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可能性

「その話本当なんですか!?」


「えぇ…私も何度か確認をしてみたんですが、娘さんの世界能力は……」


「そんな…!?何とかならないの?」


 部屋の奥からお父様とお母様…それと私の世界能力を測定してくれた専門の方が会話をしている。

 内容はここからじゃよく聞こえはしないが、大体の予想はできる。専門の方がいることから、私の世界能力について話しているのだろう。


 世界能力の確認方法は簡単だった。というより、簡単過ぎた。

 そのやり方は、専門の方が所持している機械に手をかざすだけだった。後は、その結果を報告するという流れだった。

 私はてっきり、協会に行って信託を授かる物だと思っていたのだが、実際は違ったらしい。

 それに親の反応からするに、私は世界能力を手に入れられなかったのではないだろうか?

 たまに世界能力が発現しない人もいるみたいなので、なんら不思議ではない。もうここに用はないので、自分の部屋に戻るとしよう。


「これからどう振る舞うべきかな……」


 人生何があるかわからない。

 今できることをできるだけやるしかないのだ。

 この場合、アニメやゲームだと追放ムーブがお決まりだが実際に私はどうなるのだろうか。


 部屋に戻りながらそんなことを考えていると、奥の部屋から気の強そうな女性の声が聞こえてきた。


「ほんとか!?あのリンメルが……」


 声の主は長女…カサンドラお姉様だ。

 ひと際、正義感が強く何事にも全力で取り組む姿勢が私は大好きだ。

 

「声が大きい!

 リンちゃんに聞こえたらどうするのよ」


 それと、もう1人…こちらはカサンドラお姉様とは対照的に優しそうな声と母性の塊のような存在の次女…メルディアお姉様だ。

 メルディアお姉様はいつも私を甘やかしてくれるので大好きだ。だがリンちゃん呼びだけどうにかしてほしいのも事実だ。


「でもどう伝えるんだよ。そんなことあいつが知ったら……」


「そこなんだよね~…リンちゃんの世界能力が、ああなるなんて思ってもみなかったわ」

 

「だよなぁ~。いつもメイドに八つ当たりみたいなことしてたみたいだし…」


 それは言わないでくれと心の中で思いつつ、今の話を聞く限り私自身に世界能力はちゃんと発現しているみたいだ。

 じゃあなぜお父様とお母様はあんなに慌ていたのだろう?

 謎が深まるだけだ。





 ⚫⚫⚫




「はぁ~…まさかリンメルの奴が……」


 あの子の世界能力がああなるとは思ってもいなかった。

 あの子は根は真面目だということを知っている。

 夜な夜な書庫に潜り込んで、調べ物をしていることを私と妻はわかっていた。だからこそ、メイド達に迷惑をかけていようが、一線は越えないことをわかっていて私達夫婦はこれまで見逃しできた。

 だが、状況が変わった……。


「あなたどうにかならないの?」


「あるにはあるが……あれをするとなると今度は私たちが迫害の対象になりかねない。君も知っているだろう?」


 私たち夫婦は、今世紀最大の決断を強いられていた。それは三女、リンメルの世界能力についてだ。


「まさか…今世紀に私たちのところに生まれて来るのか…世界の意思を宿す……ワールドクラスの世界能力保持者が……」


 今、一般的に広がっている世界能力は、リミットとレガシーとされている時代だ。

 タブーは世界から抹消されたものとされ、文献でも少し耳をする程度となった。

 なぜなら、タブーの世界能力を持って生まれてきてしまった子供たちは、王城の地下に監禁され理性が崩壊する前に焼き払われるか、タブーを克服…つまり害がないレベルまでに制御できたものが王城から出られ普通の生活に戻ることができるという風に言われている。

