守りの魔法
橋本さんと何度かメールのやり取りをして、指定された場所は前回と同じホテル。今回は私も場所を知ってるから、待ち合わせの時間に直接転移をした。
「いらっしゃいませ、リタ様。おやつはいかがです?」
「ん。もらう」
待ってくれていたのは、前回ここまで案内してくれた人だ。テーブルにはいろんな種類のお菓子が用意されていた。チョコレートもあるし、グミとかゼリーもある。たくさん。
「配信は?」
「部屋から出ないのでしたら大丈夫です」
それじゃ、配信も開始、と。
すぐに光球とコメントの黒板が現れて、コメントも流れ始めた。
『わこつ』
『こんちゃー』
『わこつでいいのか……?』
わこつってなんだろう。挨拶みたいなものかな?
「こんにちは。今はホテルの部屋の中にいるよ。おやつ美味しい」
『いきなり何か食べてるw』
『ホテル? てことはお国関連?』
『師匠の実家が分かったとか!』
「ん。候補は見つかったらしいよ」
『マジかよ』
『早いなマジで』
正直私も驚いてる。一ヶ月とか一年とかかかると思ってたから。まだ半月もたってないよ。
『かなり急いだんだろうなあ』
『それだけリタちゃんが重要視されてるってことだろ』
嬉しいけど、ちょっとだけ困る。ちょっとだけ、ね。
そんな感じでお菓子を食べながら視聴者さんとお話しをしていたら、橋本さんがやってきた。ノックの後に入室してくる。もぐもぐ口を動かす私を見て、橋本さんは薄く笑った。
「こんにちは、リタさん。美味しいかい?」
「ん。美味しい」
「ははは。それは良かった」
橋本さんが対面に座る。真面目な話だろうし、私もお菓子を食べるのをやめよう。でもあとこれだけ……。この紫色のゼリーがすごく美味しそう……。
「もぐ……。ん、満足」
『満足と良いながらすごく名残惜しそうなんですが』
『視線がお菓子に釘付けになってるw』
『リタちゃんwww』
だって今回のおやつもすごく美味しかったから。最後のゼリーも濃厚な味で良かった。
「よかったら持っていくかい? こちらから話は通しておこう」
「ん!」
『めっちゃ嬉しそうw』
めっちゃ嬉しいからね!
「さて、すまないけど今日は私もあまり時間がなくてね。早速本題に入りたいんだけど、大丈夫かな?」
「ん。候補がいくつかあるんだよね?」
「そうだね。いや正直、かなり多いんだ。ああ、個人情報が含まれるから、配信には映らないようにしてもらえるかな?」
「ん」
頷いて、光球の向きを変える。とりあえずお菓子でも映しておこう。
『仕方ないのは分かるけど、なんでお菓子をw』
『美味しそうなのに食べられない……! 食いたくなる……!』
『お高いお菓子だけど、取り寄せできるぞこれ』
『なんで個包装の袋だけで分かるんですかねえ……』
橋本さんが分厚い封筒を渡してくる。封筒を開けて中を見ると、少し大きめの紙がたくさん入っていた。もしかしてこれ全部が候補なのかな。
「コウタ、というのはわりとよくある名前でね。せめて年齢や名前の漢字などが分かれば、もう少し対応できるらしいが……」
「ん。私も情報が少ないと思ってたから、仕方ない」
むしろだいたいの時期と名前しか分からないのによく探してくれた方だと思うよ。
でも本当に多い。五十枚はあると思う。試しに一枚抜いてみると、詳細な名前に生年月日、家族構成、住所までだいたいそろっていた。
「今更だけど、これ大丈夫? たくさんもらっちゃったけど……」
「もちろん大丈夫じゃない。非難は免れないと思うし、きっと多くの人から問題にされるだろう」
けれど、と橋本さんは続けて、
「それでも、君との関係性を続けていくことを優先させてもらうよ。きっと私の政治生命よりも大事なことだろうから」
「ん……。そっか」
正直なところ、過大評価だと思う。異星人っていうのは向こうにとって無視できないっていうのは分かるんだけど、今のところそれだけだ。
気まぐれに日本に来て、気まぐれにご飯を食べて、満足したら帰る。それだけなのに、ここまでしてくれるのは本当によく分からない。
んー……。うん。やっぱりこれはもらいすぎだ。
「これ、精霊様と確認して、必要のないものは返すね」
「ああ。それはとても助かるよ」
「あと……。何か、お守りみたいなの、ある? アクセサリーでもいいよ」
「アクセサリーかい? それなら……」
橋本さんが取り出したのは、キーホルダー。黄色い石が取り付けられたもので、娘さんが幼い頃におみやげで買ってきてくれたものなんだって。家にいる時以外は常に持ち歩いてるんだとか。
うん。それならちょうどいいかも。
「ちょっとだけいい?」
そう聞くと、橋本さんは少しだけ躊躇しながらも渡してくれた。壊さないから安心してほしい。
両手で包み、魔力を流す。キーホルダーに魔力が浸透したところで、魔力に術式を刻む。んー……。これでよし。
「はい」
「え? もういいのかい?」
「ん」
橋本さんはキーホルダーを受け取って、不思議そうにそれを見てる。魔法をこめただけで見た目は変わらないから、魔法を使えない人だと何も分からないと思うよ。
書類の入った封筒をアイテムボックスに入れて、光球を戻す。橋本さんもすぐに気付いてキーホルダーをしまった。
「キーホルダーに魔法をこめておいた。悪意のある攻撃を一度だけ防ぐ魔法」
「な……!」
橋本さんが大きく目を瞠る。コメントもたくさん流れ始めた。みんな驚いてるみたい。
『マジかよなにそれすげえ!』
『魔道具ってやつですか!?』
『いいなあすごく羨ましい!』
『これがあれば事故も安心?』
あ、そっか。それも注意しておかないとね。
「悪意のある攻撃にのみ反応するから。悪意を持って引き起こされた事故なら乗り物ごと守ってくれるけど、そうじゃない事故だと防げない。あと、防げるのは大きな怪我が予想される攻撃のみ」
ケンカで殴られたりとかでも素通りする。師匠曰く、わりとがばがばな魔法だそうだ。でも、偉い人だと色々と危険なこともあるだろうから、役に立つかも。
壁|w・)守りの魔法(使い捨て)
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