番外編 アビス=ハイメルトの憂鬱
私はアビス=ハイメルト。
リンちゃんことリンメル=フロストメイルは、私の初めての親友と言っていいほど仲良しの友達です。
ですが最近とある事件でリンちゃんはお友達を一人亡くしたわけではないですが…魔物になってしまったお友達がいました。
そのお友達の名前が、アルテラ=ルーレイトといいます。私としても大切なお友達だったので魔物化したときは本当に驚きました。
私は、リンちゃんと二人でお買い物を楽しんでいました。そこに何か用事があったのかアルテラさんが姿を現したんです。用事が済んだらすぐに帰ると思っていたのでそれは何かもったいないと思い、私の提案で三人で王都を回ることになりました。
私のあの選択のせいでリンちゃんを深く気づ付けることことをこの時の私には知る由もありません。
「私ってリンちゃんのお邪魔になってないでしょうか……」
一人自室で落ち込みながらも何か力になれることはないか探しているときに唐突にリンちゃんに会いたくなり出かける準備を始める。
「リンちゃんは私と違って強いからアルテラさんのことを強く引きずってはないと思うけど、私はそこまで強くないから今でもリンちゃんを傷つけたことを心のどこかで根に持っているんだろうなぁ」
ですがいつまでもあの時のことを引きずっていると、リンちゃんが心配してしまいますから私も吹っ切れないといけないですね。
だからこそリンちゃんに会いに行くのですが……
「よし!準備も終わったことですしリンちゃんのお部屋に行きましょう!」
私のお部屋からリンちゃんのお部屋までは5分とかかりません。同じ階のお部屋なのでいつでも行き来できる距離です。
私は扉をノックし、リンちゃんから反応が返ってくるのをまちます。
「リンちゃん私です、アビス=ハイメルトです!」
部屋の中が慌ただしく大きい音を立てながら扉の前に来たのがわかりました。多分、文献や色々な本を端っこに寄せているのでしょう。
「ア、アビスちゃん、何か用かな?
はぁはぁ」
息を切らしながらドアを開けたリンちゃんは何か焦ってた様にこちら見てきたので部屋の中を覗こうとすると……
「ダメ!中は見ちゃダメ!
今、大事な研究してるから誰にも見られるわけにはいかないの…!」
やっぱり、またお部屋を汚したまま放置していたパターンですね。
「リンちゃん……」
「いや違うの、アビスちゃん!話を聞いて」
「いいですけど、どうしようもない理由でしたらわ・た・しが、直々にお掃除いたしますからね!それでもいいなら理由を教えてください」
私がそういうと、リンちゃんは言い訳を言おうか少し迷いながらもそれは意味のないことだと悟ったのか、すんなり通してくれました。
「でも、あんまり片付いてないだけで、前よりはきれいになったと思うんだけ…ど、アビス…ちゃん?」
リンちゃんは目をぱちくりさせながら、私の方を覗こうとしてきます。
「リンちゃん?これのどこがきれいになっているの…?」
「いやほらね?だから……」
「リンちゃん、これは片付けてないというか前より汚くなっているじゃないですか!」
そこで見た光景は予想よりも酷いものだった。ずっと資料を見て魔物化のことを研究していたであろう資料が机の上と床にばらばらに置かれており、歩くスペースはほぼない。さらにはそこで寝ていたかのように毛布まで床に放り散らかしている。
「何でこんなことになっているんですか……お片付けをしたのが三日前ですよ、さすがに早すぎだと思うんです…このことについてリンちゃんはどう思います?」
「はい、おっしゃる通りでございます……」
「そうですよね?
ではやることは分かっていますよね?」
「はい、今から片付けたいと思います……」
「よろしい、私も手伝いますので早く終わらせてしまいましょう!」
結局のところ私はリンちゃんのお部屋にお片付けをする一日になりました。私の悩みなんか忘れるほどにリンちゃんといると楽しくて仕方がないのです。
「ふぅー、やっと終わったよ」
「ですね、これで最後だと思います…
今度こそはこのきれいさを維持してくださいね!仮にも女の子ですから」
「そうするよ、また地獄の掃除をさせられるのはこりごりだからね」
「ふふ…そう思うならこのお部屋、きれいに使ってあげてくださいね」
「は~い」
「もういい時間になってしまいましたね、私は自分のお部屋に戻ることにします」
「分かった、ありがとうね
アビスちゃん」
「はい、ことらこそ……」
当初の目的ではなかったものの、この時間も楽しかったしこのままお部屋に帰ってまた日を改めてもいいと思えてくる。
そもそも引きずっているのは私だけみたいだし、リンちゃんはもう前を向いてやるべきことをやっている。私の悩みで邪魔をしたくない……
「リンちゃん!」
でもここで言わなきゃ私が私自身を許せなくなる気がする。
「私ね…あのときのことずっと後悔してるです…..あそこで私がアルテラさんを誘わなければアルテラさんは魔物にならずにいつも通り学校で会えたんじゃないかって、考えてしまうんです…リンちゃんにも怪我を負わせてしまって……」
「アビスちゃんは、アルテラと遊んでて楽しくなかった?」
「楽しかった…です…でも!」
「楽しかったらそれでいいじゃない、それに相手は多分魔族か魔人族の手先だったと思うし、あそこで魔物化しただけまだましだと思うよ?
学校であれをされたら、今回より収拾がつかなくなったかもしれない…アルテラも殺されていたかもしれない。
研究員に捕まっても殺されははしない、あいつらは研究のためなら何でもやるだろうけど唯一殺傷は禁止されているからね?
だから深く考えなくていいと思うよ」
リンちゃんの言葉は今までもらってきたどの言葉よりもぬくもりを感じて温かった。そして何よりも近くに感じられた。
「ごめんなさい、こんな泣き言みたいなこと……」
「いいよ…私も今までずっと迷ってたんだ、私は本当にこの世界にいていいのかとか…やっていることが合っているのかとか、いつも悩みっぱなしだよ
でもそれでいいんだと思う、答えなんか誰も見つけてくれない…結局のところ自分で探し出すしかないんだから…それが苦痛なら逃げればいい遠回りしてもいい、どんな答えでもそれが正解へと繋がる道になるから
だから深く考えなくていいんだよ」
「今やるべきことに全力で挑めということですか?」
「それは違うかな~」
リンちゃんはいつも私に優しくしてくれる、それは私にとって最も大切にしたいもの。でもあのとき私はあなたが死にそうになっていたのを横目に見ていただけ、私は無力過ぎる。だからリンちゃんの横に立って恥ずかしくない自分になりたい。
「それでいいんだよ、目標が決まったら後は進むだけ!
途中で苦しくなったりしたら私のところにこればいい、いつでも話相手になるからさ」
「はい!ありがとうございます!」
私は必ずリンちゃんの隣にたって恥ずかしくない自分になる!
その時リンちゃんがピンチになる前に私が助ける。それで一緒に戦えるだけの力をつけなくちゃ!
「じゃあ私はお部屋に帰りますね、今日はありがとうございます!それじゃあ、お休みなさい!」
「ん、こっちもありがとうね、お休み」
そうして今日という一日が過ぎ、いつもの日常へと戻っていく。