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××××が職場にいるとやりにくい。  作者: 夕藤さわな
【04.居酒屋編】

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04-05 おしゃべりの隠し事。

 起きる気配のない千秋を、陽太が背負って。カバンと上着を岡本が持って。店を出たのは二十二時過ぎのことだった。


 細い路地から大通りに出て、タクシーに乗り込んだ。後部座席に千秋を押し込んで、


「それじゃあ、マナーのお勉強」


 と、言ってにっこりと微笑む岡本に後部座席を譲り、陽太は渋々、助手席に収まった。

 バックミラー越しに見てみると、千秋は岡本の肩に寄り掛かって、気持ちよさそうに寝息を立てていた。


 元々、面倒見の良い性格だ。岡本は迷惑そうな顔もせず、むしろ千秋が起きないようにと座る位置を調整したりと気を使っている。

 千秋を気にかける岡本の目が、他の誰に向けるものより優しいことに岡本本人は気が付いているのかどうか。


「でも、やっぱり……子供の頃と変わっていくのはさみしいです」


 夜も遅い時間帯だと言うのに、ビルやテールランプの光で明るい外を眺めながら、陽太は唇を尖らせた。


 小さい頃なら後部座席の――千秋の隣の席は絶対に陽太だった。

 どこかに遊びに行くと、千秋は必ず帰り道は寝てしまった。体力のある陽太は喋りたくて仕方がないのだけど、肩に寄りかかって寝ている千秋を起こさないようにと、一生懸命に我慢していた。


 ――そのうち、千秋の寝顔なら何時間でも眺めてられるようになったんだよなぁ。


 ぼんやりと考えていると、


「学生時代の友達が社会人として働いている姿は違和感があるものだからね。だから変わったと感じるのかもしれない」


 岡本がくすりと笑って言った。


「百瀬くんみたいにはっきりと口にする人は珍しいけど、さみしいと思うことくらいは誰でもあると思うよ」


「岡本さんも?」


「百瀬くんや小泉くんと同じ頃にね。社会人になってしばらくは学生時代の友達とも遊んでいたけど、徐々に会う機会が減って。その頃は少しだけ、さみしいと思ったよ」


 まるで絵本を読み聞かせるような岡本の優しい声に、陽太はまたぼんやりと外を眺めた。

 まるで諭すような口調だ。

 そんなに子供扱いされるほど、駄々をこねているのだろうかと首をかしげた。


「社会人になれば相応の振舞い、友達以外との付き合いが求められる。時には友達よりも、そちらを優先させなきゃいけないときだってある。それでも、根っこは変わってないし、会えば懐かしくて楽しいのが友達だよ。

 一瞬たりとも離れたくないとか。自分以外の誰かと仲良くしているのを見るのがいやとか。何よりも優先させたい、優先してほしいというのは。そういう関係を友達というのは、少し違うかもしれないね」


「そりゃあ、そうなると恋人ですね」


 岡本がくすくす笑うのを聞いて、タクシーの運転手もけらけらと笑い声をあげた。


 ***


 千秋のマンションの近くに止まったタクシーは、陽太と千秋を下ろすとまた走り出した。

 通り道だからいいよ、と言って岡本は頑なにタクシー代を受け取ろうとはしなかった。


 部屋まで送るよ、と言う岡本を頑なに断って。陽太は走り去るタクシーを見送って、背中の千秋を背負い直した。

 マンションの階段を慎重に上がり、千秋のかばんからカギを探し当てて玄関を開けた。


 部屋のあかりもつけないまま、千秋をベッドに横たえて、


「昔はおんぶで階段上がるのも余裕だったんだけどなぁ」


 陽太は盛大にため息をついた。

 昔といっても小学校の頃。まだ千秋がクラスで一番小さくて、陽太がクラスで二番目に大きかったときの話なのだけど。


「しわになるぞ~」


 陽太は独り言を言いながら、千秋のスーツの上着を脱がせた。ネクタイも外して、ハンガーに引っかける。

 ズボンはどうしようかとベッドの上の千秋を眺めて、


「ネクタイ取るとほとんど制服だよなぁ」


 陽太はけらけらと笑った。

 白のYシャツに紺のズボン。中学、高校と制服はブレザーにネクタイだったけど、入学式や卒業式以外はブレザーもネクタイも使わなかった。


 明日は土曜だ。ちょっとくらいしわになっても、アイロンをかける時間は十分あるだろう。ズボンは放っておくことにして、Yシャツの第二ボタンだけ開けておこうと手を伸ばして――。


「……」


 千秋の肩先についた髪を、じっと見つめた。

 少し長めの黒い髪。陽太の髪は明るい茶髪だし、千秋の髪は黒いけどもっと短くて細い。

 たぶん岡本の髪だ。タクシーの中で、肩に寄り掛かっていたときにでもついたのだろう。


 肩の髪をさっと払って、陽太は千秋の首筋に鼻先を寄せた。

 やっぱり千秋を叩き起こして、シャワーを浴びさせようか。考え込んで、陽太はため息をついた。


「なぁ、千秋。そういう関係を、友達とは言わないんだってさ」


 熟睡しているのをいいことに囁いて、陽太は千秋のほほを手の甲で撫でた。


「そんなの。とっくの昔にわかってる……」


 一瞬たりとも離れたくないとか。

 自分以外の誰かと仲良くしているのを見るのがいやとか。

 何よりも優先させたくて、優先してほしい、とか。


 友達として思ってるわけじゃないことは、とっくの昔に――。


「分かった上で……なんですよ、岡本さん」


 陽太は千秋のキスを落として、つぶやいた。


 あかりのついていない部屋に、ぽつりと。

 陽太の低くかすれた声が落ちて――すぐに消えた。

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