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9.うまい話

ぼくらは今まで以上にミミズ退治に勤しんだ。


「いや、こんなに倒してどうすんだよ」

「作業としては慣れて来てない?」

「燃やす……燃える……ふふ……くふふ……」

「あんな風に慣れたら駄目だろうがよぉ」

「ライラは燃やせればなんてもいい感じだから、うん」


この頃になると役割みたいなものも自然と出来た。

前衛はぼく、中衛はエマ、後衛はライラだ。


ぼくは素手に硬く布を巻き付けた拳闘士スタイル。

一応は短剣も使うけど、ほとんど防御用だった。攻撃を弾きながらぶつかりに行って、敵の勢いを削ぐ役割だ。


エマは変わらず槍を使ってる。

取引して得た短槍だった。

取り回しがいいから狭い洞窟内でも邪魔せず振り回す。案外、器用だ。


ライラは杖をそのまま使い、魔術を適宜使っている。

使える魔術の数は増えたけど、根本的に燃やしたがりだった。

いつかはダンジョンを火の海に変えたいと展望を述べていた。勘弁して欲しい。


そうしてどんどんミミズを倒した。

ノルマ達成とか問題ないくらいの数をせっせと積み重ねる。


涼しい場所で干しておけばある程度は持つけど、根本的に生肉で、放っておけば腐ってしまう。そうなればさすがに引き取ってはくれない。


だから、エマの懸念はもっともだった。

下手をすれば本当に無駄に終わることもありえる。


「前にやったみたいに、タダで他の連中にくれてやるつもりか?」

「さすがそんな慈善事業はもうしないかなあ」

「だったらマジでなんだよ」

「燃すの……? ぜんぶを消し炭に……? これだけの量を……ッ!?」

「ライラ、お前はなんでそれをウットリ言ってんだよ」

「えへへ……」

「いや褒めてない、褒めてないから」


下手をすればそうなってしまう手前だった。

せっかく集めたものを焚き木みたいに焼くしかなくなる。


けど、幸運はどうやらまだ残っていたらしい。

最悪の環境でも、いい出会いはある。


ダンジョンから出る途中で、すれ違うように姿が見えた。

一人だった、小柄な女性だった、たぶん年上。

革鎧を主体とした装備をしている。武器だけじゃなくて防御用の装備にも力を入れることができるのは、それだけここで長く生き残ったからだ。


ぼくらでは三人がかりでも敵わないと思える相手。

そんな人がここにいる、だからこそ――


「あ、あの!」

「……小生に、ご用か」

「は、はい」


ひとつ息をつき。


「触手ミミズの舌、ダンジョン達成のノルマ用のこれを、買いませんか?」


そう問いかけた。



 + + +



ダンジョンには奥がある。

そこでは別の怪物たちがいる。


たぶん更に奥にいけばまた違う怪物たちがいるんだと思う。

それらを倒しても、きっとノルマ達成にはなる。


別階層に行っても触手ミミズ退治を続けるとは、ちょっと思えない。


だけど、それらを倒すのは、きっと大変なことのはずだ。

強い相手を一匹倒すのと、弱い敵を十匹倒すのは、下手をすれば同じくらい大変だ。


だから、半端に強い人はダンジョン奥の地点を探索しつつも、ノルマ達成のためのミミズ狩りもする。

そういう強さのレベル帯の人が絶対にいる。


そう、ぼくらが得ている触手ミミズの舌は、強くなった人たちからしても「欲しいもの」だった。

入口付近に陣取ってカツアゲしようって連中が出るくらいには、需要がある。


だったら、それは商売になる。

あちらが欲しいものと、ぼくらが欲しいものが違うからこそ、取引になる。


「ふむ、納得した」


これらは推測でしかなかったけど、どうやら当たっていたみたいだった。


「ここは初級者が主に使う方であり、小生はノルマを達成するため蚯蚓どもを屠ろうとしていた、それがいくらかの取引にて得られるのであれば僥倖ではある」


ほとんど表情を動かさない人だった。

何を考えているのかよくわからない。


「小生は得るものは確かだ。そちらが得たいものは何か」

「情報を」

「ふむ?」

「ぼくらからすれば、ダンジョンの先がどうなっているのかわかりません、その情報が得たいのです。また、できれば、金になる怪物の部位があれば知りたいです」

「なるほど、なるほど……」


背後ではエマとライラが固唾を飲んで見守っていた。

ついでにエマにはライラが魔術とか発動させないように見張ってもらった。

強い人とか見たらウズウズしてしまうらしいし。


「いくらかは言えぬ事柄もある。第二階層を征く探索者として口止めをされている事柄がある。だが、それ以外となれば小生からすれば無料にて教えたところで構わない」

「いいえ、そういうわけにはいきません」

「先達として教える形でもいいが、それでは納得がいかぬものではあるか」

「ええ、あなたの時間をもらいます、その対価は必要です」

「ふむ、ふむ……」


この情報は、喉から手が出るほど欲しかった。

ダンジョンのこの先がどうなっているか、それを知らないまま行くのは冒険すぎる。

三人で生きてここを出るという目的が、ほぼ確実に失敗する。


目を瞑って考え、一つにまとめた髪の毛の先をいじっていたその人は。


「了承した」

「おお、ありが――」

「ただし触手ミミズの舌を、二十四個いただく」

「はあッ!?」

「……へぇ……」

「どういうことです?」


戦闘意欲に着火した後ろ二人を抑えながら聞いた。


「まず、ここで過ごすほどにノルマの量は上がる。八個だけでは済まぬ」

「ああ、なるほど」

「また、言葉だけで教えたとて無意味だ、それでは伝わらぬ、上っ面しか捉えられぬ。小生の言葉の意味を理解できぬまま、たやすく死ぬと予想ができる、洞窟迷宮はそれほど甘くはない」

「ええと、つまり……?」

「値段分の働きはする――実地で教えよう」


表情を変えず、当たり前のように続けて言う。


「第二階層での生き方を案内する」


それは喉から出た手が引っ込むくらいの好条件だった。

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[良い点] すいすい読めて、先が気になる
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