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××××が職場にいるとやりにくい。  作者: 夕藤さわな
【05.欠勤編】

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05-01 構ってくれない、構えない。

 千秋がプロジェクトに来て五か月――。


「小泉、甘い物」


 自席で頭を抱えている千秋に、パチンコ先輩がそっとキャラメルとチョコレートを差し出した。


「す、すみません! ありがとうございます!」


 ハッと顔をあげた千秋は慌てて頭を下げたあと、壁にかかっている時計に目をやった。

 終業のチャイムが鳴ってから、すでに三十分が経過している。

 パチンコ先輩がカバンを持っているのは、もう帰るつもりだからだろう。


 だというのに、千秋は全く、全然――。


「終わる目途めどが立たないのか。……ほれ」


 ポテオリ先輩が、そっとポテチの袋を差し出した。強烈なにおいにパッケージを見ると、とんかつソース味と書いてあった。

 こちらも右手にカバンを持っている。左手にはポテチだ。パーティサイズのポテチ片手に帰るつもりらしい。

 これを持って電車に乗るのは他の人の迷惑になるのでは……と、思いつつ。


「ありがとうございます。……えっと、まぁ」


 ポテチを一枚つまんで、千秋はあいまいに微笑んだ。

 えっと、まぁ……どころか、全く、全然。終わる目途どころか、キリの良いところにすらたどり着けていなかった。


 エラーがありすぎて、このままだとコミット――自分のローカル環境で作業してるプログラムを、他の人たちも確認、編集できる環境に保存することすらできないのだ。

 何かあると怖いから、コミットしてから帰りたいのだけど……。


 頭を抱える千秋の隣の席に、恋脳こいのー先輩がどさりと腰かけた。岡本の席だけど、今は打ち合わせ中で離席している。

 千秋と誰かがしゃべっているのを見ると、真っ先に駆け寄ってくる陽太も、同じ打ち合わせに出ていて今はいない。


「うちのチーム、スケジュールに遅延は出てないから。今日のところは帰り支度を始めようか」


「え、えっと……その……」


 恋脳こいのー先輩に言われて、千秋は口ごもった。

 エラーが出ているとコミットはできない。でも、毎日、コミットして帰らなくちゃいけないというわけでもない。

 だから、このまま帰ってもいいといえばいいのだけど――。


「小泉はコミットしてから帰る派なんだよな」


「あ~、これだとコミットできないな。とりあえず、エラーつぶすか」


 パチンコ先輩とポテオリ先輩が千秋のパソコン画面をのぞき込んだ。


「いえ、でも……定時過ぎてますし……」


 三人とも、カバンを持ってる。もう帰るところだ。さすがに残業に付き合わせるのは申し訳ない。

 そう思ったのだけど――。


「エラーだけなら、物の数分です。ちゃっちゃか終わらせちゃいましょう」


 アニオタくんがそっと爆乳マウスパッドを差し出した。

 貸してくれるらしい。お気持ちだけ、ありがたく受け取ることにして、マウスパッドは押し返して。


「すみません……お願いします」


 四人に向かって、千秋はぺこりと頭を下げた。 


 ***


 打ち合わせから戻ってきた陽太は、目を丸くした。千秋の席にチームメンバー四人が集まっていたからだ。


「何? なに、なに、なに!? 何してんの、千秋たち!」


 満面の笑顔で駆け寄ると、


「コミットできるようにエラーつぶし中」


 パチンコ先輩がぼそりと答えた。


「この処理、確かにややこしいな」


 恋脳こいのー先輩が眉間にしわを寄せた。


「明日、詳細設計書から見直すか」


 ポテオリ先輩はそう言うと、深々とうなずいた。


「同じ処理、どこかにもありませんでしたっけ」


「これから着手するやつですね」


 首をかしげるアニオタくんに、千秋はプリントアウトしたスケジュールを指でなぞって答えた。

 誰も陽太の方を見ようとしない。打ち合わせ、お疲れ様! の、一言もない。

 ムーッと唇をとがらせた陽太は、


「俺も! 俺も混ざる!」


 と、叫んで拳を振り上げた――瞬間。


「百瀬くんはまず、今の打ち合わせの議事録作成」


 遅れてフロアに戻ってきた岡本が、陽太の肩をポン……と、叩いた。

 振り返ると、岡本はにーっこりと笑っていた。目だけは笑っていないやつだ。


「……は、明日でいいから。小泉くんのことはみんなに任せて帰りなさい」


「えぇ、やだ! 俺も千秋の手伝いする!」


 子供のように駄々をこねる陽太を見もしないで、


「いや、いい」


「そんな大人数でやることじゃない」


「て、いうか百瀬がいると話が脱線して長くなる」


「帰れ」


 パチンコ先輩、恋脳こいのー先輩、ポテオリ先輩、アニオタくんは冷ややかな声で言った。

 最後に、ようやく顔をあげた千秋が


「もう終わるから。ヒナ……百瀬くんは先に帰ってて」


 そう言った。

 少し疲れているようだけど、きっと聞いたところで“大丈夫”という答えしか返ってこないだろう。


「……はーい」


 陽太は千秋には聞こえないほど、小さな声で返事をして。

 チームメンバーに囲まれて。パソコン画面をにらみつけて、眉間にしわを寄せている千秋を見つめて。


「……」


 そっと、ため息をついたのだった。

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