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常に微睡む彼女は今日も甘えてる  作者: 進道 拓真
第三章

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第百二話 離れない覚悟


 どういった思考の過程を経ればこうなったのかはよく分からないが、複数人の女子に朱音が激励をされるという謎のシチュエーションを終えた後。

 ここにいた者の大半が己の伝えたかったことを伝え終えたことで満足げな感情を露わにしていたが…意図もつかめなかった彰人としては何とも言えない時間を過ごした気分だ。


「いやー、さっきはありがとうね! ずっと二人のことが気になってたからここで話せて良かったよ!」

「……疑問が解消できたなら何よりだけどさ。結局さっきのやり取りは何だったんだ…?」

「それは秘密!! …女の子には他の人に言えない秘密ってものがあるんだよ。ね、間宮さん?」

「え…? …あ! そ、そうだね…」

「…朱音がそう言うなら聞かないけどさ」


 確かに気になることは気になるが、そう言われてしまえば彰人も深く踏み込むわけにはいかない。

 無理やり暴こうとすればその時は朱音から嫌がられてしまうだけだろうし、先ほどの会話の意図も…特に掴めずとも、大した問題はないのだから頭の片隅に留めるくらいでも大丈夫だろう。


「…さて! それじゃああんまり時間を取らせすぎても二人に迷惑だろうし、この後はお二人で好きな場所でも行っといでよ! 私たちはここで別れるからさ!」

「…分かった。色々と教えてくれて助かったよ」

「それはこっちのセリフってやつだね。…あ、私隣のクラスの牧原(まきはら)愛莉(あいり)ね! 何か困ったことがあったら二人ならいつでも相談に乗るから、気軽に遊びに来てよ!」

「了解だ。…そっちも気を付けてな」

「そっちこそね! …じゃ、皆行こうか!」


 最後まで賑やかな空気をこの場へと留めながら、連れ添っていた女子の集団を引き連れて彼女は……愛莉はこの場を去っていく。

 その直前に付き添っていた女子複数人から、主に朱音へと向けて微笑ましいものを見るような視線と共に手を振られ、そのまま愛莉の後に続いて立ち去って行った。


 …どこまでも嵐のような騒々しさを兼ね備えた彼女であったが、新たな友人が出来たことは素直に喜ばしいことだと……思えなくも無いだろう。

 喜び以上に舞い込んできた感情の割合としては困惑の色の方が強かったため、言い淀んでしまったことは許してもらいたい。


「…何というか、勢いが凄まじかったな。少なくとも悪いやつではないんだろうけどさ」

「そうだねぇ……私もいきなり話しかけられたから何かと思っちゃったけど、ちゃんとこっちのことを気遣ってくれてたもんね」

「確かにそこはしっかり線引きしてたな……まぁ、見た目に反して誠実な相手だって分かって何よりだったよ」


 愛莉達が去っていった後の現場にて取り残された彰人と朱音はまさかの形で巡り合った縁との感想を語り合ってみたが、どちらも共通して有している思いは『驚いた』の一言に集約される。

 彼女の持つ人柄ゆえか嫌悪感といった類の感情こそ抱くことはなかったが、それはそれとしてもまさに嵐と評せる勢いの凄まじさは身をもって実感させられた。


 …まぁそこはいい。

 最低限愛莉が朱音と話していたことの概要は把握することが出来たし、それが彼女にとって不利益を被るようなものでもないと納得も得られた。


 それだけで今は十分なのだから。


「てっきり最初は、朱音が知らない女子相手に何か言いがかりでもつけられてるんじゃないかと疑ってたんだが……それも無かったみたいだし、ひとまずは良かった」

「……えっ? 彰人君、そんなこと考えてたの?」

「恥ずかしながらな。けど、向こうもそんなつもりは無いって言ってくれたから安心したよ」


 朱音の呆気にとられたようなリアクションを目にしながらも彰人は言葉を返すが、実際あの現場を目にした時は身体が勝手に動いてしまったのだ。

 もし彼女が危害を加えられそうになっているのならば、こちらの身を挺してでも庇う覚悟はあった。


 それを無意識に自覚していたからこそあのような行動に出れたという側面もあるが…どちらにしても、全てが終わってしまえば単に彰人の浅慮が浮き彫りになっただけである。

 今回のことを機に、人を見た目だけで判断するような真似はやめようと心の中で静かに誓った。


 …だが、その一方で彰人の言葉を聞いた朱音は何故だかもじもじとしたような動きを見せると、少し上目遣いになりながらこちらに問いかけの言葉を投げかけてくる。


「…じゃ、じゃあ……もしもの話だけど、彰人君は私が誰かに追い詰められてたりしたら…助けに来てくれる?」

「ん? …そうだな。その時にその場所に居合わせるかどうかの問題もあるだろうけど、少なくとも俺の目に入った時なら助けに入ると思う。朱音を見捨てるほどろくでなしになるつもりも無いからな」

