夜行列車の夜
自分の部屋に入って、椅子に座る。とりあえず、お菓子。
『まだ食べるのかw』
『もう夜も遅いのにw』
遅いといっても、日本では日付が変わってない。大丈夫大丈夫。あまり寝なくても私は問題ないし、せっかくだからもうちょっと景色を眺めたいと思う。
今日はもう特にやることもない。窓からの景色ももうほとんど真っ暗だ。でも流れていく町並みを見るのは、なかなか悪くないと思う。
「もぐもぐ……のんびりした時間も楽しい……もぐもぐ……」
『うっぷ……』
『リタちゃんが食べ始めてから同じように何かを食べるチャレンジしてみた。死にそう』
『二時間近く食べ続けてるぞw』
もぐもぐ……。ああ、もう日付が変わってるね。そろそろ通り過ぎる駅も真っ暗になってくる頃、かもしれない。
「いっぱいお菓子を食べられて満足」
『満足(クッキーの袋を破きながら)』
『満足だって言いながら開封するんじゃありません!』
『どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!』
『説明しろシッショ!』
『別に太らないし、魔力に変換してるだけだから問題ないだろ』
『これだから魔法使いは!』
魔法使いの特権だね。森にいる時も、ワイバーンを食べる時はいっぱい食べたし。美味しいお肉をいっぱい食べられて幸せだった。また食べたい。
でもせっかくなら、真美のカレーライスをいっぱい食べたい。真美に頼んでみようかな。でも、やっぱりちょっと疲れるかな。
「むむ……」
『リタちゃんが悩んでおられる』
『多分真美ちゃんのカレーライスをお腹いっぱい食べたいとか考えてるぞ』
『お腹いっぱい(無限)』
『が、がんばって作るよ……!』
無理はしなくていいよ。いっぱい食べられたら幸せなだけだから。
そういえば、ちょっと前から駅に停車する前の放送もなくなってる。寝る人のために朝まで放送はしないんだって。だから、とても静か。電車の音しか聞こえない。
「ん……。電車、止まった」
今はどこかなと思って外を見てみたら、大阪駅とあった。ただ、もうほとんど電車は走ってないみたい。終電っていうんだっけ。もうそういう時間らしい。
『確か夜行列車の上りは大阪駅の後は朝までもう止まらないはず』
『リタちゃんもそろそろ寝なよ』
「あ、そうなんだ」
次に駅で止まるのは……四時間後ぐらい。そこまではノンストップ、なのかな? 途中で車掌さんの交代とかで止まる、みたいなコメントはあるけど。
それにしても……。夜の大阪駅。なんだか不思議な感じ。探検してみたい。
「…………」
『リタちゃんがわくわくしてる』
『だめだぞ。下りたら戻ってくるの大変だぞ』
『大変というか、普通なら無理だな!』
転移で戻ってこれないことはないけど……。そこまでする必要もない、かな? 夜の駅を見たいなら、また別の日に転移してくればいいだけだ。
今はせっかくなんだから、夜行列車に乗っておこう。それに、そろそろ寝ないとそれはそれでもったいない気もする。
ローブを脱いで、ハンガーというものにかけておく。これでよし。
『おや、そろそろおねむの時間?』
『もう深夜だしな』
『あまり見れないローブなしのリタちゃん』
まあ、あまりローブは脱がないね。結界の魔法とか付与しているから、ローブを着ているだけで安心感があるから。
でもさすがに着たまま寝るのも大変だからね。代わりに、お部屋に魔法をかけておこう。侵入されないようにする魔法と、攻撃を防ぐ魔法と……。
『ちょっとしたシェルターかな?』
『核シェルターよりも安全そうw』
核シェルターというのを見たことがないから、それはよく分からない。
ベッドに横になって、電気の操作盤をいじる。部屋を真っ暗にすると、外の景色がさらにはっきり見ることができた。ちょっとだけ星も見える。都会から離れたら、見える星も増えるかな?
「んー……。揺れが心地いい」
『不思議な気持ちよさがあるよね』
『ゆっくり寝るんやでー』
ん。ゆっくり寝る。
配信は……窓からの景色を映しておこう。それじゃあ、おやすみなさい。
『すやあ』
『さすがに寝顔配信はなしかw』
『電車の音を聞きながら俺も寝るか』
朝。日の出とともに目を覚まして、体を起こす。時間は……五時半ぐらい。
ローブを着て、朝ご飯とジュースを食べる。朝ご飯は、バラパンだ。
買ってきたバラパンは二種類。普通の、ミルク味っていうのかな。そういうのと、コーヒー味。食べ方は……ちょっとずつ引き裂いて食べればいいかな?
「もむもむ……」
『おや、リタちゃん起きてる』
『おはよー!』
『朝ご飯タイム』
「おはよう。朝ご飯。バラパン」
隙間にクリームがたっぷりと入っていて、とっても美味しい。手がちょっと汚れちゃうから、お手拭きとかもらっておくといいかも。
『もむもむ……くぴくぴ……』
『バラパン食いてえ』
『出雲市駅か……ちょっと遠いな……』
他だと買えないのかな? 美味しいのにもったいない。
窓からの景色は、ちょっとずつ明るくなっているところ。もうちょっとしたらすっかり明るくなって、いつもの日常が始まるんだと思う。
日本の人は、お仕事に行ったり学校に行ったり、だね。大変そうだけどがんばって。
「もむ……。ごちそうさまでした」
『あれだけいっぱいあったお菓子もお寿司も、全部食べちゃった』
『さすが暴食の魔女』
『美味しかった?』
「美味しかった」
それに、楽しかった。こういうのも悪くないと思う。また同じような乗り物に乗る機会があったら、是非乗ってみたい。大きいお船とか、楽しそうだよね。
景色を眺めながら、視聴者さんとおしゃべり。そうしている間に、外はすっかり明るくなって、そして列車は東京駅に到着した。
うん……。本当に、楽しかった。満足。
壁|w・)もむもむ……くぴくぴ……。
夜行列車編も次回で終わりです。





