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第百一話 詰問(?)タイム


 立ち寄ったサービスエリアにて偶然発見した朱音の姿。

 そこでは何故かといった理由は依然として分からないが……見覚えのない女子複数人に囲まれている様子が見られたので、念のためにと声を掛けることとした。


 人混みの波をかき分け、まだ近づいていくこちらの存在には気が付いていないのか会話に集中している朱音の顔は…何かを悩むような素振りを見せている。

 …やはり、何かしらの騒動に巻き込まれでもしたのだろうか。


 何も無ければそれでいいのだが…何かがあったというのなら、それを見ない振りは出来ない。

 彰人一人で何が出来るのかといえば大したことも出来ないだろうが…だとしても、せめて彼女の手助けくらいはしてやれるはずだ。


 そう思い、ようやく近くまで来れたところで朱音に声を掛ける。


「…朱音、こんなところで何やってるんだ?」

「ふぇっ? …あ、彰人君…!? ど、どうしてここに…?」

「いや、それはこっちの台詞なんだが…適当に店を回ってたら朱音がいたから声を掛けておこうと思ったんだよ。そっちこそここで何を……」

「──もしかして、あなたが黒峰君?」


 彰人が話しかければ彼が近づいてきたことに気が付いた朱音は驚いたような反応を見せ、困惑したように返事をしてくる。

 …というより、どこか顔を赤くしているようにも見えるが…どうしたというのだろうか?


 そんなことを考えつつ、予想していた反応とは若干違ったが様子に変わりは無いようなのでひとまずは安心した。

 と、そこで彰人の横から声を掛けてくる者がいたので振り返って確認をしてみれば…そこには少し派手な印象を受ける女子の姿がある。


 彰人が普段から関わっている優奈や朱音とはまた違う、着飾った容姿をしている彼女たちは……腕組みをしながら彰人に話しかけてきた橙色のミディアムストレートの髪型をした女子を筆頭に、突然の展開に対してキョトンとしたような表情を浮かべている。

 しかしそれもすぐに落ち着きを取り戻したのか、唐突な乱入者でもある彰人へと何かを探るようにして確認を取ってきていた。


「あ、あぁ……急に割り込んだのは、悪い。けど…朱音と何を話してたのかって気になってさ。それも兼ねてここに来たんだよ」

「ふむ……なるほど、ね」


 向こうが複数人で固まっているからか、それとも女子特有の無言の圧力とやらがあるからか…顎に手を当てながら考え込むような仕草を見せるあちらの態度に少しばかり緊張してしまう。

 自分たちの話に無理やり割り込んできた彰人に良い印象は抱いていないだろうという判断から、場合によってはこの場の空気を険悪なものとしてしまうかもしれないと、内心で不安に思う。


 …だが、その直後に向こうから返ってきた女子のリアクションには彰人の方が驚かされることになる。


「…ごめんなさい!! こっちもそんなつもりは無かったんだけど…不安にさせちゃったよね? 間宮さんに酷いことは何もしてないから、本当に心配しないで良いからね!?」

「……うん?」


 勢いよく両手を合わせて顔を下げ、どうしてか謝罪の言葉を投げかけてきた向こう側。

 まさかすぎる反応には彰人も困惑の色を隠せなかったが……何故そのような言葉が出てきたというのか。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ俺も何も言ってないんだが…何でそんなことを?」

「え、だって黒峰君…多分だけど、私たちが間宮さんと話してて詰め寄られてるんじゃないのかって思ったんじゃないの?」

「それは……まぁ言い方は悪いけど、そう思ったことは否定できないな…」

「でしょ? 実際私たちも見た目を派手にしてるからねー、そう思うのはしょうがないよ。あっ、でも全然間宮さんを虐めたりとかはしてないからそこは伝えておく!」

「そうだったのか……なら安心だけど、だったら何を話してたんだ?」


 人は見かけによらないなんて言葉があったりもするが、彼女たちはその典型例だったらしい。

 実際彰人も最初の印象から朱音が何か追い詰められているのではないかと勘違いをしてしまったので否定も出来ないが、第一印象だけで人の性格を決めつけるべきではなかった。


「そう! そこなんだけどね! …ぶっちゃけ私たちが聞きたかったのは、君の事なのですよ、黒峰君!」

「えっ、俺?」

「うん! そっちが知ってるかどうかは分からないけど…うちの学年で二人のことって有名なんだよ? …何せ入学した時から超人気者だった間宮さんが、いきなり知らない男子と仲良く話し始めてたんだからそりゃそうもなるよね」


