盗賊さん
二日目、三日目も特に変わったことはなかった。真美の家に行ってパソコンを使うのも変わらず。代わり映えがなさすぎてちょっと退屈になるぐらいには。
ああ、でも、初日以外の夜はちゃんと小さな村に立ち寄って休んでる。それが一番違うところ。フランクさんが言うには、一定間隔でこういった村はあるらしくて、普通はそこで宿泊するらしい。
問題、と言うべきかは分からないけど。それは四日目だった。
配信しながら、馬車からの景色をのんびり楽しむ。今は小さな山の道を通ってるところだ。木々に覆われた緑豊かな山で、なんだか私もちょっとだけ気分がいい。森は好き。
足をぷらぷらさせながらそんな森の景色を楽しんでいたんだけど、それでもそれにはすぐに気付いた。
「んー……」
人の気配。人型の魔物とかじゃなくて、間違いなく人間の気配だ。それも、たくさん。
もちろんここまででも、他の人とすれ違うことは何度かあった。でもそういった人たちは、みんなそれぞれの目的地に向かっていた。
でも今回は違う。みんな、その場から動かない。
「んー……」
『どうしたんだリタちゃん、急に黙って』
『何か食べ物欲しいとか?』
『魔物の群れを見つけたとか!』
まだそっちの方が気が楽だったと思う。
馬車から離れて、フランクさんの元へ。フランクさんに声をかけると、驚いたように一瞬だけ震えた。
「なんだ、嬢ちゃんか。どうした?」
「ん。道なりに進むと、人間が二十人ほどいる。今までと違って全然動かない」
「あー……。そうか。多分盗賊だな」
「盗賊」
なんだか、ついに来たって感じだね。
『盗賊だあああ!』
『テンプレ待ってました!』
『リタちゃんどう料理するんだ!?』
視聴者さんも喜んでる。盗賊が出て喜ぶのはどうかと思うけど、あまりうるさく言わないようにしてあげよう。
「ん。盗賊なんだね。どうしよう? ばくっとする?」
「いや、それはやめようか!」
すごく勢いよく断られてしまった。ばくっとする魔法はフランクさんにとってはあまり好ましくないらしい。便利なのに。
「本当に盗賊なら別にいいけど、盗賊じゃない可能性もある」
「ん。そうなの?」
「ああ。例えば馬車が壊れて立ち往生している場合とかな」
だから、実際に近づくまで待ってくれ、というのがフランクさんの意見だった。
『確かにフランクさんの意見はよく分かる』
『これで無実の人間を大量に殺した、とかになると、ちょっと問題だろうし……』
『だからリタちゃん、不満そうな顔はだめ』
んー……。仕方ない、かな。私も襲われてないのに殺すようなことは、できれば避けたいし。
フランクさんがミリオさんたちに報告した結果、とりあえずはこのまま、警戒しながら接近することになった。道を変えない理由は、立ち往生している場合は助けてあげた方がいいから、らしい。
そもそもとしてこんなに早く気付く方がおかしい、とも言われたけど。
みんなが警戒感を強めて近づいた結果は、
「おおっと残念だったな! 通行止めだ! 恨みはないが死んでくれ!」
そんな盗賊さんたちだった。
『盗賊だあああ!』
『テンプレだー!』
『盗賊に捕まってあんなことやこんなこと……』
『お前は帰れ』
ん。でも実際に負けて捕まっちゃうと、命はないと思った方がいいんだよね。
人数はちょうど二十。一人、奥の方でふんぞり返ってる人も含めて。弓とかの隠れてる人はいないみたい。あまり数は多くないけど、これって手を出していいんだよね?
「フランクさん。どうしたらいい?」
「全員生け捕りってできるか? 情報を吐かせたい」
「ん」
少し面倒だけど、問題はない。さくっと捕まえよう。
『全員生け捕りってわりと無茶ぶりでは?』
『でもフランクさんからリタちゃんならできるだろっていう謎の信頼を感じる』
『実際ほんとにできるの?』
できるよ。
フランクさんの隣に立って、杖で地面を叩く。すると地面が揺れて、岩でできた大きな檻が浮かび上がってきた。そしてそのまま、盗賊たちをほぼ全員捕まえた。
「え」
「わあ……」
呆然とするフランクさんと、馬車から目を輝かせるエリーゼさん。エリーゼさんに手を振ると、勢いよく振り返してきた。ちょっとだけかわいいかも。
『子犬令嬢やな』
『憧れる気持ちもわからんでもない』
『テンプレは? ピンチからの強者の余裕みたいなやつは? まだ?』
『おじいちゃん、盗賊イベントはもう終わったでしょ』
『なん……じゃと……?』
ん。あまり時間もかけたくなかったし、さくっとやらせてもらった。時間をかけても仕方ないだろうし。盗賊さんたちも、自分たちが捕まってると気付いたのか、みんな顔を青ざめさせてる。
最初からやらなければいいのに。やった時点でもう言い逃れなんてできないから。
ただ、一人だけ様子が違う。奥で偉そうにしていた大柄な人だ。背中には巨大な剣を背負ってる。その人はゆっくりと歩いてきて、檻の内側からフランクさんへと言った。
「豪腕の剣王とお見受けする」
ん。フランクさんの二つ名かな?
『ごwwwうwwwわwwwんwww』
『豪腕の剣王www』
『ここに来て新たな二つ名が出てきて草』
『フランクさんも二つ名持ちじゃったか……』
「ん。格好いいよね。豪腕の剣王だって。いいと思う」
『え?』
『え?』
「え?」
この人たち、ちょっと感性がおかしいと思う。
大柄な盗賊さんは、フランクさんを見据えて言う。
「我らは運がなかった。だがせめて、豪腕の剣王、貴殿と手合わせ願いたい。我が願い、聞き届けていただけないだろうか?」
「そう、だな……」
フランクさんが迷ってる。受けてあげたいって思ってるのかも。
確か盗賊が捕まった場合、ほぼ例外なく死罪か、死ぬまで鉱山とかの危険な場所で働くことになったはず。フランクさんもそれは知ってるだろうから、せめて戦うことぐらいは、とか思ってるのかもしれない。
『実質的な最期の願いってやつやな』
『そう思うと聞いてあげたいよなあ……』
『リタちゃん、どうする?』
「え、嫌だけど」
私が思わずそう言うと、視聴者さんだけじゃなくてフランクさんと盗賊さんも驚いて私に振り向いてきた。そんなに驚くことなのかな?
「あー、リタちゃん。負けることはないだろうから、ここは一つ……」
「ん。やだ。私は早く進みたい。これ以上盗賊なんかのために時間を使いたくない。だから嫌だ。それとも……」
死人に口なし、でもいいよ?
壁|w・)金目のものを奪おうとしたら大きな檻に閉じ込められた盗賊さんの図。
なお、殺していいと言われた場合はばくっでした。
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ではでは!