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無垢なナイフ


 日の出と共に起床して、お菓子を食べて配信を開始。いつもの流れ。


「ん。おはよう」


『ぐっもーにんっ!』

『リタちゃんおはよう!』

『今日もかわいいねえ!』

『ところでですね……我々は気になることがありまして……』


 そんな感じのコメントがたくさん流れていった。

 昨日の夜、私は師匠の実家を訪ねていた。それはみんな知ってることだから、心配してくれてるらしい。いろいろと不思議なことを言う人たちだけど、それでもやっぱりみんな優しいね。


「ん。会ってきた。優しい人たちだったよ。師匠のことも伝えてきた」


『おー! それはよかった!』

『正直、怒られたりとかしないか心配だった』

『そんなこと知りたくなかった、とか』


「私もちょっと緊張したけど、大丈夫だった。唐揚げもたくさん作ってもらった」


『からあげ?』

『なんでからあげ?』


「師匠が一番好きな料理だったんだって」


『おー……』

『唐揚げはそれっぽいのすら作れてなかったなあ……』


 私も食べた覚えはないから、師匠が作ろうとしたのかもわからない。もしかしたら、師匠にも思うところがあって、作ろうともしなかったのかも。

 真実は分からない。師匠に聞くこともできないから。


「ん。それじゃあ、今日の予定だけど。こっちの世界で冒険者の仕事に挑戦するつもり」


『マジで!?』

『ギルドに行くってことだよな』

『すごく楽しみ』


 まだ冒険者らしい仕事ができてないからね。今回は楽しい依頼があればいいなあ。

 とりあえずいつものように、私は街の側に転移した。




 ギルドに入ると、たくさんの視線が私に突き刺さった。ただし敵意とかは感じられない、ただ誰が入ってきたのか確認しただけの視線だ。


「お、嬢ちゃん! 依頼受けにきたのか?」


 そう声をかけてくれたのは、初めて来た時にも声をかけてくれたおじさんだ。おじさんは機嫌良さそうに笑いながら、こっちに歩いてきた。


「それで、何の依頼を受けるんだ? ん?」

「ん……。おじさん、暇なの? いつもいるよね」

「ぐふっ……」


 あ、突っ伏しちゃった。えっと……。私が悪いのかな?


『悪意がないからこその切れ味』

『おっちゃん……あんたはいい奴だったよ……』

『もう少し手加減してあげて?』


 んー……。やっぱり私が悪いみたい。少し疑問に思っただけなんだけど。


「おじさん。ごめん」

「ふ、ふふ……。いいさ……。確かに暇を持て余してるのは事実だからな……」

「あ、やっぱり暇なんだ」

「ぐはっ……」


『リタちゃんwww』

『もうやめて! おっちゃんのライフはゼロよ!』

『これが……隠遁の魔女……!』


 むう。何も言わないようにしておこう。

 ついに倒れてしまったおじさんを無視して、依頼が貼り出されてる掲示板を見に行く。たくさんの依頼がある。どれにしようかな。薬草採取とかやってみようかな。


「どれがいいかな?」


『採取とか駆け出しの定番だよね』

『やはりここはゴブリン退治では? リタちゃんならぐへへの展開もあり得ないだろうし』

『護衛依頼とか。他の街も見に行けるよ』


 んー……。見事にばらけてる。もう適当に決めちゃおうかな。


「ま、待つんだ嬢ちゃん……!」

「ん?」


 倒れていたおじさんが立ち上がった。なぜか周りの大人たちが見守ってる。なにこれ。


「おお、フランクが立ち上がったぞ!」

「さすがフランクだ! 俺なら一日泣くのに……!」

「さすがね、フランクさん……!」


 いや本当になにこれ。


『そりゃまあ、リタちゃんの無垢なナイフが鋭すぎたから……』

『多分視聴者も刺し殺されてる人がいるはず……』

『見える……見えるぞ……死屍累々の視聴者どもが……!』


 んー……。正直、私には意味が分からない。だから、うん。申し訳ないけど無視しよう。

 ところで、おじさんの名前はフランクさんというらしい。自己紹介、してなかった。初めて知った。覚えておかないとね。何度も話しかけてくれてるんだし。

 フランクさんは私の側まで来ると、にっと笑った。


「ついに初めての依頼か?」

「ん。何か受けようかなって」

「そうかそうか。じゃあ薬草採取なんてどうだ? 教えてやれるぞ」

「んー……?」


 薬草採取。視聴者さんからの提案にもあったから悪くはないと思うけど、これ、難しい依頼じゃないよね。フランクさんは多分Bランク以上だし、割に合わないと思う。


「フランクさんってランクは?」

「俺か? Aランクだ。三人パーティだぞ」

「おー……」


 うん。すごい。すごいけど、余計に意味が分からない。薬草採取なんて、Aランクがやるような仕事じゃないと思うんだけど。


「Aランクがやる仕事とは思えない」


 フランクさんにそう言うと、フランクさんより視聴者さんからの突っ込みの方が早かった。


『いやリタちゃん、それブーメランって分かってる?』

『Sランクの人がなんで薬草採取なんて受けようとしてるんですかねえ?』


 それは、そうだけど……。んー……。ん。よし。私のことは棚に上げる。それでいこう。


壁|w・)無垢なナイフ(悪意のない言葉)

ここから第七話、です。



面白い、続きが読みたい、と思っていただけたのなら、ブックマーク登録や、下の☆でポイント評価をいただけると嬉しいです。

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ではでは!


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― 新着の感想 ―
[一言] 棚に上げた上に戸を閉めて、しかも、鍵も掛けた模様(笑)
[一言] >無垢なナイフ  「無知ゆえに悪意を知らずに人を傷つける所業」。  あるいは、「悪意を悪意と思えない無邪気さから、幼児が虫を殺して遊ぶ残酷さのような人の業」。  人を幸福にする善意は無…
[良い点] 想像してみたら小さな女の子からおじさん、暇なの?とか言われたらダメージ大きすぎて立ち直れないですよね
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