 …会話の中でビシッ!と指を突きつけられながら高らかに宣言されたので面食らってしまったが、どうやら彼女たちの聞きたい話題というのは朱音一人に限定されたことではなく…彰人にも関連したことであったらしい。


 向こうの言い分をまとめると、以下の通りだ。

 自分たちが通う高校に入学した当初から圧倒的な知名度を誇り、一部からは高根の花にも近い扱いを受けていた朱音がある時を境に一人の男子……正体を明かしてしまえば彰人のことだが、特定の相手と距離を縮めているという情報をとあるルートからゲットしたとのこと。


 前々から誰か一人とくっつくことも無いのだろうと噂されていたところに突如として舞い込んできた人気者のスキャンダル。

 これが気にならない方が嘘だということで、彼女たちはその男子との仲がどのようなものなのか今の今まで気になり続けていたらしい。


 他人の恋愛事情に敏感になる高校生特有の流れとでも言うべきものだが、まぁその辺りの心情は理解できる。

 だが……気になったところでその事実を確かめる術がないということにも気がついた。


 朱音を直接問いただそうにも彼女は日常の大半を眠り続けているので問答をすることも叶わず、もう一方の男子生徒については具体的な名前などが分からなかったので特定のしようも無かった。

 それゆえに、今日に至るまで真偽も定かではなかった噂に興味を引かれるだけだった、ということだが…そこで運よく訪れたこの場所にて、一人彷徨っていた朱音を見つけたらしい。


 …モットーが一度決めたら直進するだけとのことらしい彼女たちはこの機会を逃すまいと朱音に声を掛け、あの男子との仲が一体どのようなものかと質問し……そこに彰人が偶然居合わせた、ということだ。


「…というわけで、前から二人のことは気になってたんだよねー!」

「……少しだけ待ってくれ。俺、その噂ってやつについては何も知らないんだが…」

「あ、そうだったの? まぁこういうのって本人の方が意外と知らなかったりするものだし、そういうこともあるよ!」


 細かい説明を終えれば向こうも満足したのか、薄い化粧の施された顔にこれ以上なく良い笑顔を浮かべている。

 …だが、彰人にしてみればそれ以上にその噂とやらの方が気になって仕方がない。


 一体自分たちの関係性がどのように校内を駆け巡っているのか……聞いてみたいようで内容を知るのが怖いところでもあるが、今は置いておこう。


「で、それでですね……結局のところ、二人は付き合ってたりするの!? そこを聞いてみたかったんだよ!!」

「……ま、やっぱりそうくるよな」


 ここまでの流れでもほとんど想定できたことではあったが、やはり彼女らが知りたい事実は二人の関係性にまつわることとのこと。

 そのような噂が流れているともなれば自然と意識はそちら側に持っていかれるだろうし、興味を引く点としても話題性は十二分にあるのだから仕方がない。


「申し訳ないけど、そういう事実は無いな。俺と朱音は単なる友人って間柄だ」

「あり? …パッと見の仲の良さだと、てっきりとっくに付き合ってるものだと思ってたけど…まさかの真逆だった?」

「そうなるな。そこで嘘をついたって仕方ないし、これが事実だよ」


 向こうの期待に沿えなかったことは申し訳なく思うが、朱音との関係性に嘘を言ったところで良いことなのでないので素直に白状しておくだけだ。

 すると彼女たちは予想外の答えが返ってきたと言わんばかりに目を丸くしていたが…そんなに意外な答えだっただろうか。


「ふーむ……そうなると、間宮さんも黒峰君のことは特に意識もしてないって感じかな? だったら悪いことしちゃったかね…」

「え、えぇと……私はそのぉ…」

「……あ、なるほどね。オーケーオーケー。大体把握出来たから大丈夫。間宮さん…私は応援してるからね!! 頑張って!」

「…あ、ありがとう…?」


 …彰人の返答を聞いた後に彼女らは朱音にも質問を飛ばしていたが、そこで何かを納得するような素振りを見せると何故だか彼女に向かって激励の言葉を飛ばしているようだった。

 そうすれば中心人物らしき女子生徒が声を掛けたのを皮切りに、その周りにいた女子たちからも「諦めたら駄目だからね!」だったり「私に出来ることがあったら言ってね!」なんて言葉を掛け続けていたが……あれは一体何の意図があったのか。


 どうしてか朱音の言動を見たことで共感性が高まったらしい女子たちのやり取りを眺めていた彰人は首を傾げることとなったが…その意図に気が付くのは、まだまだ先になりそうだ。


彼女が最後に何を悟ったのかはお察し。

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