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妹たちとのはじめましてと前世の記憶




地面に住まうミミズとの距離。

滑り落ちる言葉たち。

眼前に広がる巨大な森。

美しすぎる両親。

居住する白亜の城。

顔横に流れる薄い茶髪。

鏡越しに私を見つめる金と紺のオッドアイ。


そして、私。

セレーニオン王国第一王女であるセレニアという存在そのもの。


生まれた時から、私はそれらに強烈な違和感を抱いていた。


そして今。

ふわふわのブロンド髪と上質なローズクオーツの瞳の美少女ーフローレンスと、同じくブロンドヘアと此方は対照的なアウイナイトの瞳の美少女ーウェンティスの天使双子コンビと初対面し、


「はじめまして、おねえさま!」

「おあいできて、その、こうえいです。おねえさま。」


緊張によるものか、ややぎこちなくも可憐な笑顔を向けられて、はじめてその違和感の原因を知った。


私は一一転生者だ。





前世の私はそれなりな人間だった。

それなりに勉強もできたからそれなりの大学に行って、それなりの会社でそれなりの役職について、それなりに友達もいて、それなりに恋愛だってした。


毎日なんとなく生きてた私の趣味は、アニメやボカロ曲の鑑賞とゲーム。

趣味としては有りがち過ぎて笑えるが、その分友達も作りやすかった。


その日も、アニメ化が決定したらしい乙女ゲームソフト『Swear in the moon一月に誓うー』が廉売されていたため購入し、早く遊びたいという欲の赴くままに、雨が止むまでここにいなさいなと提案してくれた店員のおばあちゃんの言葉を「大丈夫です!ありがとう!」の二言で無視して、荒天の中帰路を急いだ。


しかし。

雷ーノータイム発生・回避不可・大ダメージの無差別攻撃。

命中率は然程高くないからと高を括っていたのが間違いだった。

店から出て、豪雨の中を一刻も早く家に帰るべく疾走していた自分の眼前でスパークル。

ああ、死ぬんだなって思って、リアルLUCK値のあまりの低さに苦笑いしたところで前世の私の世界は暗転したのだ。


そして現在に至る。

流行ってたな。

この手の異世界転生モノ。

しかも死んだとき手に持っていた乙女ゲーム『Swear in the moon一月に誓うー』、通称ツキチカ世界に転生ですよ。ええ。

...どこのラノベだよ!?

幸い?なのが、私はヒロインでも悪役でもないところだろうか。

そして災いなのが、ヒロインも悪役も私の妹であるという点だろう。

そう、フローレンスちゃんとウェンティスちゃんって、ヒロインと悪役なんだよね。

じゃあ、セレニア(わたし)は?

ってそれが思い出せないんだ...。





「おねえさま?」

「…なにかそそうがありましたか?」


私が衝撃のあまり、挨拶も返さずに黙り込んでしまっていたせいで、フローレンスとウェンティスが不安そうにしている。

特にウェンティスは、少し俯いていて、自身の振る舞いを反省してしまっているようだ。


ちいさい妹たちの可愛らしい挨拶だ。

たとえどんなに残念な出来だったとしても、粗相だなんて思う筈もない。


「粗相だなんて、なにもないわ。あなたたちがとてもかわいらしいから、驚いてしまったの。」


幼少期から叩き込まれているカーテシーを披露した後少ししゃがんで、ふたりと目線を合わせた。


「はじめまして。あなたたちと会える日を、楽しみにしていたわ。」


怖がらせないように、微笑んで見せると、

「わたしも!わたしもたのしみでした!おねえさま!」

フローレンスは元気ににっこり応えてくれて、

「わたしもです、おねえさま。」

ウェンティスは少しはにかみながら安心したように応えてくれた。


ところで、そう、私たち姉妹は初対面である。

私8歳、ふたりは6歳にして、初めて会ったのである。

え?姉妹なのに初対面?と、日本で生まれ育った私としては思わなくもないのだが、この世界では特別なことではなかったりする。


この国や周辺諸国には、高位の王侯貴族は、兄弟を別所で育てるという風習があるのだ。

分けて暮らさせることで、反乱やら大火災やらなにやらが起きた時に血を絶やすリスクを分散させている。


だが、実はこの風習、血を残す云々以前にひとつ重大な問題があって。

幼い頃から離れて暮らすため、家族意識が中々育まれず、この制度ができてから明確に兄弟間の反乱が増えたのである。


この話を聞いて以降、私はこんな制度取りやめたらいいのにと思っていたし、恐らくお父様ーアルバート国王陛下もそう考えていたのだと思うのだけれど、公爵家の出であり権力者であったお祖母様ー皇太后陛下が、形骸化していようと無意味だろうと伝統は伝統だというタイプであったため、私と双子ちゃんとはずっと別れて暮らしていた。


しかし、つい先日、お祖母様が御逝去なされ、お父様は大して間を置かないうちにフローレンスとウェンティスを王宮に呼び戻した。

そうして、私たちは初邂逅を果たしたわけである。


にしても、お祖母様が亡くなって本当にすぐ二人を引っ越させていたあたり、お父様はこの制度を、本当に不満に思っていたのだろう。

まあ、あのお祖母様がご存命の期間に、フローレンスとウェンティスが引き離されずに暮らせていただけでも、お父様の本気度を垣間見ることができる。


閑話休題。


「ほんとうに、ほんとうにあいたかったのです、おねえさま!わたしたち、しまいなのにこのままずーっとおねえさまとおあいできないのかなぁ…って、おはなししていたの。ね、ウェンティ。」

「はい。おとうさまにも、どのようなかたかおしえていただいたりして…。」


初めてあったけれど、フローレンスは元気に好意を伝えてくれるし、ウェンティスも控えめながら嬉しそうだ。

きっとお父様が、私のことをそれなりに良いように伝えてくれていたに違いない。


「おとうさまが、おまえたちのねえさまはどうしようもないあほうだがやさしいぞって。」

「あ、フロー、それあんまりいわないほうが…。」


…うん、まあ、決して間違ってはいないんだけど、一度も会ったことのない妹たちにくらい、もうちょっと良いお姉様として紹介してくれても良くないだろうか。






読んでいただけて本当に嬉しいです。

ありがとうございました。

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