病気の女の子
「これ、どこで手に入るか知ってる?」
「精霊の森だろう? 薬草を手に入れるついでに入手してもらえればありがたいのだが……」
あー……。そういう認識、なんだね。浅いところに生えてると思ってるのかも。
「ギルドに正式に依頼を出して。この国のギルドじゃなくて、精霊の森に詳しいギルドで。ランクの設定を明らかに間違えてるから」
「そうなのか?」
「ん。多分、Sランクの依頼になる」
「な……!?」
私がかつて受けた精霊の森に関わる依頼で、大きな魔力反応が確認されているから調査してほしい、というのがAランクだった。これの原因は私だったわけだけど。
そして生態調査がSランクだったね。ちゃんとそこに住まう魔獣の評価を伝えることができて満足した。大事な味についてもしっかり伝えたからね。
今回は、多分その中間になる……かな? 深部に行かないといけないから、Sランクだと思うけど。少なくともAランクは間違いない。
『懐かしいな、生態調査』
『魔獣の評価に味がついて回ってたやつなw』
『なにそれ知らない。どんなの?』
『魔獣の説明の後に、必ず最後に味の評価があったんだよ。わりとおいしい、とかまずい、とか』
『狂気を感じる……』
そこまで言う? どんな動物も植物も味は大事な評価ポイントだと思うけど。
ルドガーさんはかなり難しそうな顔になってる。うなってる、みたいな感じ。
「Aランク依頼ならともかく……。Sランクだと、厳しいな……。報酬が跳ね上がってしまう……」
「だろうね。でもルドガーさんもAランクだよね? お金はいっぱいあるんじゃないの?」
ランクが上がれば危険度も上がって、そして報酬も跳ね上がっていく。ルドガーさんも結構な額をもらってるはずだ。もちろん装備まわりでお金もそれだけかかるけど……。それを差し引いても、お金はたっぷりもらえるはず。
ルドガーさんはいや、と力なく首を振った。
「妹の治療費に……金を使っている。それでもまだAランク依頼ならどうにか支払うことができるが……。Sランクは、さすがに無理だ」
「ん……」
病気は妹さんなんだね。家族のために治療費を稼いでいる、と。すごいことだと思う。この人はとってもいい人だ。
でも。そもそもとして。本当にこの薬草が必要なの?
「ねえ、ルドガーさん。本当にこの薬草がいるの? これが必要になる病気ってよっぽどだと思うけど」
「ああ……。少なくとも獣人国の医者はほとんどが諦めた」
「ふうん……。見に行っても、いい?」
私は病気に詳しいわけじゃないけど、それでも何か分かることがあるかもしれない。そう思っての提案。でも、私が種族を偽っていたのは知っているわけだし、信用されなくて断られる可能性も……。
「ああ、構わない。妹も喜ぶ。原因不明の病で、近づく人はいなくなっているからな。同年代ぐらいの女の子なんてまず来なかった」
「そう」
『なんや周りの人避けてんのか。獣人は薄情者か?』
『原因不明の病気なら仕方ないだろ。感染症かもしれないわけだし』
『心配はしても、やっぱり自分やその周りの人の方が大切だよ』
そうだね。さすがに薄情とまでは思わないよ。
とりあえず私は会っていいみたいだから、そのままルドガーさんのお家に移動することにした。この街にお家があるらしい。依頼で離れる時は両親が面倒を見ているのだとか。
ルドガーさんと一緒にギルドを出て、お家に向かう。ギルドからわりと近くて、歩いて五分もせずについた。
「ここだ」
案内されたのは、石造りの二階建ての建物、だけど……。
「みんな避けてる」
「ああ……」
明らかにルドガーさんのお家を周りの人は避けていた。聞けば、隣の家の住人もみんな引っ越してしまったのだとか。売り家も買い手がつかなくて、ルドガーさんたちが文句を言われてるらしい。
さすがにそれはかわいそうだと思う。何もやってないのにね。
『気持ちはわからんでもないけど、なんだかなあ』
『所詮画面ごしの俺らには何も言う資格はないさ』
『はがゆい』
なんだかんだと視聴者さんも優しいよね。変な人のコメントは精霊様の魔法で削除されてるだけかもしれないけど。
お家に入ると、ちょっと初老の女の人がいた。ルドガーさんのお母さんらしい。キッチンで料理を作ってる。
「あら。おかえり、ルドガー。早かったわね」
「ああ。ルミナは二階か?」
「ええ。その子は?」
「客人だ」
うん……。えっと。それだけなの? さすがに私でも言葉が少なすぎると思うけど。相手も苦笑いしてるし。
「そう。ゆっくりしていってね」
「ん」
そのまま横の階段を上がって、二階へ。二階は二部屋あって、そのうちの一部屋が妹さん……ルミナさんかな? その人の部屋だった。
ルドガーさんがノックをしてドアを開ける。返事も待たずに。ちょっと不思議に思っていたら、ルドガーさんが教えてくれた。
「大きな声を出せないんだ」
「ん……」
『マジかよ』
『結構ほんまに重症なのでは?』
『先生、もしかしなくてもグロかったりしますか!?』
どうだろう。分からないから、心配な人は見るのを避けておいてほしい。
部屋は、とてもシンプル。テーブルに、ベッドがあるだけ。ベッドに女の子が寝かされていて、かわいい人形が置かれてあった。
「ルミナ、戻ったぞ」
「あ……。おにいちゃん……」
「…………」
すごく、かすれた声。薄く目を開けたその子は、とても辛そうに見えた。
ルドガーさんと同じ、虎っぽい獣人さんだね。こんなことがなかったら、かわいいと言っちゃうかもしれない。さすがに今は言わないけど。
「今日は知人を連れてきた」
「ん。どうも。リタ、です」
女の子は私を見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「わあ……。女の子だ……。ルミナ、です……。よろしくね……?」
「ん……」
本当に、話すのも辛そうだね。