「そうなんだ……ふふっ、だったら私も安心だね」


 朱音の言葉に彰人も一瞬考えこむようにしてみたが、どれだけ思考を重ねたところで出てくる結論は変わらない。

 彼女から投げかけられた質問に込められた意味は不明だが、表面的な答えを出してしまえば結局その一言に尽きてしまう。


 もちろん、それが他の者であれば彰人でさえ助けに入るかは不明だ。

 彼は目に入った全てを救えるような聖人ではないし、ましてやそれら全てを掬い取れるなどと考えるほど傲慢でもない。


 彰人は言ってしまえばどこにでもいる一人の高校生であり、彼に出来ることと言えばせいぜいが身近な者の手助けをしてやるくらいのこと。

 …だからこそ、せめてその身近な者の……大切なものを守るくらいのことはしてやりたい。


 失ってから気が付くのは、後悔するのは、あまりにも虚しいことだから。


「…とりあえず、朱音が俺といるのが嫌にならない限りは相談でもしてくれればいいさ。こんな俺じゃ頼りにならないかもしれないけど…可能な範囲で手は貸すからさ」

「そんなことないよ。…私にとって、彰人君以上に頼りになる男の子なんていないからね」

「……そっか。ならいざって時は存分に寄りかかってくれ」

「そうさせてもらうよ。…あっ、それと一つ訂正しておくけど…彰人君といることを嫌に思うことなんてこれから先も無いから安心していいよ。そんなことはありえないもん」

「どうだかなぁ……案外、俺が朱音を怒らせたりして愛想を尽かすかもしれないだろ?」

「…むぅ。もしそうなるとしても、私はしっかり話し合いをして解決するからね。どっちにしても離れてなんてあげないよ?」

「怖いような、ありがたいような……ひとまず分かったよ。今はそういうことにしておく」


 …だが、その後に告げられた朱音の言葉は、今の彰人に深く浸透してくるような優しさを含んでいた。

 彰人の傍から離れることなどありえないと、自分はいつまでも近くに居続けると宣言をした彼女の透き通るような声色が、しかし力強い意思を感じさせる言葉は…どこか、今の自分にとって何よりも嬉しいもののように思えたのだ。


 …それと、これは些細なことだったのだが彰人の心の中で密かに朱音を怒らせるような真似だけは絶対に止めておこうという新たな誓いが立てられた。

 会話の中で冗談交じりに言っただけだったのだが、もしも仮に彼女を怒らせるようなことを彰人がしてしまった場合、向こうの言う通りにきっちりと話し合いを行ってその状況を解決しようとするだろう。


 そしてこれは何の根拠もなく、ただの彰人の直感に過ぎないが……おそらくそうなった場合、朱音はただただ淡々とお互いのどこが悪かったのか、どうしてそのようなことをしてしまったのかを冷静沈着に語ってくるだろう。

 …普段は緩い言動の目立つ彼女だが、ここぞという時にはこちらの背筋が凍るほどにオーラを放つ彼女のことだ。


 今はまだ無根拠な推論でしかなかったとしても、そうなってしまえば彰人はひたすらに地獄のような空気感を長時間味わうことになるに違いない。

 …傍から聞かれれば情けなく思われるのだとしても、そうなると分かっていながら意味も無い暴挙に及べるほど彼は度胸に優れていないのだ。


「もう大分時間も経ってるな……そろそろ時間だし、バスに戻っておくか?」

「んー……そうしようかな。遅れちゃうと問題になっちゃいそうだもんね」

「だな。…航生の二の舞になるのだけは御免だ」


 しかし、そうこうしていれば自然と時間も経ってきてしまっている。

 時計を確認すればいつの間にか集合時間が迫ってきているので、元々の目的でもあった物色はそれほど達成できなかったが…そこは諦めるしかないだろう。


 その代わりと言っては何だが、ある意味良い思い出もできたことなのでそこで満足しておけば問題もない。

 両親への土産に関しては…また帰りのバスで買っておくとしよう。


 そう判断し、彰人は先ほどと比べて心なしか笑みを深めている朱音と共に自らが乗車してきたバスに戻るために足を進めていった。

 当然、集合時間には問題なく間に合ったので航生と同じような醜態など晒すわけも無かった。


多分、朱音は口喧嘩になったらお互いの納得ができるまで静かに話し合いを続けるタイプ。


具体的な状況は彰人が想像した通りのものになること違いなし。

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