いんだけどな。流石に無条件で彰人に買い物を頼むのは気が引けるし、俺もお前一人にそんな労力を支払わせたいわけじゃない」

「……つまり?」

「そんなこともあるかと思って一応持ってきたものがあるんだよ。それが…これだ!」

「…トランプ?」


 自然な流れで彰人の外出が決まるところだったが、そこに関しては航生も思うところがあったらしい。

 パッと聞いた限りでは友人の身を案じてくれる優しい言葉のようにも思えるが……果たして真意の方はどうだろうか。


 そんなことを思いながら黙って言うことを聞いていれば、航生は自前の鞄から一組のトランプを取り出した。


「このトランプを使って二対二のチーム戦をやろうかと思ってな。それで負けた方のチームがコンビニまで買い物に行くってのはどうだ?」

「軽めの罰ゲームみたいなもんか……まぁ俺としては別にそれでもいいぞ。どっちにしても元々俺が行くつもりだったからな」

「いーね! なんか面白そうじゃん! 朱音ちゃんもそれでいいかな?」

「うん、私もそれでいいよ」

「なら決まりだな! んじゃ、最初にチーム決めからだが……」


 数分前までの静かな雰囲気とは一転してワイワイとした盛り上がりに満ちた空気へと変貌していく部屋の一幕。

 こんなことをしていていいのかと、どこか冷静な理性では囁く声も聞こえてくるが……たまにはこういったことも悪くはないだろう。


 そうしたことを思いながら彰人は突如開催されたゲームへと身を乗り出していくのだった。


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