考えの先
あれから六年の月日が過ぎ、私も十三歳になった。
その六年の間に、私の中で色々な心境の変化が訪れた。それから、新しく戻ってきた記憶の中で有益な情報になりえるものがいくつかあった。
まず、心境の変化の一つとして、メアリーから剣術を習い始めた。メアリーが私に剣術を勧めてきたのは私が十歳になったころ。その時はまだ、自衛手段を持っていなかった私に必要と言われ、渋々了承したのだが、今では毎日の日課に素振りを入れるくらいには生活の一部と化している。
まぁ、メアリーには剣術の才能はないって言われた時は剣を地面に叩きつけそうになったけど。誘ってきたのはメアリーの方なのに……。
他にも色々あるが、そんなに重要なことではないので省くとしよう。
そして一番大事な取り戻した記憶。
まず、九歳の誕生日に思い出した記憶は、この世界がやはり、悪滅というゲームの世界間と類似しているということ。
前に夢で見たものは悪滅のゲーム画面でほぼ間違いないだろう。
そして、リンメル=フロストメイルという名前は悪滅での悪役令嬢だったことも思い出した。
だけど、この世界とゲームは完全に同じではないらだろう。それは、私がこの場にいることこそが証明になる。私の行動次第では、ゲームには存在しなかったルートに行くことは明確だ。
だが、今の所、この世界はゲームよりの世界だと私は思っている。
そして、十二歳。
本当に重要なのは、こちらの記憶だ。
それはなぜか?答えは簡単だ。このままだとあと一年もしないうちに戦争が起こるかもしれないからだ。
ゲームは最終的には、戦争へと発展していくが、今現時点では、本当に起こるかは定かではない。
とまぁ新しい情報はこれくらい。
それと……。
「ホワァーーーー」
横にあくびをしている猫がいるのだが、彼は私をこの世界に連れてきたメル=ビクトリアだ。
メルは私が十一歳になった時、突然この屋敷に現れた。
今では色んなメイド達から可愛がられている。
そして私は、今しがたメイドに向かって紅茶の入ったカップを投げて疲れ切っているところだ。
こういう悪役の演技をしたことがないので余計に疲れた。
「悪役ぶるのも何かと大変なんだよね…でも驚きよね。今はこんなに平和なのに私が十五歳になっている時には、戦争がすでに始まっているかもしれないんだから」
足と腕を組み、淡々と語る私にメルが言葉を付け加えた。
「しかも、その二年後には世界戦争にまで発展するんだもんねぇー。君が言っていたそのゲームとやらが本当にこの世界で起こるのなら一大事だねぇー」
メルは淡々と、興味なさそうに答える。
「そうね。しかもこの家も巻き込まれるってメルが言ったときは驚きを隠せなかったなぁ」
「そりゃそうさー!なんてったって、このフロストメイル領はこの国の最前線に当たるんだから」
ゲームとは違う点…それはゲームで表現されていなかったことが、この世界では起こりえるという事。
当たり前のことだとは思うのだけれど、ゲームではフロストメイル家の詳細情報は公開されていなかった。ゲームは学園からのスタートだ。それ以前の情報は存在していなかった。
「でも、君が裏で色々と動いていてくれて助かったよー。おかげで僕は着々と準備を進められるんだからー」
メルが何を準備しているかは何も聞かされてはいないが…まぁ、メルの事だから心配しなくても上手くやってくれていることだろう。
「てかさぁ、いい加減そのしゃべり方やめてくれない?転生前の最後にしてた砕けた喋り方に戻してほしいのだけれど?」
私は、机に肘を立ててメルの方に目を合わせ、転生前の砕けた喋り方に戻して欲しいとメルに伝えている。
「ごめんね~、あれは何かの間違いみたいなものだから…こっちが素の喋り方なんだー」
そう言い、メルは笑いながら頑なに喋り方を戻そうとはせず、いつもはぐらかされてしまう。
何で前のような喋り方をしてくれないのかは謎のままだけど、あまり無理強いすることでもないことはわかっている。ただ、私がメルの喋り方に違和感を感じてたいただけだ。
