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第百九話 対面した者達


「黒峰と青羽、やっと来たのか! ほれ、ここに荷物まとめてっから置いていいぞ!」

「お、ありがとよ! …うちの部屋は橋本と渡辺が同じだったんだな。道理で声がでかいと思ったわ」

「そうかぁ? まっ、それが俺の取り柄でもあるからな! はっはっは!!」


 訪れた部屋の中にいたのは二人の男子であり、一方の声を張り上げているのは橋本(はしもと)大悟(だいご)である。

 その声量に違わず見た目の体躯も相当なものであり、記憶を辿れば野球部に所属していたはずなのでガタイもしっかりとしている。

 浮き出た筋肉を見るだけでも頼りがいのある男子といったイメージを受ける、が……その実、クラス内での彼に対する評価はまた別だ。


 一見すれば頼りになる男子の一人だという印象を受ける彼に対して、クラスの者が抱いている感情というのは他でもなく……うちのクラスきっての()()()()タイプだということだ。

 …あまり同級生に対して投げかける言葉ではないかもしれないが、事実そのように受け止められているのだから仕方がない。


 一つ行動を起こそうとすればその先のことを考えることなどなく、そのせいで担任から注意を受けることも少なくない。

 まぁ…そんな行動力があるからこそクラス内でも一人の中心人物としての地位を保っているのだろうが、彼に関してはそんな感じだ。


 そうしてもう一方……大悟の隣で呆れたような顔をした線が細い印象を受ける男子。

 彼の名前は渡辺(わたなべ)健二(けんじ)。大悟とは打って変わってガタイが特別いいわけでも無く、教室の中でも特別目立つような人物ではないが…日頃は大悟とよくつるんでいる姿を見かける男子だ。


 パッと見た際の第一印象では草食系とでも言おうか、背丈が大きいわけではないものの常日頃から落ち着きを見せており、周囲のことをよく見ているといった少年である。


「黒峰も今日はよろしくな! もし困ったことがあったら遠慮せずに言ってくれ!」

「あ、あぁ……こっちこそ」


 …と、そこまで考えた辺りで向こうの方も近づく彰人の存在には気が付いたのか張り上げた声で呼びかけられた。

 内容としては特に何の変哲もないものだったのだが…如何せん、その声量が凄まじい。


 一つ声を発するたびに空気が震えているのではないかと錯覚しそうになるくらいに勢いが伝わってくる上、思わず圧倒されてしまいそうになる。


「…ごめんね、うちの大悟が。あれでも悪気があってあのボリュームで話してるとかではないから、そこは許してくれると嬉しいかな」

「いや、そこは別に気にしてないから良いんだが……えっと、渡辺だったよな?」

「うん。お互いにあまり話したことは無かったけど…こっちも黒峰でいいかな?」


 すると今度は非常に申し訳なさそうな表情を浮かべた健二の方から話しかけられ、唐突に声を掛けてきた己の友人に関することについて謝罪をされてしまった。

 別にその点は気にもしてないし、何ならただ勢いに圧されただけなのでその事実を告げたのだが……それよりも先に、お互い話すのはほとんど初めてでもあったのでまずは自己紹介から始まった。


「それで大丈夫だ。けど…まさか同じ部屋の面子が渡辺達だったとはな……普段からあまり絡むことも無いから少し意外だったかもしれない」

「まぁそうかもね。僕も黒峰とは話さない……というか、いつもは大悟以外の人と話すこと自体稀だし、そう思うのも無理はないよ」

「……こう言ったらあれだが、そもそも渡辺と橋本に接点があったってことが驚かされたよ。仲いいんだな」

「あぁ、それはね。…何て言ったらいいのか難しいところだけど、僕と大悟って小学校からの付き合いなんだよ。だから仲が良いっていうよりは腐れ縁みたいなものだね」

「え、そうだったのか?」


 ほぼ初対面とすら言ってしまっていい関係性だった彼らも一言二言交わせば間にあった緊張感というのも自然と和らいでくる。

 まぁ初めて話したとはいっても教室で顔を合わせる機会自体は幾度もあったし、そこの経験も加味してしまえば完全な初対面というわけでもないので自然と会話が弾んだと言うのもあるのだろうが。


