帰宅
「ずるい」
精霊の森で待っていたのは精霊様と……シルフ様。シルフ様が見ているのは、アルティが持っている買い物袋だ。遊園地のロゴマークがプリントされた大きな袋で、お菓子がいっぱいに入ってる。
シルフ様、お菓子食べたいのかな?
「シルフ様も食べる? チョコレートもあるよ」
「食べる」
シルフ様にマスコットキャラクターを模したチョコを渡すと、嬉しそうに食べ始めた。私も食べる。もぐもぐ。
「晩ご飯を食べた後にお菓子を食べるのはだめだぞ」
「どうして?」
「…………。少しだけにするように」
「ん」
『一瞬で負けてんじゃねえよw』
『でもまあ確かに、どうしてダメなのかって聞かれて理由を答えられる人ってわりと少ないのでは?』
『お菓子を食べるぐらいなら晩ご飯をちゃんと食べなさい!』
『際限なく食べる魔女に対してなんですがそれは』
真美のカレーライスももちろんいっぱい食べたけど、お菓子も食べたい。チョコは甘くて美味しいから。
そんな私たちを見て、精霊様が小さくため息をついた。
「さて……。アルティ」
「は、はい!」
「そのお菓子や袋は……。まあ、良しとしましょう。取り上げたらリタが年単位で口をきいてくれなくなる気がしますから……」
『精霊様の立場よわよわすぎでは?』
『リタちゃんがそんなに悪いことはしないっていうのがあるからそう見えるだけだと思う』
『精霊様も本当にダメならちゃんと言う、はず?』
そうだね。本当にだめなことなら精霊様もちゃんと言ってくれるよ。私もそれぐらいで無視するようなことはしないから。
「ただ、他のエルフには見られないようにしてください。誰かに渡したりもしないように」
「もちろんです。絶対にあげません。これは、私のです」
ぎゅっと袋を抱きしめてアルティが言う。
「誰かにあげたら、私があまり食べられなくなっちゃいます」
「エルフの森のご飯はまずいわけじゃないけど、物足りないからね」
量じゃなくて味という意味で。良くも悪くも素材の味だから。工夫を凝らした日本のお菓子に比べると、ちょっと物足りなく感じるのは当然だと思う。
お菓子なら日持ちもするだろうし、たまに食べて気分転換とかに使うんじゃないかな。少なくなってきたら持っていってあげてもいいから、たくさん食べてほしい。
「いいなあ。ボクも日本ってところに遊びに行ってみたいよ」
「だめですよ、シルフ」
「分かっています……」
残念そうだけど、シルフ様は忙しい精霊だからね。いなくなっちゃったら、ちょっと大変なことになると思う。ある程度は他の大精霊がカバーできるはずだけど、負担は大きいらしいから。
「それじゃあ、帰ろうか、アルティ。ボクが送ってあげるよ」
「あ、はい! お願いします、シルフ様!」
「うん」
アルティに手を振って、転移で帰っていく二人を見送る。そうして、私と師匠、精霊様が残された。
それじゃあ……。お菓子を食べよう。
「なあ、精霊様。リタがおもむろにお菓子を取り出したんだけど。しかも大量に」
「美味しそうですねえ」
「止めようとすらしないのか……」
『あきらめろシッショ』
『美味しく食べたらいいんじゃないかな!』
『お菓子パーティだ!』
そう。美味しく食べたらいいと思う。
とりあえず、遊園地のマスコットが描かれたクッキー。かわいいイラストの箱を開けてみたら、個包装されたクッキーがたくさん入っていた。普通のクッキーだろうけど、見た目がちょっと楽しいね。
「不思議な見た目の生物ですね」
「マスコット、だって。本当にいるわけじゃない。これ、ぬいぐるみ。精霊様にもあげる」
「ああ、ありがとうございます」
クッキーを食べる。思っていたよりも美味しいクッキーだった。さくさくほろほろ、と言えばいいのかな? 食感がとっても軽くて食べやすい。ほんのりバターの味がする。
「師匠は」
「もらうよ」
師匠も食べる。何も言わなかったけど、何度か頷いていたから美味しかったんだと思う。
精霊様も同じようにクッキーを食べながら、ぬいぐるみを世界樹の枝に飾っていた。
「こうして……世界樹の実ができていってるんだな……」
『ぬいぐるみを世界樹の実と言うなw』
『有名ゲームだと世界樹の葉っぱで人が生き返ったりするけど、この世界だとぬいぐるみで人が生き返るのかな』
『ぬいぐるみに魂が宿って動き出す、とかだったりして』
『ホラーじゃねえか!』
それはそれで楽しそうだと思うけど、さすがにないよ。あと、世界樹の葉っぱにそんな効能もない。他の植物よりはたくさんの魔力が含まれてるけど、それだけだ。
「それだけって言っていいのか……?」
「ん?」
「少なくとも一般人が食べたりしたら、魔力中毒みたいなのが起こって即死するけど」
『薬どころか毒じゃん!』
『必死になって世界樹にたどり着いても、もしかして何もなかったりする?』
「んー……。何もない、かな……?」
薬草とか香草とか、精霊の森でしか採れないものはたくさんあるらしいけど……。わざわざ世界樹に来ても、何も意味がない。精霊様も、見知らぬ人のために姿を現したりはしないだろうし。
『宝物をもらえるとか!』
『伝説の剣をもらえるとか!』
『禁呪みたいな魔法を教えてもらえるとか!』
「お前らはゲームのやりすぎだな」
師匠が笑いながらそう言う。私もそう思う。そんな特別なことなんてないから。
もぐもぐクッキーを食べながら、精霊様に遊園地のことを話す。いろんなアトラクションに、精霊様も興味を持っていた。
「地球の人は……いろいろなことに全力ですね。遊ぶためだけの施設なんて考えられません」
「ん。だからご飯も美味しいんだと思う」
「なんの関係が……?」
『リタちゃんwww』
『心のゆとりがあるってことですよ。多分だけど』
きっとそう。この世界の人たちも、もっと食べ物を美味しくしてほしいと思う。
そうして、のんびりとお菓子を食べながら、三人でおしゃべりをした。
遊園地、とっても楽しかった。次も楽しみ、だね。
壁|w・)サブタイトルが……思い浮かばなかった……。
遊園地編はこれで終わりです。
次回からは、異世界側。





