くちゃい
ルドガーさんは先に話をしたいみたいだったけど、私はご飯が食べたい。ということで。
「すまない、厨房を使わせてくれ……」
「え、え、え?」
ギルド併設の酒場にお邪魔しました。
ここのギルドは二階建て。一階は受付とかになっていて、二階は事務室みたいになってる、らしい。隣の酒場とくっついていて、冒険者のために朝早くから夜遅くまで営業しているのだとか。
そんな酒場だけど、夜以外はそこまで人が多いわけじゃない。厨房も広いから、お昼過ぎぐらいなら一部使わせてもらえるんだって。
だからこの酒場に来たわけだけど、ルドガーさんが使わせてほしいと頼むとかなり驚かれていた。
「る、ルドガー様? 食事なら作りますよ?」
「いや、俺の里の伝統料理を作りたいのだ」
「はあ……。そういうことでしたら……」
そんな感じで厨房に入れてもらえた。でもちょっと嫌そうに見えたのはどうしてだろう?
「見るのか? 待っていてもいいぞ?」
「ん」
「そうか」
『異世界の伝統料理、楽しみやな!』
『リタちゃん感想よろしくな!』
適当な感想でいいのなら。
ルドガーさんが背嚢から取り出したのは、とっても大きな葉っぱ。大人一人分ぐらいの大きさがある葉っぱだ。よくこんなものが入っていたなと思う。背嚢に魔法がかけられてるのかな。
その葉っぱだけど、とっても臭い。すごく臭い。これ、周りに絶対に迷惑だよ。結界で私たちの周りを囲っておこう。
「くちゃい」
『くちゃいw』
『かわいいw』
『リタちゃんが顔をしかめるってよっぽどでは?』
なんだかすごい葉っぱもあったものだね。
「臭いか? 悪いな、俺はこれに慣れているからあまり分からないんだ」
「人として大事なものを捨ててる気がする」
「そこまで言う?」
『リタちゃんwww』
『失礼なこと言うなw』
『逆にどれだけ臭いのか気になってきたぞw』
そんな臭い葉っぱに載せたのは、大きなお肉。ルドガーさんが言うには、獣人の国でよく食べられるお肉らしい。弾力があるお肉で、これが普通だと思っていたから外の国では驚いたとのこと。
「串焼き肉のお肉?」
「ああ、おそらくそうだな。この辺りでは一番安価に手に入る」
「ほうほう」
じゃあお土産に買って帰るのもいいかも。
そんなお肉の塊にナイフで切り込みを入れていく。その切り込みに、今度は何か塗り始めた。小さな瓶から取り出したもので、茶色のたれみたい。ただし。
「くちゃい」
『またかw』
『拷問用の食べ物かな?』
『本当にそれを疑うものになっているのではw』
こんなに臭くして美味しくなるのかな?
塗り終わったら、たくさんの野菜をお肉の周りに置いていって、大きな葉っぱでお肉とまとめて包み込む。そうしてから、魔道具で燃やし始めた。
ただ燃やすといっても、本当に燃えてない。普通の食べ物なら燃えてそうなものなのに、葉っぱは無事だ。すごい。
「これは耐火性があってな。そうそう燃えることはない。灼炎の魔女なら燃やせるらしいが、実際に燃えているところを俺は見たことがないな」
「おー」
「燃えないが熱は伝わる。こうして火を当てていれば、中の肉や野菜が熱されて、この草の風味が肉を美味しくする、というわけだ」
「お、おお……」
『リタちゃんがちょっと引いちゃってる、だと!?』
『さっきから臭い臭い言いまくってたからな』
『その匂いがお肉にこびりつくと』
『地獄かな?』
どうしよう。伝統料理と聞いてわくわくしていたけど、ちょっと美味しそうに思えなくなってきた。私は失敗してしまったかもしれない。
一時間ほどじっくり焼いて、完成。大きなお皿に葉っぱごと移して、外の客席に持っていく。
何人か冒険者がいたんだけど……。
「お、おい。あれ、ルドガーのとこの料理じゃ……!」
「お、お代は置いていくから! 釣りはいらねえ!」
みんな逃げていく。どうしよう。不安になってきた。こんなに不安になったことはあまりないかもしれない。
「逃げていい?」
『だめです』
『お前が始めた物語だろ!』
『始めたのは相手側なんだよなあ』
『せめてちゃんとした説明をしろよって話だよね!』
本当にそう。こんなに臭い料理だとは思わなかった。あまり臭いと周りに迷惑だと思って結界で覆ってるから、今は臭いは漏れてないけど……。それでも他の人が逃げちゃった。酒場の人もずっと顔を引きつらせてるし。よっぽどじゃないかなこれ。
「ああ、久しぶりに作った……。どうしてかみんな、嫌がるからな。この美味しさが分からないとは、嘆かわしい」
「そ、そう、だね……?」
『料理を前にしてここまで及び腰なリタちゃんは初めてではなかろうか』
『サルミアッキですら躊躇なく口に入れたリタちゃんが!』
『マジで逆に気になってきたw』
んー……。
「肉が腐り落ちた臭いを百倍ぐらいにした感じ」
『まって』
『予想以上にやばい例えがきて愕然としてる』
『こわい』
本当に……とんでもない植物があったものだと思う。
壁|w・)厨房の人はこの後の掃除に絶望していることでしょう……。





