シンプルな温泉
おじいさんにおすすめの場所を聞いて、少し歩いてたどり着いたのはちょっと小さな建物。駅から南東あたりにある温泉で、とっても安く手軽に温泉を楽しめるらしい。だから人も少し多いのだとか。
『ここ駐車場がないからちょっと不便なんだよな』
『安いんだから文句言うなってやつですよ』
『さあさあリタちゃん! このまま入ろうぜ!』
「光球は空に向けておくから」
『えー!?』
『やはりだめでしたか』
『当然なんだよなあ』
カメラ代わりの光球は、空に向けて青空を映しておく。いい天気だよね。雲はちょっとあるけど、雨の心配はなさそう。
ここは入浴券を券売機で買わないといけないみたい。券売機は入り口の横に設置されていて、近くには休憩できる椅子もある。とりあえず買おう。んと……。三百円だね。安い、と思う。
子供はもっと安く入れるけど、私は子供じゃないからね。子供じゃないから。
入浴券を買って、建物の中へ。入ってすぐに受付があって、右側に女湯、左側に男湯への入り口があった。とりあえず入浴券を渡して中に入る。
「そういえば注意書きがあったよ。お湯が熱くなってる場合があるんだって」
『ばかな、声は聞こえてるだと!?』
『リタちゃん生活音も拾ってくれていいんだよ?』
『例えばお湯の流す音とか!』
『おいばか』
「私は別にいいけど……。真美に怒られる気がする」
『ですよねー』
『その直感は正しいと思います』
とりあえず私の声だけは拾うようにしておく。さすがに何もなしだとつまらないと思うから。
さっと服を脱いで、いざ温泉へ。周りの人が目をまん丸にしてるけど、私は気にしない。
中は……洗い場はない。軽く流して温泉に入ればいいらしい。浴槽は二つあって、少しだけ水温が低くなってる、らしい。
お湯は白く濁ってる。白濁湯だね。普通のお風呂だとあまり見ない。
「白いお湯だよ。気持ち良さそう」
『先生、見たいです』
『見せてください』
「だめです」
一般の人もいるからね。おとなしく青空でも眺めておいてほしい。
それじゃあ、まずは低い水温の方から。足先からゆっくりと入って、とぷんとつかる。
「おー……。きもちいい……」
『リタちゃんのとろける声が聞こえる!』
『ふんやりリタちゃん(妄想)』
『想像するだけなら問題ないはずだ!』
それは別に好きにすればいいと思うよ。
温度は、ちょうどいいぐらいだと思う。ぬくぬくだ。冬だったらゆっくり暖まるのにちょうどいいと思う。でも確か、時間に制限があった気がする。私はそんなに長く入らないから気にしてなかったけど。
のんびりと堪能して、次は熱いお湯の方へ。ゆっくり入ってみる。
「おー……。こっちは確かにちょっと熱いかも。私は平気だけど、みんなは気をつけないといけないと思う。長湯でのぼせるかもしれないから」
『注意助かる』
『結構熱めのお湯だったよね。夏とか気をつけないと』
そうだね。ちゃんと自分で考えて入らないと……。
「あ」
そんな声が聞こえて、私はその声の方に視線を向けた。
「あ」
そこにいたのは、駅で足湯を一緒にしたお姉さん。あのまま帰るんじゃなかったんだね。
「足湯のお姉さん」
「お、覚えられ方が独特すぎる……!」
『足湯のお姉さん!? いるのかそこに!』
『リタちゃん危険だ! そいつは生粋の変態だぞ!』
『すぱっとしなさい! すぱって!』
「だからやらないってば」
何度も言うけど、悪いことはされてないのに殺すなんてことはしないよ。人殺しが好きというわけでもないし。
「お姉さんも来てたんだね」
「う、うん……。ここは安く入れて便利だから……」
「そうなんだ」
「気持ちいいでしょ?」
「ん」
「よかった」
そう言って、お姉さんが薄く笑った。なんだろう、少し前会った時とちょっと雰囲気が違うような……。
「私もここがお気に入りでねー……。ふふ……」
「…………。もしかして、のぼせてる?」
「リタちゃんとのお風呂だもの我慢する!」
「我慢しなくていいからね。ほら、上がるよ」
私ももう満足してるから、お姉さんを連れて脱衣所に戻ろう。このまま見捨てると心配だから。
そうして脱衣所に向かって着替えてもらう。熱いお湯の部屋じゃないから、ここは結構涼しい。そしてお姉さんは我に返ったのか、ちょっと落ち込んでいた。
「ごめんね……せっかくのお風呂を邪魔して……」
「別にいいよ。満足してるから」
「ありがとう……」
「いえいえ」
最後にまた写真を撮影。今度はその場に居合わせた他の人とも。番頭さんも中から出てきて、一緒に写真を撮った。
そうして終わってから、光球を戻す。もう私も服を着てるから安心だ。
『リタちゃんの生着替えが見れなくて残念です』
『俺は! とても悔しい!』
「はいはい」
何がいいのか、私には分からないけどね。
いろいろ食べて、温泉も入って、満足。あとはそろそろ帰るだけ、だけど……。
「もう一箇所だけ、行きたいところがある」
『お、なになに?』
『せっかくなんだから見たいものは全部見よう!』
「ん」
それじゃあ……。色が変わる湖、というものを見に行こうかな。
壁|w・)温泉って……いいよね……。





