お化け屋敷
お昼ご飯を食べてすぐに激しい動きのあるものは避けるべき、みたいなことを言われたから、あまり動かないものに行くことになった。つまり。
「お化け屋敷」
「おばけ?」
「お化け」
怖い施設、らしい。ただ危ないことはないらしいから安心だ。
『お化け屋敷はね、幽霊とかが出てくるんだよ!』
『暗がりから急にわっと、とかな』
『雰囲気からして怖いから』
『俺、ここのお化け屋敷怖すぎて無理』
「ふむふむ……。えっと、幽霊とかが出てきて、怖がらせてくる、みたいな感じらしい」
「幽霊? ゴーストってこと? 倒せばいいの?」
んー……。でも、日本がそんな危険なことをさせるとは思わないから……。違う、はず。多分。
『くっそ異世界との常識の違いが!』
『なに? あっち側にはゴーストみたいな魔物でもいるの?』
『幽霊は存在しているだけで怖いんだよ! 触れられないし!』
ああ、なるほど。つまり。
「ゴーストが出ても攻撃しちゃだめ」
「だめなの!? そっか、それは確かに、怖いね……。一方的に襲われるだけなんて……」
「ん」
『待って違うそうじゃない』
『つまり反撃できるなら何も怖くない、てこと!?』
『リタちゃんマジで攻撃しちゃだめだからな? ほんとだめだからな? 中の人、普通に日本人だからな?』
『おいシッショ! テメエも笑ってないでなんとか言え!』
振り返ると、師匠がお腹を抱えてうずくまっていた。お腹痛いのかな? おトイレ行く?
そんなことを話していたら、私たちの順番になった。何故か案内してくれる係の人の顔が引きつってるけど、どうしたのかな。
「あ、あの……。絶対に、攻撃とか、魔法とか、だめですよ?」
「ん。大丈夫」
「わかりました!」
「ほ、本当に分かってる……? えっと……。はい、どうぞ。…………。骨は拾うよ、みんな……」
『ぼそっと最後につぶやくなw』
『諦めるなよwww』
それじゃあ、出発だ。ちなみに師匠も一緒で、後ろからついてきてる。基本的には何もしないらしいけど。
てくてく歩いて建物の中へ。建物は洋館みたいな感じだけど、なんだか暗い雰囲気だ。中も、廃墟をイメージしてるみたい。
とりあえず暗いから魔法で明るくしよう。ん、これでよし。
「やめなさい」
「いたい」
師匠にチョップされてしまった。理不尽だ。
『魔法禁止って言ってるでしょうが!』
『お化け屋敷が明るくなったら怖くなくなるでしょうが!』
『一切の魔法禁止です!』
「むう……」
魔法を使ったらだめだなんて、ずるいと思う。だって、暗いと危ないよ。足下とか……。まあ、いいけど。ちゃんと配慮してくれてるって信じるから。
でもやっぱり暗いのは危ないから、せめて暗視の魔法を使おう。アルティにも使ってあげるね。これでよし。
「ありがとう、リタ」
「ん」
「…………。もう、何も言うまい」
『おい何があったシッショ!?』
『お前何を諦めたんだ!?』
大丈夫。問題ないよ。
てくてく歩いて建物の中へ。暗視の魔法のおかげでちゃんと中を見通せるから安心だ。暗がりに潜んでいる人もちゃんと分かる。そして勢いよく出てきたのも。
「…………」
「…………」
『お化けさんが黙って戻っちゃった……』
『一切驚かれずに無反応とか』
『ちょっとは驚いてあげて?』
いや、だって、見えるから……。何も驚くことがない。とりあえず進んでいこう。
『いや、あの、普通に歩くスピードなんですが』
『お化け屋敷って、もっとこう、こわごわ進むものなんですが……』
『これはあれや! 急に驚かせるやつに期待や!』
『言うなバカ!』
驚かせるやつがあるんだね。どんなのだろう?
ドアがあった、開けてみると、死角から急に人形が出てきた。すごくぼろぼろの、死体を模したみたいな人形だ。
「わ……!」
アルティがちょっと驚いたけど、少しして、
「り、リタ! これ人形だよ! すごい! リアル! すごい!」
「ん。とてもすごい」
「すごい!」
「驚く意味合いが違う」
師匠が何か言ってるけど、気にしない。
『俺分かっちゃった。驚かせることはできても怖がらせるのは無理だこれ』
『多分幽霊に対する捉え方が根本的に違うやつ』
『幽霊出てきたら攻撃しようとか思ってそうだから……』
もしかして、魂のこととか言ってるのかな? よほど執着がないと魂は縛られないし、縛られてる魂があったらちゃんと精霊様に報告しないと。地球にも担当の精霊がいるんじゃないかな。
そうしてちょっとだけ驚きながらも歩き続けて、お化け屋敷の外に出た。
「人形がリアルでびっくりした!」
「ん」
「だめだこれ」
『だめですねこれは』
『お化け屋敷は異世界人には通じない、と』
『多分この子たちが違うだけだと思う。思いたい』
次はちょっと激しい動きのあるものでも大丈夫かな? ジェットコースター、行こう。
壁|w・)幽霊に対する捉え方が違う……!