 いずれにしても、思っていたより何倍も話しやすい相手が同室だったようなのでこちらとしてもホッとする気分だ。

 そんな内心になりながらも表面上は落ち着きを保ちながら会話を続けていけば、健二の口から思いもしていなかった事実が明かされた。


「そうなんだよ。僕も不思議なんだけどさ……何故だか毎年、気が付いたら同じクラスに同じ学校になってるし、狙ったわけでも無いのに高校まで同じになってるんだから少し怖いくらいだよ」

「…そこまで来ると、もはや何かの呪いでもあるんじゃって思えてきそうだな」

「…実際疑ったしね。大悟はそういうことに関心無いから気にしてないけど、知り合いの霊感ありそうな人に聞いたこととかあるし……」

「ははは……」


 どうやら二人の関係性は昔ながらの幼馴染というやつのようだが、その間に抱いている感情はまた複雑なもののようだ。

 確かに小、中、そして高校とまで連続して同クラスになればおかしな繋がりでもあるのではないかと疑ってしまうのも無理はない。


 そこまでくれば誰であっても似たような考えには至るだろうし、決して健二が変というわけではない。

 …だが、その言葉を口にした際に彼が浮かべた表情に、何とも言えない悲壮感らしきものが垣間見えたことに関しては……深く触れない方がいいだろう。


 人それぞれ、大なり小なり悩みというのは抱えているものだ。

 そこを共有してほしいという考えを持つ者もいれば、そうではない者もいる。

 その線引きが曖昧なままに踏み込んでしまえば取り返しのつかない傷を付けてしまう可能性もあるのだから、ここはそっとしておくのが正解なのだろう。


 別に、触れれば面倒ごとが舞い込んできそうだと直感したから避けたわけではない。


「健二! この後って風呂に入りに行くんだったよな!? もう準備とかしておいた方がいいか!」

「……大悟、まだだってさっき言ったよね? クラス単位で時間が決まってるから、僕らはまだまだ先だよ。それに最初のクラスだって全然入浴時間じゃないから」

「そういえばそうだったな! すまんすまん!」

「……とまぁあんなやつだけど、もし良かったら仲良くしてあげて。特に悪いやつではないからさ」

「あぁ……何となく二人の関係性も見えてきたよ。少なくともそれは分かったから安心したし」


 そうすればこちらが会話を交わしている間にも、先ほどから全く衰えることも無い声色で大悟が語り掛けてくる。

 この後の予定事項にも関することを問いただしてくる姿は普段から教室でも見かける姿とやり取りそのものだったが、こうして改めて見ると健二が大悟に振り回されているというのがよく分かる。


 ただ…それも仕方なくやっているというわけではなく、健二も呆れつつではあるがその信頼感あってのコミュニケーションなのだろうということも同時に伝わってきた。


「それはそうと、ここって俺たちの四人だけか? 前に聞いた話だと部屋は五人か六人で固まるって話だったと思うんだけど」

「あ、それね。なんか先生に聞いた話だけど人数的に合わないところもあったから、その調整でここは僕たち四人だけになったらしいよ。他はもう少しいるみたいだけどね」

「なるほどな。そういうことか……」


 その後も続いていく他愛無い雑談に花を咲かせながら、彰人は思わぬ形で話すこととなった健二と大悟との縁を噛み締めることになる。

 ここで得た縁が今後、どのように繋がっていくのかは……彰人自身にも把握できることではない。


大悟と健二の関係性ですが、別に本人たちが狙ったとかでもなく本当に偶然の一致で高校まで来てます。


見ようによっては運命的とも言えるし、超常的なものが関係しているようにも思える。そんなコンビ。

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