獣人族の門番さん
世界樹のある大陸は、この星では一番大きな大陸になる。けれど当然、他にも島や大陸があるわけで……。獣人の国も、そんな島国の一つだった。
島一つがそのまま獣人族の国になっていて、港がたくさんあるみたい。島の大きさは……日本で言うところの北海道ぐらい、かな?
でも島全部が整備されてるわけじゃなくて、村や町が点在してるみたい。獣人族の中でも種族がいくつかあって、それぞれで集落があったりするらしいよ。
港から入ってもいいんだけど、今回は船じゃないから近くの街の外に下りることにする。そのための獣化の魔法だしね。
というわけで。
「ここが獣人族の街」
わりと大きな街にたどり着いた。大きな門に城壁に……。正直、見た目は人族の街と大差ないと思う。
『おー!』
『ここが獣人族の街か!』
『いかにもな感じが……しませんね!』
『本当に獣人族の街か?』
そう聞かれると、ちょっと不安になってしまうけど……。師匠がそう言ってたから、間違いないはずだ。
『シッショへのあつい信頼を感じられるな』
『これで間違ってたらシッショの評価だだ下がりだな』
『シッショが嫌いになったら俺のお家においで!』
知らない人の家に行くつもりはないし、そもそも間違っていても嫌いになんてなったりしないよ。師匠だって人間なんだから、間違えること、忘れることはあるだろうから。
それよりも。早速街に入りたいと思う。きっと住んでいる人は違うはずだから。
てくてく歩いて門へと向かうと、門番の兵士さんが二人立っていた。兵士さんは……犬っぽい人と猫っぽい人だ。犬っぽい人は、もふもふの犬が二足歩行しているような感じだね。
兵士さんたちは私を見ると、驚いたように目を瞠った。
「君は……一人で来たのか?」
「ん」
「なんと……。親は……大人はどうした?」
「捨てられたから」
「なんてやつだ……!」
「仕返ししておいた」
「あ、そう……」
『草』
『コントかな?w』
『猫兵士さんが義憤にかられたっぽいのに、一瞬ですんっとなるの草なんだ』
もしかしたら、兵士さんたちはついさっき私が捨てられたと思ったのかも? 私が捨てられたのは生後まもなくだからもうずっと前だよ。
「今は一人で旅をしてる」
「まだ小さいのに……。仕事を探しているのかな?」
「冒険者」
「になりたいのか!」
「なってる」
「なってるのか……」
『なんだこれw』
『リタちゃん、兵士さんで遊んでない?』
『かわいそうだよ!』
いや、そんなつもりはないよ。うん。本当に。
街に入るためには身分証が必要らしくて、ギルドカードを渡しておいた。ギルドはほとんどの国にあるらしいから、きっと大丈夫のはず。
犬兵士さんはギルドカードを受け取って、頷いてすぐに返してくれた。
「ありがとう。これが地図だ。無料だから持っていってくれて構わないよ」
「ん」
地図を受け取る。んー……。ざっくりとした地図だね。だいたい街のどのあたりにどんな施設があるか、ぐらいしか分からない。色も黒色しかないし……。あと、手書きだ。大変そう。
こうして思うと、日本で見る地図はちょっとおかしいと思う。カラーで距離の縮尺もかなり正確だし、本当にすごい。つまり。
「日本人は頭がおかしい」
『なんで罵倒されたの!?』
『いや、多分悪い意味じゃない……はず』
『地図を見てからの反応だから、日本の地図がおかしいってことでしょ』
『それはまあ理解できるw』
便利なのはいいこと、だけどね。
あと……。ちょっと気になるところがある。たとえば、そう。犬兵士さんの、耳とか。ふさふさしていて、かわいい。
「じー……」
「ど、どうしたのかな?」
「耳……かわいい」
「君にもかわいい耳があるだろう?」
「触ってみたい」
「ええ……。いや、構わないけどね……」
「人の耳を触ることがなかったから」
「うっ……。いくらでも触りなさい……」
どうしてか急にしんみりとした顔になった。不思議だね。
『いや、あの……。どうしてそんな誤解を招く言い方になってしまうんですか……』
『親に捨てられて蠱毒で生きてきたから、触れないんだろうなって思ったんだろうなあ』
『孤独だろって言いたいけど蠱毒でもある意味間違いない気がするw』
私は微妙に失礼なことを言われたような気がするよ。
屈んでくれた犬兵士さんの耳を触ってみる。おお……。犬の耳だ。ちょっとだけ違う気もするけど、犬の耳だね。ふわふわしていて、わりと気持ちいい。
猫兵士さんの耳を触らせてもらう。これも猫の耳で、うん。とてもいい。
「ありがとう」
「ははは……。いや、いいさ。ただ、あまり街の中では言わないようにね」
「どうして?」
「種族によっては、結婚するほど仲が良い相手でないと触らせないからさ」
「ん……。気をつける」
結婚、というのは正直そこまでよく分からないけど、避けた方がいいという程度で覚えておこう。
それじゃあ、獣人の街だ。ちょっと期待しながら、私は街の中に入っていった。
壁|w・)もふもふ。





