薬草の対価
「ちょっと手を握ってもいい?」
「どうぞ……?」
「ん」
ベッドの中の手を優しく握ってみる。私に病気を調べることなんてできないけど……。でも、別の方向で調べてみることはできるから。
んー……。
「俺は魔法について詳しくないが……。何か分かるのか?」
「魔力の流れがおかしい、かな……?」
なんて言えばいいのかな……。本来なら通っていかないといけないところに魔力が流れてなくて、逆にだめなところに魔力が流れてる。体の中で魔力が暴れてるみたいな、そんな感じ。
ただ……。これは、勝手になるようなものじゃない。必ず何かしらの要因がある、はず。変なものを食べたとか。…………。さすがにあの臭い伝統料理じゃないかな。あれが原因なら、私も何か感じていたはずだから。
でもとりあえず……。うん。確かに、精霊の森のあの薬草で治癒できると思う。あれは魔力の流れを整えてくれるはずだから。
「うん。精霊の森の薬草でいけるはず」
「そうか。あとはどうやって手に入れるか、だな……」
そうだね。それが一番難しいと思う。だから。
「ねえ、ルドガーさん」
「なん、だ……」
アイテムボックスからギルドカードを取り出す。普段使ってるCランクのカードじゃなくて、Sランクのカードを。それを見せると、ルドガーさんは目を見開いて固まってしまった。
『見せちゃうの!?』
『てっきり今回は隠し通していくのかと』
『もうシッショを探すクソ面倒なことはないだろうし』
『そこはかとなく俺への悪意を感じるな』
うん。本当ならのんびり見て回るのにSランクの肩書きは邪魔だと思っていたけど……。でも、信用してもらうのに一番手っ取り早いから。
「改めて。隠遁の魔女、です」
「隠遁の魔女……! 君が最新のSランクか!」
『隠遁と書いて引きこもりと読みます』
『なんでや! リタちゃん最近はお外に遊びに行ってるやろ!』
『つまり、二つ名を変えないといけないのでは!?』
『今度こそ暴食の魔女で』
絶対に言うと思ったよ。確かに私はわりといっぱい食べるけど、魔法使いとしてはそこまで異常でもないと思うから。師匠だっていっぱい食べてるし……。
『ちなみにリタ。俺とお前は間違いなく大食いだ。そこは自覚しろ』
『草』
『まさかのシッショの裏切りwww』
師匠はどっちの味方なの?
「急に落ち込んでどうしたんだ……?」
「なんでもない。それより、薬草は私の手持ちにある。譲ってもいい」
「な……!? そ、それは是非お願いしたい!」
「ただし、条件がある」
一応は貴重な薬草、だからね。せっかくだから、利用できるところは利用していきたい。というわけで。
「案内してほしい」
「案内?」
「ん。獣人の国、見て回りたい。案内してくれるなら、薬草を譲る」
ルドガーさんはとても怪訝そうにしていたけど……。その視線は、私が持つSランクのカードに向けられて。きっとこのカードで私を信用すると決めたんだと思う。頼む、と頭を下げてきた。
「ギルドに依頼を出したままだったよね? 薬草を納品するから、受け取って、煎じて飲ませてあげて。お肉と一緒にサラダみたいに食べてもいいよ」
「ずいぶんとお手軽だな。それでいいのか?」
「大丈夫」
もしだめなら、その時はその時でまた取りに行けばいいし。普通の人なら難しいけど、私は別に苦労するような場所じゃないからね。
「この場ではもらえないのか?」
「ルドガーさんが依頼を出してるのはみんな知ってるよね? 依頼を取り下げたのにこの子が完治していたら、変な噂が立つかもしれないから。悪いところと取引した、とか」
『悪い魔女とは取引するよね』
「誰が悪い魔女なの?」
「ど、どうした?」
「なんでもない」
ちょっと変なコメントを流してくるのはやめてほしい。ついつい反応してしまうから。
ルドガーさんも納得してくれたから、ギルドに移動。受付でそのまま薬草を渡して、ルドガーさんに受け取ってもらった。もちろんこの依頼の報酬はちゃんともらっておく。何か美味しいものを買いたい。
「それじゃあ、ルドガーさん。三日後ぐらいにお家に行くから、準備しておいてね」
「了解した。獣人国の王都には行くか?」
「行ってみたい」
「ならば旅の準備をしておこう。任せてくれ。薬草の料金分、しっかり働かせてもらうからな」
そう言って、ルドガーさんは挨拶もそこそこに走っていってしまった。きっとこれからすぐに薬草を飲ませてあげるんだと思う。これで一安心、だね。
「いいことをしたと思う」
『いいことをしたよ!』
『リタちゃんえらい!』
『依頼の報酬も突き返すと思ったけどw』
「あれは美味しいのに臭い料理を出されたいしゃ……いしゃりょう? です」
『慰謝料w』
『実はわりと怒ってる?w』
そんなことはない。そんなことはないけど、あの臭いを今でも思い出してしまうから。精霊の森にも臭い植物はあったけど、あそこまでじゃない。
「臭いという方向性では精霊の森を超えてきた」
『マジかよwww』
『世界は日々進化してるんだよ』
『進化で臭くならなくても……』
もはや退化だよと言いたい。いや、身を守るための進化なんだろうけど。それでも食べられちゃってるけど、進化って言えるのかな……?
まあ、別にいっか。とりあえず、ルドガーさんの故郷には行かないようにしよう。案内されそうになったら拒否する方向で。絶対に。
「ルドガーさんに案内してもらうのは三日後だから、一度森に帰るよ」
『つまり……明日から日本やな!?』
『安価! 安価!』
『次こそ来てもらうんだ……!』
まだ日本に行くとは言ってなかったけど……。まあ、いっか。日本に行こう。とりあえず、私は一度帰ろう。適当な路地裏で転移しようかな。
そう考えたところで、ちょっとだけ振り返る。誰かが私を見てるみたいだけど……。すぐにその視線は感じなくなった。
んー……。ちょっと気になるけど……。気にするほどでもない、かな? 何かしてきたらばくっとしよう。
そう決めて、私は転移するために人気のない裏路地に向かった。
壁|w・)次回からは日本です。





