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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第一章

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第十二話 雑談の一部始終


 優奈との交渉……あれを交渉と呼んでもいいのかという疑問は残っているが、彼女の要望でもあった朱音との昼食が成立してから数分が経過し、彰人たちの周りでは普段ならそうそうお目にかかることは無いだろう光景が展開されていた。

 それは朱音が誰かと昼食を共にしているという、なかなかに珍しいシチュエーションが実現しているということもそうなのだろうが……それ以上にクラスの目を引いているのはやはり眼前で繰り広げられている()()が原因だろう。


「やっぱり朱音ちゃんてお肌もすべすべだよねぇ……普段からお手入れとかしっかりやってるの?」

「私はそこまでちゃんとはやってないかな。やるとしても保湿くらいのものだからね」

「ふむ……となるとやっぱり、日頃の睡眠時間がこのお肌の質に直結してるのかな。ちょっと触ってみてもいい?」

「えっ? そ、それは良いんだけど……まだ離してくれないの?」

「ん? 何を言ってるの、朱音ちゃん。そんなの昼休みが終わるまでずっとこうしてるに決まってるじゃん!」


「……さっきから何をやってるんだよ、お前らは」


 呆れたような声を滲ませながら目の前にて行われている女子同士の絡み合い……そう言えばまだ微笑ましさも感じられるものの、これを実際に目にしてしまえばおそらくはそんな感情よりも溜め息の方が真っ先に出てくるはずだ。


 何せ今この教室の一角では、朱音と昼食時間を共に過ごしているという状況にテンションの振り切れた優奈が彼女のことを思いきり抱き締め続け、その態勢のまま先ほどから会話を何事も無かったかのように継続しているのだから。

 …あまりにも優奈が何も言わないので、もしや疑問を感じている自分の方がおかしいのでは…? なんて考えまで浮かびかけてきてしまったが、見た限り抱きしめられている朱音は非常に自らの弁当を食べ辛そうにしながらそれとなく解放されないかと機を窺っているようなので、こちらが間違っているというわけではなさそうだ。


 優奈の可愛いもの好きは知っているが……それにしてもここまで来ると限度というものがあるだろうに、それすらも狂わせる朱音の魅力が驚異的と評するべきか。


「…なんか悪いな、間宮。せっかくの休み時間なのにこんなことに付き合わせちまって」

「ん、いや別にそれは良いんだけど……これもしかして、本当に昼休みが終わるまで私抱きしめられたままなのかな…?」

「……多分、そうなると思う」

「あぁ……そうなんだね…」


 その時の朱音の顔は何と言い表したら良いのか、当てはまる表現方法が彰人の頭の中には無かった。

 …今も現在進行形で抱き着かれ続けている優奈の手を無理やり振りほどくことすらできず、何とも言えない様な表情を浮かべている朱音の姿は……こう言っては何だが妙に守りたくなるような保護欲を刺激してくる雰囲気を醸し出していた。


 そんなことを言っているような状況でもないため口にこそ出さなかったが、その小柄な身を捕らえられてされるがままに抱きしめられている朱音というのは……これまた珍しい光景であり、クラスでも屈指の美少女同士が楽しそうに絡んでいる様というのは否応にも人の目を引き付けていくものなのだろう。

 現に今も周辺からは微笑ましいものを見つめるような類の視線が向けられているのを肌で感じるし、張本人たちが気にした様子はないがそんな人気者同士の交流の輪に加わっている彰人にも嫉妬の類の感情が向けられているようだった。


「まあまあ。こうなったら気を取り直して楽しんだ方が賢明ってもんだぜ? 彰人も男なら美少女同士の交流を見られて得くらいに思っておけばいいのさ」

「…その原因の大半がお前の彼女にあるんだが?」

「はっはっは! …そこは気にしたら負けってやつだ」


 そんなカオスに寄りつつある空間にあって、彰人の真正面に位置していた航生から宥められるように声を掛けられもしたが……そもそもの原因はこいつの恋人にあるのだし、大した説得力を秘めていない。

