わたしだけが知っている!!
昨日、れんれんさんのエッセイ「男と女、それぞれの事情 2」を読んで思い出したエピソードをどうしても読んでいただきたいので、書かせてください。
うららかな春の夕方でした。今を盛りと咲き誇る大きな桜の樹の下に、二人はいました。真新しい制服に身を包んだ高校生の女子と男子です。制服もカバンもピカピカ☆ ピカピカの高校1年生☆
二人は美しく咲いた桜の花に気づいたようすもなく、ただただお互いの顔を見て楽しそうに笑っていました。ピカピカの制服よりもっとピカピカな笑顔で、相手の言うことに手を叩いて笑い合っていました☆ すごく楽しそう♪ すごくうれしそう♪ 見ているわたしまで幸せな気持ちになります♪
とっても楽しそうに笑っていた女子が、ふと気づいたように腕時計を見ました。そして男子に何か言うと彼はうなずいてバイバイと手を振り、二人は別の方向へ歩き出しました。すごく楽しい光景だったけれど、もうお別れの時間かぁ~! 残念! わたしも歩き出そうとしたとき、彼がクルリと振り返りました。視線の先には足取り軽く帰ってゆく彼女がいます。彼は桜の樹の下で、ずっと彼女の後ろ姿を見ていました。彼が見ていることに気づいていない彼女は、スキップするように軽やかに離れてゆきます。彼女がどんどん小さくなって、砂粒くらいに小さくなっても、彼はずっと彼女を見つめていました。彼女が見えなくなってからも、彼はそこに立ち尽くして見えない彼女を見つめていました。桜の花びらが雪のようにハラハラと彼に降っていることにも気づかず、ただただそこに立っていました。
わたしだけが知っている彼の秘密です♡
時は流れ、わたしは彼と彼女が住む街から離れた遠い場所で暮らしていました。あの二人は元気かなぁ? 彼の想いは彼女へ届いたのかなぁ? あの頃と同じ時期になると、咲き誇る桜を見ては二人を思い出します。
そんなわたしはある日、アキナさん(仮名・30代)に呼び出されました。アキナさんは当時わたしがお付き合いしていた彼の上司の奥様です。人数が20人程度のアットホームな会社だったので、会社の飲み会にアキナさんやわたしが参加していたのがご縁でお付き合いが始まりました。
アキナ:マチちゃん、お願いがあるの。
ソウ :なんでしょう?
アキナ:こんどから毎週〇曜日の夜〇時に、うちへ来てほしいの。
ソウ :毎週? 同じ曜日の同じ時間ですか?
アキナ:そう。そして一緒に〇〇というドラマを観てほしいの。
ソウ :別にかまいませんけれど、どうしてですか?
アキナ:理由はドラマを観ればわかるわ。一生のお願い!! うちへ来て!!
ソウ :……いいですよ。
アキナ:ありがとう! 絶対にお願いね!! 絶対に来てね!!
同じ頃、アキナさんのご主人に呼び出されました。お付き合いしている彼は抜きです。なんでだ?
上司:マチに頼みがある。
ソウ:なんでしょうか?
上司:今度から〇〇というドラマをうちへ観にきてほしい……!
なんと! アキナさんが言っていたのと同じドラマです!
ソウ:事前に予定に入れておけば、行けないことはありませんけれど……どうしてですか?
上司:理由はドラマを観ればわかる! 頼む! お前だけが頼みなんだ!
ソウ:……べつにいいですけど……。
理由は謎ですが、二人がぜひ来てほしいと言うので行きました。当時からテレビは見ない生活をしていたので、何のドラマか想像もつきません。
夜の9時からだったかなぁ? 10時だったかなぁ? 眠たい目をこすりながらお宅へおじゃましました。二人は大歓迎で迎えてくださいます。どうやら二人とも、相手がわたしを呼び出したことは知らないみたいです。なんか知らんが、いらんことは言うまい。ここは黙っておこう……。
呼び出された理由はドラマ開始30分で判明しました。そのドラマ………………、
不倫のドラマだったのですよ(涙)。ドロドロの男女が織りなす不倫ドラマ(涙)。
二人にはさまれてドラマを観ているわたしの胃がキリキリと痛くなります(涙)。
そういえば、アキナさんが言っていました。「最近、夫が浮気をしている気がする」と……。
そしてご主人はこぼしていました。「妻が浮気に気づいているかもしれない」と……。
わたしは第三者ですし浮気をしろともするなとも言える立場ではないので、どちらの言うことにも知らん顔をしていました。お二人のことは大好きですし、だからと言ってどちらかの味方になる必要もない。ヘラヘラ笑いながらどっちつかずの立場でした。それがアカンかったらしい!! 二人で観るには気まずいと、それぞれが別々にわたしに白羽の矢を立てたのです! ビミョ~なシーンになるとお互いの反応を盗み見する二人にはさまれてドラマを視聴する辛さったら!! 胃が痛い! 胃に穴があく!! そしてCMになるたびに、ビミョ~な質問を相手に繰り出す二人! その火の粉はこちらへもバンバン飛んできます!!
アキナ:奥さんがいるのに浮気するなんて、どういうつもりだと思う?
上司 :…………魔がさしたのかなぁ?
アキナ:マチちゃんは、どう思う?
ソウ :…………どうなんでしょうねぇ……(←胃が痛い)。
上司 :妻がちょっと厳しすぎると思わんか?
アキナ:そうかしら? マチちゃんはどう思う?
ソウ :…………どうなんでしょうねぇ……(←胃が痛い)。
わたしだけが知っている、二人の真実……(涙)。でも口が裂けても言えない……(涙)。
毎週が地獄の責め苦でした(涙)。行きたくないから断ろうとしても、二人とも断固として来いと言う! 結局最終回までお付き合いしたのですけれど、このドラマの内容は一切おぼえておりません! 誰が出てきたのかも記憶にございません! ただただドラマよりこの場のほうがよっぽどヤバイと感じるだけで、後はずっと胃の痛みに耐えていた!! 胃に穴が空く前にドラマが終わって良かった!!
わたしだけが知っている秘密でございます。そして、秘密はこれだけじゃなかったのです。最後まで黙っていましたけれど、じつは………………、
実はわたし、上司の浮気相手とも個人的な交流がございました(涙)。彼女からときどき、不倫のお話を聞かされておりました(涙)。いつもヘラヘラして考えなしで口を開くわたしですけれど、このことだけはずうっと口を閉ざしておりました! だってバレたら修羅場ですから!! 血みどろの地獄絵図が繰り広げられますから! そして最後まで誰にも何も言わず、お付き合いしていた彼とも涙の別れを告げ、わたしはまた遠くへ引っ越しました。逃げるが勝ちです!!
みなさんがそれぞれの幸せを見つけていますように! そしてここまで読んでくださったあなた様が、修羅場に巻き込まれませんように!!
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このドロドロしたお話を書いている最中に、編集さまと清く正しく美しい児童書の打ち合わせメールを分刻みでやり取りさせていただきました……。大人の世界と子どもの世界の振り幅が大きすぎて、脳内がちょっとした修羅場でございました…………(涙)。どうしてこんなに次からつぎへと修羅場になるのだろう……?? 何かに呪われているのだろうか(涙)。