竜丼
電車から降りて……。さて、何をしよう。
「駅弁でも買おうかな」
『まだ食べるの!?』
『リタちゃん、もう電車は終わったでしょ!』
『どこで駅弁食べるつもりなの?』
計画なんてない。今回は夜行列車に乗ることが目的だったから、本当にやることがない。ただそれだけ。
「師匠。駅弁で何か食べたいものある?」
『お肉ど真ん中。一度食べてみたかった。あとバナナのお菓子も買ってきてくれ』
『遠慮なく注文する保護者よ』
『お前娘みたいな子にたかって恥ずかしくないの?』
『やめてくれ。その言葉は俺にきく』
『草』
別に気にしなくてもいいと思う。師匠はあまり地球に行かないから仕方ないだけだし、師匠もお金はちゃんと持ってるし。
とりあえず駅弁のお店に行って、お弁当を手に取って……。
「んー……。どれにしよう」
『また駅弁で悩んでる』
『これは……また安価やな!?』
『安価でポテチを当てたい』
『嫌がらせかw』
さすがにもう安価はしないよ。昨日はお寿司を食べたから、今日はお肉を食べたいと思ってる。私も師匠と同じものに……。
『そんなリタに朗報だ』
「ん? なに、師匠」
『白飯だけ買ってこい。昨日、ワイバーン狩ったからな。肉ならある』
「ワイバーン!」
美味しいお肉だ! じゃあ、白ご飯のレトルトだけいっぱい買って帰ろう。
『ワイバーン丼をするつもりか!』
『なんか語呂が悪い。やり直し』
『竜丼?』
『牛丼の亜種かな?』
師匠希望のお弁当を買って、駅を出てコンビニへ。レトルトご飯をいっぱい買って、森に戻った。
精霊の森の、お家の前。首のないワイバーンがあった。
『ぎゃー!』
『すぷらっただ―!』
『シッショてめえ!』
「悪い悪い。わざとだ。許せ」
『悪びれもしねえw』
師匠はワイバーンの横で笑ってる。あまりからかうと怒られるよ?
師匠が解体の魔法を使って、さっとお肉の山にする。私はご飯を温めておこう。お家にある木製の丼にたっぷりご飯を入れる。ほかほかご飯だ。レトルトのご飯でも美味しそう。
「リタ。俺の弁当も温めておいてくれ」
「ん」
頼まれたから温めておく。魔法でさくっと。
ワイバーンのお肉も焼けたみたいで、師匠が持ってきてくれた。持って、というか浮かしてだけど。
「ほら、リタ」
「ん!」
ご飯たっぷりの丼を差し出すと、ワイバーンのお肉をたっぷりと入れてくれた。お肉で山になってる。うっすらと赤みが残るお肉がとっても美味しそう。てかてかだ。
『なんか、リタちゃんが焼いた時より美味しそうに見えるのは気のせい?』
『多分気のせいじゃない。おそらく火加減とかはシッショの方がうまい』
だからいつも言ってるのに。師匠は私よりすごいって。
「お代わりもいいぞー。ご飯はたっぷりあるか?」
「ん。レトルトご飯買い占めてきた」
「お前それは逆に迷惑になりかねないからな……?」
「そうなの?」
『どうだろう?』
『買いたいと思った人が買えないのは事実』
『都心なんだし、それなら別のコンビニに行くだろ』
そうだと思う。だから私は悪くない。
それじゃあ、竜丼。いただきます。
お箸でお肉とご飯をたっぷりつかんで、ぱくりと食べる。濃厚なお肉の味が口に広がって、とっても美味しい。相変わらず不思議なぐらい、お肉の味が強い。
カレーに入れたら美味しそう、なんて思うけど、すでに失敗してるから諦めないと。
でも、牛丼のたれとかはどうだろう? アイテムボックスから買い置きを取り出して、ちょっとかけてみる。どうかな?
「ちょっとは変わるけど、お肉の味の方が強い……」
『マジで意味不明な肉すぎる』
『でも美味しいんだよな?』
『マジで食べたいなあ……!』
さすがに流通はさせないよ。問題とかいっぱい出る気がする。
竜丼を三杯ぐらい食べて、満足。残りのワイバーンはまた今度、だって。
「師匠、お弁当どうだった?」
「うまかった。ワイバーンとはまた違ったおいしさがあるよな。ワイバーンは肉の味そのままだから、たまにちょっと飽きる」
「えー」
「逆になんで飽きないんだよ……」
飽きるなんてよく分からない。美味しいものはいつどれぐらい食べても美味しいもの。
あとは、おみやげ。師匠と精霊様、みんなで食べよう。
「夜行列車、楽しかったか?」
「ん。似たようなものがあればまた乗りたい」
「似たようなもの……。フェリーとか、かな。夜行バスもあるけど」
「おー」
『夜行バスはあんまり勧められないけどなあ』
『フェリーは楽しそうだよね!』
うん。やっぱり、また何か乗ってみたいね。とても楽しみ。
「明日からはどうする? また日本に行くのか?」
「んー……。師匠」
「うん」
「魔法学園に行こう」
「え」
そろそろ師匠も挨拶に行くべきだと思う。いつまでも逃げちゃだめだよ? ね?
表情を引きつらせる師匠を横目に、私はお土産を開封した。どら焼き美味しい。
壁|w・)夜行列車編、終わりなのです。
次回からは異世界側。懐かしの魔法学園へ。
(作中ではそこまで時間経ってないですけどね)