それと、メルには独り言が多いことがわかった。
まるで誰かと会話しているような内容を、虚空を見上げながら呟いていることが多々ある。
心ここにあらずって感じだ。
そして私には、それよりも大事なものがこの先に待っている。
「ねぇ、リンメルー」
「何?少し色々考えていたんだけど……」
私はこれから学園に通うこととなっている。
先ほどの話と同時に頭の片隅では学園に通うことについて色々と考えていた。
「んー…色々と考えるのはいいんだけど、確か…明日出発だよね?」
そう、学園には明日出発するということが学園に通うこ者たちに伝書鳩を使って伝えられている。
私はこう思ってしまった。
伝書鳩を使わずに構築式で済ませればいいじゃん……と。
聞いたところによると、それだと構築式を逆に利用されて個人情報を抜き取られるらしい。
特に、魔法を使える者たちからすれば、格好の的ならしい。
最初の頃は、この世界に魔法は存在していないと思っていた。ゲームでは魔法は存在していなかったからだ。
だけど、それは私達人間は魔法を感知することができないかららしい。
魔法は魔人族という種族だけが使えるものであり、人間には魔力があっても魔法は使えない。
逆に言えば、魔族は世界能力を持つことはできないということだ。
とまぁ、今はそんなことどうでもいい気がするが……。
それよりも、メルの言葉のほうが大事な気がするので、メルの言葉に耳を傾ける。
「そうだけど?それがどうかした?」
「あー……明日の準備しなくていいのかなー?って思ってさぁー」
「ん…?」
そういえば、考えているだけで、明日の準備を全く何もしていないことを忘れていた。
「いやいやいや……え?マジで…?ほんとに?オワッタ」
布団にもたれかかり、考える事を放棄する。
明日の私よ、学園に出発する時間までに準備を終わらしておいてくれ。
私はこのまま眠るとしよう。
「もぅー…しょうがないなー」
翌朝、私はメルに対して小一時間ほど土下座をかまして神と奉った。
その時のメルの顔が少し複雑そうな顔をしていたのはきっと気のせいだう。
そして、メルのおかげで準備は万全。いよいよ学園に出発の時が来た。
「そういや、メルも学園について来るの?」
「もちろんだよー。君を一人にするのは少し心配だからねー」
だそうなので、一様、学園ボッチは免れたみたいだ。
「あ、でもー、ついていくのは寮までだよー。学園には、正式に手続きした人しか入れないからー」
「そ…そんなことわかってたよ!」
心配だ……。
学園で友達ができるのか…また三年間ボッチで暮らさないといけないのか。
心配だ…。
「それじゃ!お父様、お母様、お姉様方、行ってきます!フロストメイル家に恥じない行いをしてまいります!」
馬車から乗り出し、見送りをしてくれている家族に手を振る。
これからが本番だ。
ゲームでいうところのスタートラインに立っただけ。
ここから始まるんだ…!
新たな人生が。
「私が未来を変えて見せる!絶対に滅亡なんてしてたまるもんですか!」
そう固く決意し、これから始まる物語に一種のワクワクを感じつつ、これから起こる戦争のことにも気を配りながら、生活しなければならないことに少なからず恐怖を感じていた。
でも、それでも、やりとげないといけない。
私が私であるために。
「とうとう始まるのか…。今度こそ、他の誰より君だけは守り抜いて見せるから……」
ボソッとメルが何かをつぶやいていたがこれからの事で頭がいっぱいだった私には何も聞こえていないふりをした。
「あ、メル?今から私は考え事をするために寝るからさぁ、学園についたら起こしてね~。んじゃ、お休み!」
私は有無を言わさず爆速で寝る体勢に入る。
「わかった……」
メルの悲しそうな声が聞こえてきたが、それより眠りたいという欲求の方が強かったため、そのまま深い眠りについた。。