表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/159

邂逅

 「リ……ちゃ…リンちゃん!

 良かった!やっと目が覚めた…」


 アルテラの精神世界から戻り、目を覚ますと目の前には涙を浮かべながら抜け殻となっていた私の体を抱き寄せているアビスちゃんの腕の中にいた。


「リンちゃんさっきまで心臓が止まってたんです……あんまり無茶なことしないでください!」


 アビスちゃんがここまで怒るってことは、よっぽど心配をかけてしまったようだ。

 今回に関しては反省しないといけない。

 だが、それよりも――


「アルテラの容態は?」


「はい…少しだけですが、暴走が収まって制御できている様にも見えます」


 魔物化したアルテラの方に目を向け、リンメル自身の目でアルテラの様子を確認する。


 確かに、魔物の動きは鈍くなっているようにも思えるが…あれは精神世界でアルテラが必死に魔物と戦っているため一時しのぎの弱体化なのだろう。

 そこから察するに、あれはそう長くはもたない気がする。


「時間がないなら今すぐにでも始めないとね…フェーズツーに入る前ならまだ人間の姿に戻せる……さぁ、始めるよ!」

 

 アルテラも私が何をするか、なんとなくだがわかってくれているはずだ。アルテラの感は鋭い……ならこちらはやるべきことをやるだけだ。




 その頃アルテラの精神世界では、魔物が何かに気を取られており、アルテラもそれに気がついたようだった。


「なんだ…この妙な流れは……魔物が何かに気を取られている?

 そうかあいつがやり始めたんだな。それじゃあこっちも始めますか!」




 会話ができないなら、ただ相手にこちらの存在を視認させればいいだけの話しだ。

 そんなに難しい事ではない。

 さぁ、詠唱を始めよう。


「アビスちゃん少し離れていてね」


「はい……」


 アビスちゃんは何処か不満そうな顔をしているが、何も言わずに後ろに下がる。

 アビスちゃんが後ろに下がったのを確認すると、構築式の詠唱を始めていく。


《理求めて千となす・現象来てりて万となす》



(フロム・バーチカル・トレイユ)



《《相対する波長(マクロ・フレイル)(炎凰の波(アルス・フレイム))!!!》》


 外側と内側から同時に放たれた波長は、同時に魔物に接触する。

 それと同時に魔物化の進行は止まる……そのはずだった。


「リンちゃん…?あれどんどん大きくなってませんか?」


「グワァァァァ!!!」


 魔物は雄叫びを上げながら、どんどん巨大化していっていた。


「どう…して……私の計算に何か間違いがあったの?でもそんなことありえない!ありえていいはずがないもの……」


「何かわかったのですか…?」


 実際には何もわかっていない。ただ、仮説としてその条件が当てはまると言うだけで確証などありはしない。


「わかったも何も…可能性の話。あの魔物は私たちが発動した構築式を食らって成長している可能性がある。

 つまり、魔物化の進行速度が速かったのはアルテラが精神世界で戦っていたから。

 そして、それは精神世界の魔物にも当てはまること……精神世界のアルテラが魔物に敗れると言うことは、魔物が、この世界に完全に顕現するということ…つまり、あの魔物は宿主の生命力を使い巨大化している」


 それで今までのことをすべて説明できることになる。

 逆に今の結論が間違っていたならば私たちにどうこうできる相手ではないということだ。


「キャハ!すごいすごい~大正解!」


 唐突な真上からの声に恐怖を覚えてしまい、上空に視線を合わせる。

 今、目の前にいる魔物化しているアルテラから目を離したら、いつこちら側に顕現するかわからない。

 しかし、この巨大な殺気を目の前に振り向くなという方が無理な話だった。


「この短期間でよくその結論に行きつきましたね…お見事です。ですが、この方はもう助かりませんよ?あなたが編み出した技によって魔物化は急激に進みました。

 それに、彼の体は耐えられなかった…いえ違いますね。誰も巻き込みたくなくて自害を選んだところでしょう」


 そう言われ、ふとアルテラの方を向き直っていると魔物化していたアルテラの体が崩壊を始めていた。


「狙う獲物を間違えましたかね?ここで自害されては困るのですけどどうしましょうか?」


「あなたたちは何者なの!」


 返答によっては今ここで戦闘も止む無しと考えていたが…近くに騎士団も到着していた。

 誰かが騎士団に通報してくれたのだろうか?

