精霊様の照れ隠し
「これはすごい……。ちなみに、いくつか作ってもらったりとかは……?」
「んー……。今回は、情報のお礼だから。対価をくれたら、考える」
「対価……対価か……」
そこまで真剣に考えるほどのものなの? 私にとっては、一回しか防げないから微妙だと思ってたりするんだけど。
「これそんなにすごいの?」
『わりと真面目にかなりすごい』
『一般人だとあまり意味がなさそうだけど、政治家にとっては喉から手が出るほど欲しいんじゃないかな』
『大金積まれてたくさん作ってくれって言われても不思議じゃない』
うわ、それは面倒だ。そこまでやりたいとも思わない。さすがに私の生活の邪魔になるほど引き受けるつもりはないよ。
「どれだけお金を積まれても、私は気まぐれにしか作らないから」
「そ、そうか」
「ん。あと、私が知らない人に使われるのもやだ。最低限私と会って話すこと。あと嫌いな人にはそれでも作らない。あと何度も言うけど気まぐれ。もう一度言うけど気まぐれ。気まぐれ」
『大事なことなので三回言いました』
『マジで三回言ったのは草w』
『草に草を定期』
橋本さんは少し考えてたみたいだったけど、それでもいいと頷いてくれた。これでいいなら、私も作ってあげるよ。対価はもらうけど。
その後は、依頼する場合のことを少し細かく決めて、帰ることにした。ちなみに依頼方法の詳細は一度配信を切った。秘密の方法ってやつだよ。かっこいいでしょ。
まあ、メールを送るだけ、なんだけどね。
ホテルの部屋から世界樹の側に転移して、私はすぐに精霊様を呼んだ。
「これ。師匠の実家候補」
「早くないですか!?」
『間違いなく早い』
『でもその代わりに候補は多いみたいだけど』
『あー! リタちゃん隠さないで! 見たい!』
見せるわけないでしょ。みんなには森でも見ておいてほしい。
精霊様は書類の量に驚きながらも、一枚ずつしっかりと確認していく。一応私も見ていくけど、昔からの師匠を知ってる精霊様の方が分かると思う。私は師匠との会話内容で判断するしかないし。
時間をかけてじっくり見ていって、最後に精霊様は一枚の書類以外を片付けてしまった。
「ここですね」
そう断言して。
「ん……。間違いない?」
「間違いありません。あの子のフルネームとご家族のフルネームが一致していますから」
うん。よし。いや待って。
『フルネームって言いましたか精霊様?』
『下の名前しか分からないんじゃなかったのかよw』
『情報の出し惜しみはよくないと思います!』
そう流れるコメントを見て、精霊様はにっこり微笑んだ。
「私は人間をあまり信用していませんので」
『あ、ハイ』
『ヒェッ』
『すみません黙ります』
ちょっと背筋がぞくっとした。でも、私はごまかされない。
「フルネームを見て思い出しただけでしょ」
「…………」
「精霊様? 私の目を見よう? ねえ?」
『くっそwww』
『偉そうなこと言ってて忘れてただけかよw』
『照れ隠しに脅すとか精霊として恥ずかしくないんですかねえ?』
「くっ……! あなたたちなんか嫌いです!」
精霊様はそう言って消えてしまった。消える直前の精霊様の顔は真っ赤だった。かわいかったよ。
それじゃ、また地球に、と思って立ち上がったところで、ひらひらと私の目の前に落ちてくる世界樹の葉っぱ。手に取って見てみると、文字が書かれていた。
思い出せなくてごめんなさい、だって。
「かわいい」
『かわいい』
『かわいい』
たまに私より人間くさく思えるのは気のせいかな。気のせいだよね。うん。
それじゃ、改めて地球に行こう。真美たちをお出迎えしてあげたいしね。
真美の家に戻った時には、夕方だった。書類を確認するのに時間がかかりすぎたかも。この後のことを考えて、先に配信は切っておいた。師匠の家族に会うなら邪魔なだけだから。
真美の家の中にはまだ誰もいない。でもそろそろ戻ってくる頃だと思う。ちょっとだけそわそわしながら待っていると、玄関のドアから声が聞こえてきた。
「ただいまー」
「ただいまー!」
真美とちいちゃんの声だ。二人とも、すぐにリビングに入ってきた。
「ん……。おかえり」
「ただいま」
にっこり笑って、そしてすぐに真美は首を傾げた。
「電気つけてもいいよ?」
「私も今戻ってきたところだから」
「あ、そうなんだ。ちい、手洗いとうがいを先にしなさい!」
「はーい」
走って行くちいちゃんと、苦笑する真美。うん。こういうの、いいなあと思う。ちょっぴり羨ましい。
「リタちゃん、晩ご飯は食べていく? 今日は……」
「あ、ううん。今日は大丈夫。何を作るか言わないで。食べたくなるから」
「えー? じゃあ食べていけばいいのに」
不満そうに頬を膨らませてくる。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、今日は行かないといけないところがあるから。
「師匠の実家に行ってくる」
「え……。分かったの!?」
「ん」
「そっか……! じゃあ、うん。仕方ないね。すぐに行くの?」
「ん。二人と挨拶したかっただけだから」
「そうなんだ。ありがとう」
ありがとう、はおかしいと思う。これは私の自己満足だから。でも言ってもらえて嫌な気持ちにはならない。なんだかこう、ぽかぽかする。
「それじゃ、行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい、気をつけてね」
「いってらっしゃーい!」
慌てて戻ってきたちいちゃんが元気よく手を振ってくれる。思わず小さく笑いながら、手を振り返して転移した。
壁|w・)そういえばこんな名前だったなあ、みたいな感じで思い出しました。
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ではでは!