面接③
僕は、誰が社長だったのか、ひとり黙って考え込んだ。
1階の太ったチョビヒゲおじさんか。
2階のよぼよぼのおじいちゃんか。
3階のセレブ風おばあちゃんか。
すると、隣に座っていた斎藤さんが、急に立ち上がって僕にこう言った。
「君はもう、面接を受けなくていいよ。」
そして笑顔で、
「もう決まったから。」
と言ってきた。
僕は、カチンときた。
立ち上がって、
「決まったって、何がですか?僕だって、面接を受けてからでなくちゃ、採用か不採用かは分からないじゃないですか。」
すると、斎藤さんは、不思議そうな顔をしている。
「やってみなくちゃ、分からないでしょう。可能性は、ゼロでは無いんですから。」
ちょっとムキになってしまった。
でも、面接をまだ受けてないのに決まったなんてひどい。
「そうか。君のこと、ますます気に入ったよ。」
斎藤さんが近づいてきて、僕の両肩を掴み、
「君は合格だ。」
と言って来た。
「ん?ああ、そう、ありがとう。」
僕は、椅子に座って冷静になる。
斎藤さんって変な奴だなと思った。
僕はなかなか信じなかった。
しかし、斎藤さんこそが社長だったのだ。
僕は、ここに来てからずっと見られていたのだ。
斎藤さん、いや社長は、社員の派閥問題による複数名の社員の退職があったことを明かしてくれた。
「他社へのライバル意識を持つことに力を入れていたが、ライバル意識が強すぎて、それが仲間にも向けられるようになった。協力するということの大切さを痛感したよ。思いやりが我が社には足り無かったんだ。自分本位ではダメなんだ。」
社風を変え、思いやりのある人を採用するため、清掃員に変装していたが、面白がって清掃員がばらしてしまった為、仕方なく、面接を受けに来る人達に交じって様子を伺うようになったそうだ。
こぼれたコーヒーを拭き取ってくれた時から、もう採用を決めていたと明かしてくれた。
僕は面接を受けること無く、意気揚々と家に帰った。
次回のラストを見て頂いても結構ですし、終わりにして頂いてもいいです。
ここで終わりにして頂いたほうが、後味は悪くならずに済みます。