 だが今はありがたいことこの上なかった。

私の出番は、少しでもこの会話を長引かせ彼女らをここにとどめておくことだ。


「今は名乗りませんよ、まだその時期ではないので…

 まぁでも名乗らないのも無礼かと思いますので少しだけ、私はコードネームα(アルファ)とお呼びください」


「私はね~γ(ガンマ)っていうの~よろしくね~」


「私たちはそろそろ退散させていただきます。今日はただご挨拶しに来ただけですから」


 αにγ、この者たちはいったい何者なのだろうか……今の私には、圧倒的に情報が不足している。あいつらを足止めする力を持たないただの役立たずだ……。


「γ退散する前にあれだけお願いね」


「はぁ~い!」


 そこでγと名乗った少女の手元に意識が吸い寄せられてしまった。そこで至った結論は最悪の事態を連想させてしまう。


「だめぇっっっっ!!!」


 彼女らはアルテラを無理やり暴走させ魔物をこちら側に顕現させようとしていたのだ。

 そうなればアルテラは死んだのと同じ扱いになってしまい、すぐに騎士団に処分されるだろう。


「グォォォォォォッッッ!!!」


「これは私たちからの置き土産だよ~精々あがいて頑張ってね~」


「そんな…助けられなかった……助けるって誓ったの…に……」


 そこでリンメルは意識を失い地面に倒れこんでしまった。


「リンちゃん!」

 

 そこからのことは、何も覚えていない。起きたときにはすでに私はベッドの上に横たわっていた。

 アビスちゃんに聞いたところによると3日間も眠り続けていたらしい。

 波長を模倣したことでずいぶん脳を酷使した挙句、心臓まで止まっていたのだ。

 疲れがどっと押し寄せたのだろうと医者の方が言っていた。

 普通ならそれで済むはずがないのだが……。

 

「アビスちゃん、あの後アルテラはどうなったの?」


「魔物化したアルテラさんは騎士団によって|獄蓮地下牢(ごくれんちかろう)に連れていかれたという話を耳にしました」


獄連地下牢(ごくれんちかろう)に連れていかれた!?どういうこと、普通なら即討伐対象になるはずなのに……」


 獄蓮地下牢とは……数多くの犯罪者が収監されている地下牢で、その中には世界能力が暴走して囚われている人たちや、極悪犯罪者まで収監していると言われており、そこでは毎日のように何かの実験に付き合わされているという噂があるくらいだ。


「まさか……」


「そのまさかだと思います。研究者の人たちは、アルテラさんを使って、何かの人体実験を行うつもりだと思います」


「けど……」


「はい、疑問はわかります……そんなことが本当に可能なのかどうかですよね?

 そもそも騎士団が獄蓮地下牢に連れていくかどうかも疑問が残ります」


「また、厄介ごとが舞い降りてきそうな案件だね…それにしても、魔物化の実験……か」


 元来、魔物化の研究はそこまで進んでおらず研究した職員の半分以上が人体実験していた魔物たちに殺されているという文献も残っている。

 そのことを踏まえても、今回の魔物の人体実験は非常に危険だったはずだ。


「それがですね…リンちゃんが気絶してからの話になるんですけど、あの後のアルテラさんは誰も人を襲わず、ただ眠っているかの様にその場で立ち尽くしたまま動かなかったんです」


「だから、新種の魔物として分類された…?」


「そういうことみたいです」


 うすうす感じていたが、ゲームとの本来の歴史が変わりつつある。

 これは私も早急に準備しなくてはならないかもしれない。

 必ずやってくる戦争に備えるためにも、こんなとこで立ち止まってはいられないから。

 必ずアルテラを救う方法はあるはずだから。





●●●





「これが魔物の本来の姿か!まさに神が作り出した創造物の中で最も美しい!

 これで私も……フフフハハハハハハ!!!!!!!」


 不穏な影は刻一刻とリンメルの側に近寄っていく。

 それが自然と言わんばかりに……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