 実際の所は分からないが……。


「はぁ~」


 そもそもタブークラスがこのような扱いになったのは、一昔前にタブークラスの世界能力保持者による一斉暴動があったからだ。

 さらに、王都ペルメシアがたったの1時間で壊滅状態まで陥ったという書物まで残っている。

 それに加えワールドクラスというのは……。


「戦争の道具にされて身を亡ぼすか……王室の実験道具にされ精神崩壊するか……どっちにしろタブーよりも扱いが最悪なわけだが……」

 

「そうね…世界能力は、すべて王室が管理しているわ。

 だから私たちは専属の……それも旧友に頼っているのだけれど」


「偽造は簡単だ。

 だがこれが王族の糞どもに露見すれば……」


「即刻戦争の戦力として頭数に入れられるわね。

 しかも、今は魔人族との小競り合いも活発になってるって……」


 王都ペルメシアを守護している四大貴族は、戦争には反対の意を示してはいるものの、王族が首を縦に振ればそれに従うほかない。

 だからこそ、我々は王都ペルメシアという中立の都市にいるわけだが――


「唯一の救いは学園に通うことね……」


 王都ペルメシアは王族の管轄ではない。そのため、情報操作するのはいとも容易い。


「だな、そのまま報告すれば戦争の道具にされる。偽造して報告しても……」


「バレたら私たちが消された後にリンメルが戦争の道具となる」


 どちらにせよ、最悪の結末は免れない。


「ミャ~」


 突如として、部屋の中に現れた猫に対して周囲に戸惑いが生じる。


「なんだこの猫は?」


「あ、メルちゃん!最近リンメルが飼っているのよ?

 かわいいでしょ~」


 リンメルが猫を飼っていることは耳にしている。


「あぁ……そうだな」


 だがなぜこのタイミングにここにいる?私の書斎に入るには外にかけてある鍵と展開している封印の構築式を解かなければならないはずだが…。


「話は聞かせてもらいましたよ。私も少しながら協力させて頂きます。彼女の幸せのために……」


 私は夢でも見ているのだろうが。猫が人の姿に化け声を発した。

 ここで声を荒らげることはしてはならない。私はこの家の当主だ。猫が人に化けたくらいで同様を見せてはならない。冷静に対処するのだ。


「何の用だね…?ここは君の来ていい場所ではないのだが?

 それとも今の話を聞いて、かわいい娘を戦争の道具にするつもりかね?」


 うまく乗り切った。動揺を隠しながら会話するのは苦手だが何とかなったようだ。

 だが、本当にこの猫は何者なのか…少し調べる必要がありそうだ。


「僕ならリンメルの世界能力に干渉できるかもしれない」


 こいつは何を言っているのだろうか?世界能力に干渉するなど……。


「血のつながった者同士でしかできないとでも言いたげだね?今の僕はスライムだ。僕の力なら何とかできるかもしれないよ?」


「っ!?あなた!」


 警戒心の強い妻が、彼には心を開いているようだ。なら、私がなおさら警戒しておいたほうがいいのかもしれないな。


「私たちに選択の余地はない。そこにすがることしかできないのなら…使えるものは使わせてもらうよ……。

 娘をよろしく頼んだ」


「任せてください。

 彼女は必ず僕が救って見せます…。もう二度と戦争の道具にはさせない」


 何か妙なことを言い残しながら、彼は部屋を後にした。


「少し、彼を警戒しておいてくれたまえ」


「かしこまりました」


 彼が部屋から去ったあと、私は椅子の背もたれに倒れることしかできなかった。

 彼が教えてくれた世界能力は確かに強力なものだった。不当な扱いを受けているものには救済にもなるだろう。


「ただしこの世界能力の有効期限は1年だ。それ以上は持たない。それと感情の起伏で強制的に解かれる可能性もある。それほど完璧なものじゃないことだけは知っていてほしい」


 しかし、一年を超えてあの世界能力が使われていた場合、娘はどうなるのだろうか……。

 考えるだけ無駄か...今は祈ろう。かわいい娘を戦争の道具にもされない未来のために。

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