願うもの
「何なんだよあいつ…全然ダメージが通ってる気がしねぇ」
ここはアルテラの精神世界。
アルテラそこで一体の魔物と戦っていた。
アルテラ自身自分が今どこにいるのかわかっていないだろうが、そんなことは関係のないことだった。
「アルテラ!」
そこで唐突な声が、掛けられアルテラは驚きを隠せなかった。
「リンメル!?どうしてここへ…!?」
「あなたを助けに来たの…って言いたいところだけど、そんな余裕はなさそうね……」
目の前でアルテラが戦っていたのはアルテラが変異した魔物ではなかった。
それよりも何倍も大きな巨大な魔物だった。
「それはありがたい…と言いたいところだが、お前はすぐに帰った方がいい。
今のお前の状態を見るにかなり無理をしてここまでやってきただろ?お前の世界能力がどんなものかは知らないが…ここに来れたと言うことはかなりの情報が頭の中を駆け巡っているはずだ。今の俺がそうだからな」
頭をトントンと、指で人差し指で叩きジェスチャーを送ってくる。
さすがアルテラ、一目見ただけで私の状態を把握してしまった。
それゆえにここで失ってしてしまうのはもったいない。今後のためにもアルテラには頑張ってもらわないと.いけない。
友達として…ね……。
「おあいにく様!3分なら十分に可能よ!もちろんあなたが加減せず本気でぶちかましてくれるならね!」
「マジかよ!あいつ俺の攻撃を食らってもピンピンしてるくせにどんどん大きくなっていくんだが!?
それを3分で片付けろだと?簡単に言ってくれやがるぜ!」
「あぁそれが原因か……」
「なんだ!何かわかったのか!」
「外の進行が思ったよりも早く進んでいるのよ。今の状況も考慮して第二段階…フェーズツーに入るのは早くて2分遅くて3分ってところかしら?」
「まじでギリギリの戦いになりそうだな!おい!」
そう言いながら笑うアルテラは少し楽しそうだった。
と言っても、本当にギリギリの戦いなのだ。私の解析が完了するのは早くても2分はかかってしまう。だからこそアルテラにはありったけの時間を稼いでもらう必要がある。
「アルテラ!最大の3分稼いでくれる?2分で解析を終わらせて1分であなたの本体を鎮静化する」
「よく言ってくれるよ…やるしかないんだろ?」
「えぇ」
実際残された最大時間3分をもってしても成功する確率は50%もないだろう。だがそれでこそ腕の見せ所というものなのだ。
「行くぞ!」
「えぇ、頼んだわよ!」
アルテラが戦闘を開始しだし、リンメルが全力で自身の世界能力を行使する。
脳が焼き切れる寸前まで出力を徐々に上げていく。そうでもしないと間に合わないことは明白だったからだ。
その時、いつしかメルが言っていた言葉を唐突に思い出した。
「いいかい~リンメル~…オールアクセプションは相手の能力完璧に模倣することができる。
でも、しようとすればするほど脳に負担がかかるんだ~。だからあんまり完全な構築式を模倣するのはお勧めしない。これだけは約束して…お願い……」
オールアクセプションを簡単に言ってしまえば、相手の心に不用心に侵入していくようなものだ。
それに、この能力は感情が乗ってしまえば発動しにくい。だからこそ、扱いが難しい。
「なんで、こんな大事なタイミングで頭によぎっちゃうかなぁ~。でもごめんねメル…私は1人の大事な友人すら守れない弱い奴のまま終わりたくないの…だから約束破るけど許してくれるよね……」
本当はさっきのメルの言葉には続きがある。
「リンメル、君のその世界能力は本来人間には持て余す力なんだ…なぜ君が普通に使えるかはわからないけど、君がもう一度完全な構築式の模倣しようとすれば君の脳がほんとに焼き切れてしまうかもしれない。
死ぬかもしれないんだよ?だから、完全な構築式の模倣は控えてほしいんだ」
脳が本当に焼き切れてしまう恐怖と、友人を殺される恐怖なら友人を殺される方が断然怖い。
誰も失いたくないから、私は自分の引いたレールの上を歩くことを決める。
誰かに決められたレールの上を歩くことは、私は嫌いだ。だからこそ誰の責任でもなく、これが終わったときにおこるのはすべて自己責任だ。
「私の体…頼むから魔物化を止めるまではもってよね!」
全神経を集中させ、アルテラの世界能力を模倣していく。だが……。
「これじゃ間に合わないわね…仕方ない初めての試みだけど……やる価値はあるわね!
アルテラ少し詠唱するから私にヘイト向かせないでね」
「わかった!」
《神聖なる焔の翼》
アルテラがワシの様な召喚獣を顕現させたと同時に、リンメルが詠唱の準備を始める。
《我・汝に抗うもの》
「なんだ…この詠唱……」
「グウォォォォォォッッッ!!!」
《理を超え・道をさし記すもの》
魔物が標的をアルテラから私に切り替えこちらに向かって来ようとしているが私は気にせず詠唱を進めていく。
《真は理・理は真なり》
アルテラは、約束を必ず守る男だから。
「いかせるかぁぁぁあ!!!」
私はただ、今できる最高の結果で道を切り開く。
《己の限界を超えろ!》
詠唱が最終節に入り目標をとらえる段階へと移行する。
アルテラと魔物の二体を目標に設定し、執行フェーズへと移行する。
《|全知全能の御業《オーバーライド・インストラクション!》》
この能力は、私が今まで私が模倣してきた能力を改造して編み出したものだ。
効果は一時的ではあるが、目標と自分自身をリンクさせ、リンク先の能力を使用可能にするというものだ。
しかし、この能力には膨大な量の情報が組み込まれているため、脳への負担が激しいのだが…この能力には、一部の情報を肩代わりしてくれる性質をもち合わせている。
「この構築式の唯一の欠点は、結局肩代わりした膨大なデータの波が一気に脳に流れることなんだよね~。まぁ、一時的に肩代わりしてるだけだから私に帰ってくるのは当たり前なんだけど…ね!」
私は、淡々と独り言のように呟き虚空を仰ぐ。
この能力を展開しているうちは設定した目標が消滅でもしない限り対象の力を模倣し続けてくれるからだ。
「さて!
最後の仕上げをしますか~」
最後の仕上げとは相手の能力を完全模倣するときに必ずやらなければならないことである。
《真なる世界の神々よ・我が真名を聞き届けよ》
すべての詠唱過程を終え、ファイナルフェーズえと移行していく。
《聖なる焔が示す光》