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××××が職場にいるとやりにくい。  作者: 夕藤さわな
【02.通常業務(?)編】
9/33

02-01 実家の部屋も占拠されてます。

 定時を告げるチャイムのあと、一時間ほど経つとフロアの灯かりは消えてしまう。


 働き方改革とか言われてんだろ。

 大手企業はおかみから目ぇ付けられやすいんだよ。

 だからとっとと帰れ!


 と、いう意味らしい。


 まだ帰れないのだろう。フロアの灯かりをつけに行く人もいるが、片付けて帰り始める人たちも多い。

 千秋が入ったチームのメンバーは、ほとんどが定時で上がっていた。定時過ぎからが本番なんて言っている自社とは大違いだ。


「お疲れ~」


「お疲れさまでした」


「お疲れっした!」


 チームメンバーのパチンコ先輩が帰って、残っているのは千秋と陽太だけとなった。

 岡本もまだ帰っていないが、打ち合わせ中で席にはいないのだ。


「千秋、仕事終わりそう?」


 島の対角線上にいる陽太が大きな声で聞いた。

 人の少ないフロアに、陽太の声はよく響く。他チームの人たちの視線に千秋は首をすくめて、陽太を睨みつけた。


「ヒナ……百瀬くん、もうちょっと声を抑えてください」


「はーい。で、上がれる?」


 人の言うことを全然、聞いていない。

 やっぱり大きな声で尋ねる陽太に、千秋はため息をついて頷いた。


「今日、やらなきゃいけない分は終わったから大丈夫」


 それを聞くなり陽太はカバンを持って千秋の席に駆け寄ってきた。とっくにパソコンの電源は落としていたのだろう。


「うっし、上がろうぜ! なな! 今日、千秋の部屋に寄っていい?」


「明日も仕事あるのに、早めに帰らなくていいわけ?」


「大丈夫! あれが食べたいんだよ。前に千秋が作った……ほら、白菜とツナ缶の……!」


「白菜の常夜鍋? 簡単なんだから自分で作ればいいのに」


「千秋が作ったのがいいー」


 自分で作るのが面倒なだけだろ、というツッコミは飲み込んだ。

 陽太の料理の腕が絶望的なのは、幼なじみの千秋が一番知っている。と、いうか一番の被害者だ。


「わかったよ。今日の夕飯は常夜鍋ね」


 千秋はパソコンの電源が落ちるのを待ってカバンを肩にかけた。

 跳ねるような足取りでフロアの出口へと向かう陽太のあとを、千秋はゆっくりとした足取りで追いかけた。


 ***


 翌日――。


 定時を告げるチャイムのあと、一時間ほど経つとフロアの灯かりが消えた。

 すぐにふっと灯かりがついて、


「お疲れさま~」


「お疲れさまでした」


「お疲れっした!」


 チームメンバーの恋脳こいのー先輩が帰って、残っているのは千秋と陽太だけとなった。

 岡本もまだ帰っていないが、打ち合わせ中で席にはいないのだ。


「千秋、仕事終わりそう?」


 島の対角線上にいる陽太が大きな声で言った。

 人の少ないフロアに陽太の声はよく響く。他のチームの人たちの視線に千秋は首をすくめて、陽太を睨みつけた。


「だから静かにって言ってるのに……大丈夫、上がれるよ」


 それを聞くなり、陽太はカバンを持って千秋の席に駆け寄ってきた。


「千秋の部屋、寄っていい? じゃがいものチーズガレット作って!」


「って、言って。昨日、泊ってったのは誰だよ」


「お腹いっぱいになったら帰るのだるくなっちゃってさ」


「今日こそは食べたら帰れよ? そろそろ替えのYシャツも足りなくなってきたし」


「え、じゃあ、買って帰らないと!」


「いや、だから帰れよ……」


 真剣な表情で言いながら、フロアの出口へと向かう陽太のあとを追いかけて、千秋はため息をついた。


 ***


 翌々日――。


 定時を告げるチャイムのあと、一時間ほど経つと――以下略。


「千秋、仕事終わりそう?」


 陽太の大きな声にも周囲の方が慣れてしまったらしい。

 フロアに残っている人たちは短く息を吐いただけだった。周囲の反応に千秋は引きつった笑みを漏らした。


「今日も千秋の部屋、泊っていい?」


 千秋のとなりにやってきた陽太は、食べかけのお菓子を千秋の口に押し込みながら尋ねた。チョコレートがかかった棒状のお菓子――ポッチーだ。


「……もう泊るのは決定なんだな」


「千秋の部屋だと朝遅くまで寝てられるし。夕ごはんも朝ごはんも美味しいのが出てくるし」


「俺の部屋を旅館かなにかと勘違いしてない?」


「まさか。旅館っていうより実家?」


「俺はお前のオカンか」


 口の中のポッチーをもぐもぐと咀嚼そしゃくしながら、千秋は陽太に白い目を向けた。


 ***


 翌々々日――。


 定時を告げるチャイムのあと――以下略。


「千秋、仕事終わりそう?」


 陽太の大きな声に千秋は頷いた。

 周囲もすっかり無反応だ。みんな、適応能力が高い。


「ちょっとは仕事に慣れてきた?」


「まぁ、ぼちぼちかな」


 陽太はカバンを持って駆け寄ってきた。


「よし、じゃあ帰ろっか! 今日も俺の部屋に泊ってくだろ、千秋?」


 満面の笑顔でグッと親指を立てる陽太を見もせずに、


「わずか五日で俺の部屋を乗っ取るな」


 千秋は淡々と、常識という名のツッコミは入れた。

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