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上手く行った。

触手ミミズは「通路向こうから来る獲物」だけに注目して、後ろからの接近なんて気にしていなかった。


そして、ぼくはついさっきミミズの臭いを、その血を存分に浴びた。

人間の臭さが、抜けていた。

警戒する対象じゃなくなっていた。


振動の違いで区別するような知性もない様子だった。

それが前から来るか、後ろから来ているかも判別しない。


ぼくらは粗末な槍を手に、油断した触手ミミズを背後から襲った。

暗がりを、明かりもつけずに歩いて、獲物を狩る。

まるでこっちが怪物になった気分だった。


二度目の襲撃は上手く行き、三度目も同様に成功した。


「次、ね、次に、行こう……!」


ライラがやけに興奮してた。

目をキラキラと輝かせている。


血に酔っている状態なのかもしれない。

手にした槍は半ば折れているけど、それでも次に行こうとしていた。


「なあ」

「なに?」

「引き返そうぜ」


エマの提案は妥当だった。


「えー……けど……たおせるよ……?」


少し迷ってたけど、ライラのその声で決めた。


「うん、戻ろう」


ブーイングは無視する。


「ぼくらは暗がりで攻撃をした、それで敵を倒せた」

「だから、次もできるよね、ね……?」

「気が利く人なら、同じようなことをする」


ぼくらがやったみたいに、暗がりに潜んで待ち受けるミミズを狩りに行く。

お互いに冷静ならいいけど、突発的にぶつかってしまえば敵対する。


「人間同士で殺し合いとか、したくないでしょ?」


敵は、あくまでも怪物のはずだ。



 + + +



戻ったぼくらはお褒めの言葉とやらをもらった、その上で、どれだけノルマ達成に支払うかを聞かれた。

手にした討伐の証は、近くのギルド店へと行けば物々交換できる。


初日にはなかった説明だ。

とても親切。


けど、横でしかめっ面して立ってる騎士の人がいなければ、きっとこういうことは言わなかった。

勤勉さとか誠実を求めちゃいけない。


ぼくらは実質奴隷で、向こうはその監督役だった。

奴隷に対して親切で正直になってもメリットなんてない。


ぼくらが手に入れた触手ミミズの舌は合計で六つだった。

ノルマのための数は四日ごとに八つで、全部を支払ってもまだ届かない。


「……第十一班、ノルマを支払うな?」

「支払いません」

「あ゛あ゛ッ!? わかってんのか、お前は何も支払ってないんだぞ、やるべきことをやってから大言は言え! このダンジョン学校の生徒であれば義務を果たせ!」

「はい、もちろん。けれど、いつ支払うかのその選択権は、ぼくらにあります」


後ろではエマとライラが縮こまっていた。


「貴様ぁ! 国父様への敬意がまるで足りんぞッ!! メシも武器も寝床も与えられた上で踏み倒すつもりかッ!! この不敬者がッッ!」

「まだ期限はありますよね?」

「黙れッ!! ガキがッ! 少しはその足りない脳みそを働かせろっ! 何をどうすればお前らのようなゴミがあと二日でモンスターを狩るつもりだ!」

「僕らはこれで装備を整えます、そのために使います」

「……チッ」


監督官のちいさな舌打ちは、ぼくらの勝利の音でもあった。


彼は、ぼくにそう言わせたくなかった。

意思表示をさせたくなかった。


装備を整えたいとちゃんと表明をすれば、否定することができない。

騎士が横にいる間だけは。


だからこそ、やけにデカい態度と声で脅した。

国父様やら義務やらを大げさに言って、こっちの発言を潰そうとした。

やろうとしていることが見え見えすぎて、なにかの罠かと思ったくらいだった。


「……お前ら第十一班のノルマ期限は、二日後だ」


監督官の表情はとても忌々しそうだった。


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