 それに得だと思っておけばよい、なんて言われても周囲の視線を気にせずに楽しめるほど、彰人の胆力は据わっているわけでも無いのだ。




「そういや彰人ってよ。今日はバイトがあるんだっけか?」

「ん、そうだな。この後学校が終わったらそのまま向かうから一緒には帰れんぞ」

「了解した。つっても俺の方も部活があるから結局別行動なんだけどな」

「…? 何々、なんか面白そうな話してるじゃん!」

「面白くはねぇよ。ただ今日の放課後の予定を話し合ってただけだ」


 優奈の奇行にも脳が慣れ始め、朱音も段々と振りほどくことは不可能だと悟り始めたのか大きく抵抗することも無くなり次第に場が落ち着きを取り戻して来た頃。

 不意に航生の方からこの後の予定に関して尋ねられたので素直に答えていれば、そこに興味を持ったらしい優奈がこちらの会話へと参戦してきた。


 ちなみに朱音の方は現在も黙々と自分の弁当を食している。

 こんな時でさえ自分のペースというものを崩さずに時間を満喫できているところは素直に見習っておきたいところだ。


「単に俺が今日はバイトあるから放課後は付き合えないって言ってただけだ。それ以上の中身は何もない」

「なーんだ……って、彰人のバイト先って確かあの喫茶店だったよね? あそこの店長さん元気?」

「元気も元気。むしろエネルギーが有り余り過ぎてて心配になるレベルだぞ」

「あの人も変わらないねぇ……そういう人がやってるお店だからこそ楽しくもあるから、文句とかでもないけどさ」

「まぁ色々と人間離れしてるところは否定できないけどな……それでも色々と助けられてるところも多いから、それに関しちゃありがたいな」


 この会話からも分かる通り、彰人は週に数回程度アルバイトをしている。

 この学校では原則的に学外でのバイトを禁止してはいないので、きちんと申請さえしてしまえば特に大きな問題にもならないのだ。


 …だが、その辺りを抜きにしたとしても彰人が世話になっているバイト先は少し特殊な部類に入ってくるだろう。

 別に店のジャンルがおかしいというわけではないし、接客や雰囲気なんかも変わったところはないのだが……一言で言えばあそこは店長が同じ人間だとは思えない力量をしているので、近所ではまた違った意味で毎日通っても飽きない店として有名でもある。


 そんな彰人のバイト先だが、以前に航生と優奈がデートと称してこちらが仕事に従事している際に訪れてきたことがあるのでこの二人はあの店に関しては既知なのだ。

 その時もとても、とても楽しそうに接客をしていた店長のサポートに徹していたわけだが……あの時は大変だった記憶しかない。

 いちいち客相手に絡もうとしていくあの人を止めるために体力を使わされる羽目になったし、その度にあのやり取りを見ていた航生たちに大笑いをされたりと……もう二度と経験したいとは思えないな。


「…うん? 彰人君ってアルバイトしてたの?」

「あれ、言ってなかったか? 隠してたつもりも無かったんだが、少しだけな。特に面白味もないところだ」

「……いやいや彰人。あそこを面白味が無いって言うとか正気か?」

「…まぁ、外観だけ見れば普通とも言えるだろ。店自体はそこまでおかしいもんでもないし、店長も……美人なんかが来なけりゃまともだし」

「最後の方が致命的すぎないか?」

「……な、何だか賑やかそうな場所なんだね」


 そしてそこまで話した辺りで、それまで静観に徹していた朱音が話題に関心を引っ張られたのか声を掛けてきた。

 確かに今までの会話を思い返してみれば彼女に自分がバイトをしていると話したことは無かったし、そこに興味を持つというのも納得できることではある。


 …が、そこで興味を持たれてしまうと困るのがあの店が他とは違うクオリティを有している理由の一端でもあるのだ。


「何よ彰人。別に朱音ちゃんにもあのお店を紹介してあげてもいいんじゃないの? あの店長さんのことだし絶対朱音ちゃんのことも気に入るでしょ」

「気に入るだろうから興味持たれないように言ってんだよ……あのテンションが間宮にも降り注がれるとか、混沌以外の何者でもないぞ」

「な、何か恐ろしいこと話してない…?」


 しかし彰人が無用な興味関心を抱かれないように事実とは異なる言葉を口にしていたことに疑問を持ってしまったのか、今度は優奈の方から反論が飛んできてしまったがそうさせたくないからこそあのように言っているのだ。

 …前回はターゲットが航生と優奈の二人に定まっていたからまだこちらへの被害は最小限で済んだが、仮に朱音があそこに来てしまったらその時は彰人の方にまで火種が飛んできかねない。


 何しろ彼女の関係性はどちらかと言えば彰人との方が強いものなのだから、それをあの人に知られてしまえば……事態は面倒なんてものではなくなる。


「間宮、頼むから世の中には人の言葉が通じない猛獣がいるんだってことを覚えておいてくれ。あとお前は自分が目立つ見た目をしてるんだってこともしっかり自覚しておいた方が良い。…でないと、とんでもないことになりかねないからな」

「え? あ、は、はい……よ、よく分からないけど気を付けます」


 彰人の言っていることの意図がよくつかめていないからか、目を白黒させながら混乱した様子を見せる朱音だったが……今はそれでもいい。というかむしろ、そのままでいてほしい。

 ただ、彼女に自分の容姿は優れているのだという認識を芽生えさせておくことは急務であることも事実。


 そうしておかなければ…無いとは思いたいが、後々に訪れるようなことがあった時に至極面倒くさい状況になりかねないからだ。



 そんな他愛もない雑談は昼休みが続く限り続けられていき、捉えようによっては盛り上がりを見せた昼食時だったと言えるだろう。


 …だからこそ、彰人はそこに目を向けることを失念してしまっていた。

 朱音を抱きしめるようにして座っていた彼女……優奈が、何かを企むように口角を上げていた様を。



何で彰人があそこまで朱音に言い聞かせていたのか。


その理由は多分もう少ししたら分かります、が…果たしてあれを世にお出ししてしまって良いものなのだろうか。

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