ちょっと昔の日常
壁|w・)ここから第39話のイメージ。
これは、ちょっぴり昔の話です。
「んー……」
夜中に目を覚ましたリタは、もぞもぞとベッドから出てきました。隣で眠るししょーはぐっすり眠っています。ししょーを起こさずにベッドを出る技術はなかなか磨かれてきています。えっへん。なお後でししょーには怒られます。
ちっちゃなリタはてくてく歩いて、部屋を出ました。魔法でコップに水を入れて、くぴりと一口。そうしてから、家を出ました。
森はまだ夜です。虫の鳴き声が心地良く聞こえてきます。リタはそんな森が大好きなので、散歩することにしました。
そうして、お庭を出るところで。
「お出かけするの?」
ふわりと、緑で小さな人が目の前に現れました。
「しるふさま。こんばんは」
「うん。こんばんは。それで? どこに行くの?」
「おさんぽ」
「そっか。ボクも一緒でいいかな?」
「ん」
というわけで。シルフ様が一緒に行くことになりました。
二人でのんびり森を歩きます。もちろんここは精霊の森でもかなりの奥地です。危険な魔獣も多くいるのですが、襲われるようなことはありません。
シルフ様は精霊の中でもかなり上位の存在です。そんな精霊が濃密な魔力を垂れ流しにしているので、森の奥地で生息できるような魔獣はシルフ様を恐れて手を出してきません。死ぬ運命しかないので。
「リタ。あんまり夜中に一人で出かけたらだめだよ?」
「ん。でも、だれかきてくれるから」
「まあボクたちはリタのことを気に入ってるからね」
幼い故の無知からか、それとも知っていてやったのか。リタは力ある精霊たちに名前をつけてしまいました。そんな経験がなかった精霊たちは、とても新鮮な気持ちで……。悪い気持ちもなくて。リタをすっかり気に入ってしまいました。
なので。みんながリタにべったりです。こうしてシルフ様が特に理由もなく遊びに来ているように。
なおこの頃のシルフはまだ知りませんが、構い過ぎだと世界樹の精霊様に怒られる未来がもうすぐ待っています。
けれど、それは未来の話。今はまだ精霊たちはリタによく構っていた時期でした。
てくてく歩いて、たどり着いたのはリタの秘密基地。お家から一番近くの秘密基地で、リタが魔法で作ったテーブルや椅子があります。
部屋の隅っこには、やっぱり魔法で作られた小さな本棚。ここの本棚には、ししょーが書いてくれた本が仕舞われています。
ししょーが、記憶を頼りに思い出しながら書いてくれたお話です。なんでも、ずっと昔にいた場所ではやっていた物語なんだとか。うろ覚えだからちょっと微妙かもしれない、なんてししょーは言っていましたが、どれもリタの宝物です。
そんな本棚から本を一冊取り出して、椅子にちょこんと座って読み始めます。シルフ様はふわふわと秘密基地を漂います。
「お散歩は終わりかな?」
「んー……」
「あはは。気が移ろいやすいね。子供らしくてとてもいい」
シルフ様が頭を撫でてきます。それがちょっぴり心地良くて、リタはちょっとお気に入りです。
そうして、眠たくなるまで本を読んで、リタはお家に戻りました。お家の前でシルフ様に手を振って別れます。お昼には遊ぶ約束をしました。その時に改めて森の中を散歩しようと思います。
てくてく歩いてししょーのお部屋へ。ししょーは変わりなく眠っています。
リタはそんなししょーのベッドにもぞもぞと潜り込みました。ししょーの温もりを感じて、安心できます。手放したくない、大切なものです。
「で、言い訳は?」
そんな声に顔を上げたら、ししょーがじっとリタを見ていました。普通にばれていました。
「めがさめたから、おさんぽ」
「まったく……。ホットミルクでも作ってやろうか?」
「んーん。ほんをよんで、ねむくなった」
「そうか。ならいいんだけどな」
ししょーはそう言ってリタを撫でてくれます。とっても大好きなその撫で方に、リタはほんのりと笑って、ししょーに体をくっつけました。
リタが五歳の頃の日常でした。
・・・・・
「そんな子供だった」
もぐもぐと、エルフの森の湖で、お菓子を食べながら語ってみた。隣で聞いてくれていたアルティは目をぱちくりとさせてる。
「リタって……そんな小さい頃から魔法を使ってたの?」
「ん。歩けるようになってからすぐに教わり始めたから」
「そ、そうなんだ……」
なぜかアルティに引かれてしまった気がする。そんなに変なことかな?
側で聞いていたシルフ様も苦笑いしているから、この辺りの感覚は私がおかしいのかもしれない。
「さすがにボクたちもおかしいとは思ったんだけどね。人族の土地にいる精霊に聞いても、なにそれ、みたいな反応されたし。まあ、リタが特殊なだけだよ」
「そ、そうなんですね……」
そうらしい。私としてはそこまで特殊だとは思ってなかったけど。
そんな話をしている間に、そろそろ時間だ。精霊様にはちゃんと許可をもらったから、今日はアルティとお出かけ。楽しみ、だね。
「それじゃあ、行こう」
「うん! よろしくね、リタ」
「ん」
シルフ様に手を振ってから、私はアルティの手を取って転移した。
壁|w・)軽くリタの幼少期から。
アルティを連れてお出かけ、です。





